解説

描写あそび
お題「素直」

先日、といってももう一月近く前になると思うが、開催された描写あそびの拙作の解説。

お題の「素直」というのを聞いて1番最初に思い浮かんだのは
・自白
・ミスのない動作
以上のふたつ。
率直に合わせると、自白する犯人を誤動作の少ない銃で撃って始末する。というシーンが思い浮かぶ。

「話してくれてありがとう。さようなら」
私は撃鉄を起こして、引き金を引き絞った。
淀みなく吐き出された弾丸は、そいつを撃ち抜いた。

写実的。もう1つの風景をありのまま描いた形。
これをさらに面白く(ミスリード)させるにはどうしたら良いだろうか?

まず、真ん中の一行は要らない。緊張感と素直さを出すには良い文章だけど、今回あまり必要性を感じないのでカット。
あと最後の一行は完全に固定化させてしまうから変えよう。

いきなりセリフから、というのも悪くはないが、キャラクター性が見えて来ない。見えて来ないから発展性もない。
どこか狂気的なキャラがいい。喜んでるのが誰の目にも明らかだと、さらに発展性を感じる。
さようならは言わせない方が、やっぱり発展性を感じるし、情緒も出る。カッコ外にしよう。
吐き出された弾丸、だと固定化されてしまう。変えよう。


素直なのはいい事だ。実に気分がいい。最高だ。
「話してくれてありがとう」
さようなら。
素直な私の相棒は、鉛の塊を口から吐き出す。


出来上がったのがこれ。
これによって2つの可能性が出来る。

自白したスパイを処刑する瞬間。

二重スパイを罠にかけて自白させ、後ろからズドンとする瞬間。

では、解説。
最初の一行で狂気的な喜びが見て取れる。これによって待ちに待った瞬間が来たことが誰にも分かる。
表の口を破らない奴がやっと自白した、という開放感と、裏の頭痛の種だった二重スパイを炙り出せたという二通りの表現が可能になる。

セリフのさようなら。をカッコ外にする事で「話せば自由になれるぞ」という常套句を使ったのに始末した。という情緒あふれるシーンにも、次行でも解説する相棒への挨拶を口にしない。にも取れる。

最後の行。
素直な相棒。というのが、二通り解釈出来るようにした。まずは引き金を引けば必ず弾を撃ってくれる素直な相棒(道具)と、後に鉛の塊を口から〜と続ける事で後ろから頭を撃ち抜かれた素直に自白した(元)相棒。とも解釈できる。
ちなみに鉛の塊を、と書いたのは鉛の弾丸、にしてしまう事でびょうしとしては限定化されてしまうから。殺傷性を高めた弾丸は肉体を貫通すると変形して弾丸というよりマッシュルームとか花に近い形になるから塊の方が表現としては自然。かつ表だとしてもあえて弾丸ではなく塊と書く事で、ここまでの文章が直接的な表現をあえて避けているため自然な描写として捉えられるという利点もある。

ここまで直接書かない。ミスリードさせる。それでもどちらに捉えても過不足なく読める夜桜流の描写あそびのセオリーとなります。

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