【ライブレポート】2022.9.28/CRYAMY at 恵比寿リキッドルーム(時速36km&CRYAMYスプリットツアー東京編)

CRYAMYとその盟友である時速36kmのスプリットツアーが各地で今秋開催。CRYAMYのワンマンツアーのファイナルを目撃して、「もう今年はこれ以上のイベントはないだろうな」と思っていたところ、ほどなくしてこのツアーの開催が告知されました。数年前から小さなライブハウスでしのぎを削ってきた2バンドの、現状での集大成的なツアーになるのかな、と予想して、僕は東京公演のチケットに当選して足を運ぶことになりました。

結論から言って、尋常ではないライブを目撃しました。キネマ倶楽部で行われたワンマンツアーファイナルを見て、これまでの歴史の中でベストのライブを見た!と思ったのですが、それを上回るものをこの日、CRYAMYはたたきつけてきたと僕は思っています。恐ろしいことに、この一年を通してCRYAMYはすごいスピードで変化し、深みと迫力を加速度的に増して言っているのではないでしょうか。
曲数や演奏時間こそワンマンライブから半分以下、セットリストの構成や選曲も(新曲も込みで)珍しい流れで、表面上では決して彼らの本領発揮とは見えないのかもしれないですが、現地であの爆音を叩きつけられた身としてはこの日のライブは現状、CRYAMYのベストライブを更新した素晴らしいアクトだったと断言できます。

セットリスト

1.完璧な国
2.鼻で笑うぜ
3.crybaby
4.戦争
5.マリア
6.月面旅行
7.まほろば

MC

8.WASTAR
9.ディスタンス
10.GOOD LUCK HUMAN(新曲)

MC

11.世界(rearrange)

ライブレポート

エレファントカシマシの「ココロに花を」が流れるリキッドルームに大勢の人が詰めかける中、客電が落ちてお決まりの「disorder」からCRYAMYの面々が入場。もたもたとステージに現れたカワノさんは気の抜けた声で「へい、よろしく」とあいさつ。おもむろに歪んだギターのコードを鳴らし始めました。一瞬の静寂を、カワノさんの「今日は来てくれてありがとう」の声と、さらに強烈な歪んだギターが切り裂いて、一曲目の「完璧な国」でこの日のイベントは幕を開けました。普段は壊滅的なノイズとばたついたグルーブをもってトップギアでライブを開幕させることの多い彼らですが、この日は打って変わってCRYAMY史上最もポップで陽性のコード進行を持つミドルバラードから開幕を演じたセットリストに驚愕しました。しかし、カワノさんが自主レーベルでのインタビューで「このツアーはセットリストを曲被りなしで変えて臨む」とおっしゃっていたように、この変則的な構成でのセットリストはこのツアーならではの特別なものだったのだろう、と今では思います。
しょっぱなからメロディを次々とアレンジして、Cメロのタカハシさんの歌うパートではコーラスをかぶせるなど、この日のカワノさんは先ほどの気の抜けた表情からは想像もできないほど自由にライブを展開していきました。最序盤で演奏されたこともあり、最後のサビの潰れるようなシャウトもなく、美しく伸びる声はかえって新鮮で、今年の二月に同じくリキッドルームで見たCRYAMYのワンマンの時の、今にも消えてしまいそうなはかなさこそありませんでしたが、代わりに明確な力強さを持ったような演奏でした。

二曲目は間髪を入れずに「鼻で笑うぜ」。この曲の演奏中の時点でうすうす気づいたのですが、この日、CRYAMYの出番の音のデカさははっきり言って異常な程でした。体調不良で倒れる方が何名もいらっしゃったのですが、確かに僕も、CRYAMYの演奏が終わった後、めまいが止まらず、思わず後方に下がって座り込んでしまいたかったぐらいで、それほどにリキッドルーム全体が明らかにキャパシティオーバーな音で揺らされていました。それは彼らが意図して出したサウンドだったのかはわからないのですが、その異常なまでの轟音をもってして鳴らされる狂気じみた演奏と、その狂気をさらに上回るほどに絶叫し、即興でメロディを変え続けるカワノさんのボーカルが、二曲目にしてすでにライブハウスを異様な空気に包んでいました。アップテンポなナンバーに「待ってました!」と言わんばかりに客席がわいたのもつかの間、カワノさんが体を大きくよじらせながら、鋭い眼光をもって大声で歌詞にはない言葉をまくしたてていくにつれて(「俺はお前のことを何も知らねぇ!」とか。)その異常性に飲まれていくように客席の波は、盛り上がってはいるのですが、雰囲気としてはどんどん重苦しく、目をそらせないような空気に変わっていきました。僕はと言いますと、二曲目にしてすでに涙をこらえることができずに震えてしまっていました。

