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2019/11/23 舞台「両面睨み節〜相四つで水入り〜」観劇

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公演タイトル:「両面睨み節〜相四つで水入れ〜」
劇場:座・高円寺1
劇団:劇団カムカムミニキーナ
作・演出:松村武(劇団カムカムミニキーナ)
公演期間:東京公演 11/14〜11/24
     大阪公演 11/30〜12/1
個人評価:★★★★★★★☆☆☆

【総評】
初めてカムカムミニキーナの舞台を観劇して思ったことは、兎に角役者一人一人がとても熱量溢れる演技をしていてとても感動したこと。みんな声が物凄く通っていて迫力を感じた。ラサール石井さん、八嶋智人さんといった著名な俳優の演技を生で観れて感激だった。そして大道具小道具のクオリティの高さ、こんなに多くの道具を作り出して凄いなというのと、ちゃんと世界観を手作りだと分かりつつも上手く作り出していて演劇ならではの良さがそこには詰まっていた。そして自分にとって一番観た皆があったと思わせてくれたのは、この作品全体が問いかけてくる「時間」についての壮大なテーマ。人類が辿ってきた歩みやどれほど時間が経っても普遍的なものってなんだろうという疑問に対する答えを示唆しているようでとても奥深く考えさせられる舞台だったのが非常に良かった。またカムカムミニキーナの芝居を見たいと思えた。

【鑑賞動機】
鑑賞動機は、劇団4ドル50セントの岡田帆乃佳さんが本公演に客演するからであったが、ラサール石井さんや八嶋智人さんなどTVでも馴染深い俳優が出演しているということもあり、初めて劇団カムカムミニキーナの芝居を観劇することになった。この「両面睨み節〜相四つで水入り〜」は、劇団カムカムミニキーナの第68回目の公演らしく、劇団の歴史の長さを物語っている点も魅力的だった。また何と言ってもインパクトがあるのが公演の本ビラ、太古の昔に登場する狩猟民族や百姓、マントヒヒたちが取り囲むのは泉、そしてこの泉は相撲の土俵にも見える、とても独創的で面白い本ビラだった。

【世界観・演出】
世界観はこの舞台の醍醐味の一つと言って良いだろう、そのくらい今作品の魅力の多くがこの世界観なしでは語れない。舞台は三方が客席に囲まれており、舞台の中央には丸く窪んだスペースが存在し、ここが泉になったり土俵になったりする。本ビラにも描かれていることからこの設定は舞台製作初期からあったのだろう。ステージの奥側には階段が存在し、大岩をモチーフにした大道具を階段の両サイドに置くことで王など権力のある者が登場するステージに見立てている。この舞台の世界観を作る上で一番目を引いたのが、一つ一つ手作りされた大道具、小道具たち。まず大道具についてだが、様々な形をした岩が舞台上に登場し、太古の神話の世界観を作り出していた。岩は役者たちが場転時に民族衣装をまとって泉に置いたり片したりするのだが、その光景ですらも絵になるシーンでもあった。滝や水の流れを表す薄青い布を使う演出も好きだった、こういった演出は太古の世界を表現する上でとてもマッチしていると思った。舞台終盤で登場する恐竜の作り物も非常に凝っており、役者が恐竜たちを操って登場してくるシーンは物静かで1億年前の地球を想像してしまうほど雰囲気のあるものだった。赤い布による流血表現、細い糸を使った一筋の光を表現する演出、ちょっと劇団四季のライオンキングを思わせる表現方法がとても印象的だった。小道具に関しても細かい作り物が兎に角多かった。棒を引くことで羽ばたくインコ、竜宮を思わせる空から降ってくる色とりどりの羽、弓矢、剣といった武器、多種多様な埴輪などとてもクオリティが高かった。衣装も非常に凝っていて、民族衣装は言うまでもなく特に目を引いたのがマントヒヒの着ぐるみっぽいもの、流石に製作はしていないと思うがとても存在感があって好きだった。また座・高円寺1という会場の天井がとても高いため、照明が舞台上を色々な角度から照らすことが出来てとてもカッコよく見えた。特に印象的な照明は、BGMが流れながら人々が踊るシーンの薄青い照明と、埴輪を照らす黄色いスポットライト。音響は、やはりテーマ設定が神話ということもあり太古の民族が使用していたと思われる楽器たちで演奏されたBGMで、木琴や笛をベースにした曲だった。それと、最初に座布団を投げるシーンがあって自分は最前列席だったので投げさせてもらったが、そういう参加型の演出ってとても良いと思った(上手く座布団投げられて良かった)。

