マガジンのカバー画像

第2部

8
第29回~
運営しているクリエイター

#ジェンダー平等

【33】性役割を本気でなくそうとしたキブツの顛末(1)

 前回まではやや抽象的な話が続いたが、今回は男性性や女性性(も含めた人間性)が、いかに消し去りがたいものであるかを示す具体例をとりあげたい。  一般に「男女平等」とか「ジェンダー平等」というのは20世紀の後半から広まり始めた比較的新しい考え方だと思われている。しかし、実は20世紀の前半、これを真剣にやろうとした集団があった。イスラエルの農業共同体「キブツ」である。  私がこれを知ったのは、この連載でよく参照しているスティーブン・ピンカー著『人間の本性を考える』を読んでいたと

【34】性役割を本気でなくそうとしたキブツの顛末(2)

〔前回の続き〕  女性が存分に労働参加できるよう導入された集団保育制の方も長続きしなかった。1950年代以降この手法は次第に廃れていき、多くのキブツで子供は核家族に返されていったという〈注1〉。  前回述べたように、キブツは「未開の土地に理想の平等社会を作る」という熱意を持つ人々によって創設された。ヨーロッパから移住してきた初期のメンバーは未婚の若者ばかりで〈注5〉、地理的にも歴史的にも伝統や慣習から自由なはずだった。  にもかかわらず、そのキブツにおいてさえ性別による分

【36】ジェンダー平等、もう一つの道(2) 平等に不自由でいい

 前回触れたとおり、今世の中で「目指すべき」とされているジェンダー平等な社会像というのは主に以下の2つに集約されると思う。 ・性別に伴う困難のない社会 (「誰もが性別に捉われず自由に生きられる」「誰もが性別を理由に不利益を被ることがない」といったイメージ) ・あらゆる面で男女の不均衡がない社会 (「男女がどんな分野でも同じように活躍できる」「どんな分野でも男女比の著しい偏りがない」といったイメージ)  厳密にはどのような世の中を「望ましいジェンダー平等社会」であると見な