ゾウの時間ネズミの時間 (あるいは「早く!」とは何倍速のことかについて)

一寸先は闇。未来のことはたとえ近い未来のことであっても、思いがけないもの。ということわざがありますが、新型コロナウイルスが、日々の生活や企業活動に与える影響がまさにこれで、本当に先を見通すのが難しい。

Funds社では、ちょうどシリーズBの追加ラウンドがクロージング間際のタイミングだったのですが、メンバーのがんばりと出資企業の非常時乗り切り力に助けられてなんとか4月終盤に着金しました。本当に良かった。

3月が始まった時点で、「1日でも早い着金と、ディールの確実性が1%でも上がるのであれば、あらゆる手を尽くそう」というイニシアチブを関係者で始めていたのですが、これもラッキーだったかも。その当時は新型コロナとか関係なく、前回の反省(前のラウンドの最終着金がぐずついて多方面にご迷惑をかけた)と、僕が単にせっかちだから、という理由だったのですが、こういった天災がふりかかってみると、「せっかちなことは良いことだ説」にますます確信がわいてしまいます。

楽天のクレド「スピード・スピード・スピード」や孫正義さんの「高速PDCA」を引き合いに出すまでもなく、起業家・スタートアップはスピードを重視する傾向が強い印象。けど、「早く早く」と急き立てられても、どのくらいスピードを出すべきなのかわからない、YOUの主観でしょそれ、ってなっているケースも世間一般では多そうなので、そもそもスタートアップはどのくらいのスピードであるべきなのか、今日は生物学からリファレンスを検討してみたいと思います。(え?)


ゾウの時間ネズミの時間(本川達雄; 1992)というクラシックな生物の科学読み物があって、そこには、「時間は体重の1/4乗に比例する」というルール(経験則)が紹介されます。哺乳類においては、おとなのサイズに成長するまでの期間、寿命など、ざまざまな時間のものさしが、体重の1/4乗に比例するという傾向がみられ、それは、日常の様々な活動の時間、例えば心臓が拍動する間隔、血液が体内を一巡する時間、タンパク質が合成されてから壊されるまでの時間などにも当てはまります。

この傾向を生み出すメカニズムについての考察は本を読んで頂くとして、はっとさせられるのは、時間は1日24時間で平等なのではない、ということですね。時計がチクタクと刻む時間は平等なリソースのようにみえて、ゾウにとっての1日とネズミにとっての1日は等価でないということです。

実はゾウの時間ネズミの時間を、スタートアップの時間と大企業の時間、と言い換えても成り立つのではないかと思います。

大きな動物がゆっくりと生きられるのは、それだけ効率的だからで、体重が10倍になっても代謝は5.6倍にしかならない(代謝=体重は3/4乗則)ことがわかっています。

大企業も、過去に築いた優位性をテコに大きく儲ける装置となったものが大企業なので、非常に効率的で、少々怠惰なおじさんが居ても悠々と儲けることができます。今回の新型コロナショックのような出来事も、スタートアップに比べればへっちゃらです(大型動物のほうが飢えにも強い)。

対してスタートアップは、人数がすくないので一人何役もしなくてはならず非効率ですし、寿命も短い(!)。せこせこと自転車を漕ぐような運営をしなくてはなりません。もし哺乳類の「時間=体重の1/4乗」則を組織にも当てはめるのであれば、30人の組織は3,000人の会社の3.2倍(100^(1/4))、3万人の組織の5.6倍(1000^(1/4))の速さで時間が流れていることになります。

よく、スタートアップのことをDog year (犬は1歳が人間の6歳分にあたることから6倍速の意)と言いますが、だいたいこの計算結果とも一致しますね。

つまり、「早く早く」って言うけど一体どこまでやんなきゃいけないの、って今日のお題については、大企業が1週間かかることは1日で、1ヶ月かかることは5日で、1年かかることは2ヶ月でやってね(決めてね)。というのが一旦の結論です。特に、作業そのものではなく、意思決定や仮説と検証を繰り返す速度については、個人的にもこのくらいのスピード感は納得感あるなと思います。(念の為、1年かかる製品を2ヶ月で作れという意味ではない、生物においても化学変化の速度までもが早いわけではなく、生命としてのサイクルが早いだけ)


ちなみに、「大きい動物のほうが効率的なのに、なんで自然界には小さな動物も居るの?」という疑問については、個体としては大きいほうが生存に有利だが、小さな動物のほうが1世代が短く個体数も多いため変化に適応しやすく、種としての生存はどちらが有利とはいえない。というのが結論らしいです。

大きいものほど、安定性があだとなり、環境の変化に対して新しいものを生み出しにくい。特に系統樹の始点は小さい種類から始まっていることが多く(たとえば霊長類であればリスほどの大きさからスタート)、産業の起こりを捉えるのはスタートアップ、ということもできそうです。

特に、今回の新型コロナウイルスによって不確実性が高まったタイミングは、小さいものによる下剋上のチャンスなのでしょう。「最も強いものでも、最も賢いものでもなく、最も適応するものが生き残る」ってダーウィンも言ってますから(本当は言ってないらしい

さあ今日も6倍速で生き抜くぞー。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?