【ストーリー・内容】
兎に角この作品のストーリーは難しかった、恐竜や埴輪、源義朝、トランプ大統領、色々な時代の象徴が時系列ごちゃ混ぜで登場するのでとても混乱した。テーマは時間、時間が経つことによって変わりゆくものはあるが、時間を経ても変わらない普遍的なものも存在することを描いた物語。ストーリーは、令和元年の両国国技館で行われる大相撲の夏場所、トランプ大統領などが登場するも、相撲行司の鹿森伊之助と看護師の緒方美和子、サラリーマンの銀田達夫はタイムスリップして縄文時代へ。そこでは、神と崇められてきた竜宮の声を聞いたという少女カムロがいたが、成長したことによって聞こえなくなってしまったという。それ以外にも沢山ストーリーの要素は出てきたのだが、上手くまとめ切れないので省略する。しかし断片的に話せば、太陽の光の差し加減から暦としていたという太古の知恵が出てきたり、王の威厳を保つためにわざと負けてくれと懇願する王とそれに答えようとするか迷う若者は、現代の大相撲の八百長に近かったりと、時代の普遍性を描いたストーリーが多い印象だった。

【キャスト・キャラクター】
どの役者も非常に迫力があってとても力強い演技が印象的だった。一番印象的だった役者はオンべを演じる藤田記子さん。開演前の座布団を配る際のアドリブ力、人々を笑いに誘う演技と台詞がとても際立っていた。カムロを叱りつける際に自虐している演技はとても面白かった。次に演出も兼ねているヒヒ役の松村武さん、着ぐるみのインパクトが相当あったが演技もとても力強いものを感じた。時間を司る超人的立ち位置にいて独白のシーンが多かったが、飽きさせず観客に想像を掻き立てさせる台詞回しが見事だった。そして何と言っても観劇前から気になっていた、ラサール石井さんと八嶋智人さんの演技、ラサール石井さんは野見宿禰(ノミノスクネ)という王の役だったが、どっしりと構えたとても威厳のある落ち着いた演技が印象的だった。八嶋智人さんは相撲の行司役だったが、とても陽気でひょうきんなキャラクターで八嶋さんらしい役柄であり、メガネをかけて出演している点も八嶋さんらしさがあって良かった。そんな大物俳優の中でも脇役ながら目立った演技をしていたと思うのが埴輪役の未来さん。髪先をカールさせて埴輪らしい衣装をまとった独特の雰囲気を醸し出す彼女の演技はとても魅力的で、少し歩いて立ち止まり台詞言い、また歩くという記憶に残りやすい動きをしていたことも相まってとても良いポジションで活躍されていた。そして劇団4ドル50セントの岡田帆乃佳さん、看護師役で薄いピンクのきっちりした服を身にまとっていたが、堂々とした芯の強い看護師を演じていて力強さが際立った。個人的にはもっと動きが欲しいなと思った。怪我人に寄り添う辺りなどはもっと真摯に向き合う演技をしてほしかったかなと思った。

【舞台の深み】
時間というテーマを通して、観客それぞれが色々な思いをめぐらせたことではないかと思う。自分はこの作品を観劇して色々思うことがあった。太古の昔、人類はまだ科学技術なんてものはなくて神話や言い伝えを信じていた時代、その頃は竜宮といった神々を奉って信仰しており、それが人々の生活にとって重要な意味を与えていた。嵐や災害も全部神々の怒りが原因だと思われていたので、お祈りや儀式がそれらを収める上で重要だと信じられていた。しかし、人類には知恵という武器があった。太陽が朝昼晩、春夏秋冬を通して光の差し方が変化することを利用して暦を作り、いつ太陽が昇り、いつ頃から季節が移り変わるか知ることが出来た。そうやって徐々に神々を超越出来るようになってきた。しかしそれは裏を返せば、神々の存在を否定し、神話や言い伝えを無視していくことも意味する。それを象徴的に描いたのがカムロの成長であり、幼少期は竜宮の声を聞くことが出来たが、大人になるにつれて聞くことが出来なくなった。現代に生きる我々はそんな先人たちの知恵から恩恵を受けて、神話がまったく意味を持たない社会で生きているが、タイムスリップすることでそういった事実を改めて再認識できたのではないかと思えた。また、時間が経っても変わらず普遍的なものも存在する、それが端的に言えば八百長であり、王の権威を維持するためにわざと負けてもらったりするし、現代の大相撲でも存在する。そこを上手く描写する令和元年夏場所と太古の一騎打ちをリンクさせるのはほんと見事だと思う。八百長を受け入れようとする若者に、必死で受け入れるなと説得する会社員銀田のやり取りは、真剣勝負をして実力ある人物が堂々と勝って欲しいという会社員の思いからで、彼は現代社会でサラリーマンとして働く中で真っ当な評価がなされない現実に耐えかねてそう説得したのかもしれないと思った。この作品は、とても考察のしがいがあって見応えのある作品だったのでもう一回観劇したいところではあるが、2回以上観に行けないことが残念だった。DVDは発売されるらしい。

【印象に残ったシーン】
印象に残るシーンは沢山ある。個人的に好きなシーンは、何と言っても太陽を活用した暦を読むシーン、あのシーンのなぜか先人たちの誇りを感じさせる雰囲気と光の糸が、神秘的なオーラをまとった場面へと創り出されていた。それと終盤で恐竜が沢山登場するシーンは、なんとも言えない物静かで迫力あるシーンが好きだった。黄金姫が滝で体を洗っている最中に竜宮と思しきものを見たというシーンも、万里紗さんの色気ある演技がとてもよくて印象的だった。そしてなんといっても、相撲をとるシーンは一番の見どころ。迫力があって良かった。

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