つづく「crybaby」、「戦争」、「マリア」と駆け抜けて、大きなブレイクの後、すぐにカワノさんの弾き語りから「月面旅行」へ。近頃ライブで演奏されることもめっきりと減ってしまった曲でしたが、ここにきて解禁。リリース当時、この曲は小さなライブハウスで繰り返し演奏されていたのですが、こうして大きなライブハウスで響く「月面旅行」は格別で、ひょっとしたらこういった大きな舞台で鳴らされることを運命づけられた名曲として生まれてきたのではないか、と感じさせられるほどでした。アウトロでのカワノさんのシャウトが圧巻で、フロアはそれを黙って、心から受け止めている、そんな雰囲気が、ツーマンツアーとはいえ客席の全員を飲み込む彼らのライブなんだと思います。

そして、ここまで一切音が途切れることはなくノンストップで流れてきたライブにおけるハイライトとなった「まほろば」。イントロのアルペジオの上で、カワノさんがおそらく即興の歌詞とメロディを紡ぎました。「愛してる、なんていうのは恥ずかしいから、今はこの歌で勘弁してね」と、そんな歌詞を、即興とは思えないほど美しくポップなメロディに乗せて、それを切り裂くように「ただ言葉足らずを許しあって」と歌いだしました。即興詞で「愛しているというのが恥ずかしい」と言い放ち、それを「許し合う」人間の関係を歌います。そして、ここがまたしても圧巻だったのですが、バンドインの前に「愛してるぜ」とフロアを指さして言ったんですね。カワノさんによくある急激な前言撤回と勢い任せのやけくそ具合に笑ってしまったんですが、次の瞬間には二度目の涙が流れていました。そうだよな、言えないけど、カワノさんが思ってきたことだもんな、カワノさんが踏み越えてでも伝えたいことだよな、と。そしてそれを受け取れることがただただ嬉しかったのです。
この時点で七曲を一切のストップなしで駆け抜けたからか、カワノさんは潰れんばかりのかすれた絶叫を響かせて、細く小さな体から全エネルギーを放出するように両手を挙げて、フロアに胸を開きながら歌を紡ぎました。アウトロのシャウトは轟音も相まってすさまじい気迫で、その気迫を一変も逃すことなく、怒涛の前半戦を〆ました。

緊迫した空気もあってか、拍手もまばらな中、MCへ。カワノさんがおもむろに、「しんのすけがすごく緊張してるから、出てきたら優しくしてあげてね」と一言。観客から少しだけ笑いが漏れて、ほんの少しだけ場が和みました。重ねて、東名阪ツアーを共に回ったスタッフ陣へのねぎらいの言葉をかけていました。ここでカワノさんが述べていた、「時速は家に連れて帰ってくれるバンドで、CRYAMYは家に帰らないやつのバンド」という言葉に妙に納得してしまいました。そこからカワノさんは長い話を始めます。
CRYAMYは冒頭にも書きましたが、常に変化をやめることがないバンドです。それは今年に入ってからの加速度的な急速なものに限らず、結成当初からリリースやライブを重ねるごとにしていった小さなものから大きなものまで含めると、もはや最初と今とでは別のバンドであると言えるほどです。カワノさんはバンドの歴史を振り返って、「最初は他人の鼓膜を傷つけることや、何もかも台無しにしてやることだけを考えていた」とステージ上で語っていました。しかし、バンドが進んでいくことで、カワノさんは自分の本当に伝えたいことをとらえることができるようになって、今のCRYAMYの形が出来上がっていった、と。
僕が「カワノさんらしいな」と思ったのは、彼がはっきりと「他人にやさしくしようと思って言葉をかけるなんて傲慢なことはしていない」「俺や、ここにいる俺と似ている奴は愛とか優しさなんてまっとうに受け取められる人間じゃない」ということをはっきり断言していたことです。カワノさんは前回のツアー初日のMCでもインタビューでも語っていましたが、僕らリスナーの捉え方を強制するわけではないでしょうけど、CRYAMYのロックを「優しい」と形容されることに非常に嫌悪感を抱いていることを明確にしています。加えて、前回のリキッドルームでは「俺はそいつを騙してでもこの瞬間幸福になってほしい」と声にしていたように、「#3」以降彼らが歌う人間への愛情というテーマにすら厳しい目を向けていることがわかります。
これはある意味で、良くも悪くも対バンの時速36kmとは相反する姿勢の一つだなぁと感じました。そのあたりを虚飾なくストレートに口にする時速36kmとは違い、CRYAMYは伝えることの表面上の言い回しは共通する部分こそあれど、その中身は「本当にそうか?」と自問に自問を繰り返した混沌とした苦々しさが延々と付きまとっていて難解です。彼らは共通する部分も多々あり、苦難をともに乗り越えてきた盟友ですが、カワノさんもこの日のライブで言及されていたように、二バンドは全く違うフィールドで戦っていくバンドなのだと、僕もハッとさせられたツーマンでした。
このように、カワノさんの取り扱う「愛情」「生きるということ」というある意味普遍的なのになぜか中身はカオス、みたいな状況が、この日は語り口の丁寧さもあって観客にも静かに伝えられていきました。最後に、カワノさんは「俺は人が人を思うことは美しく、正しいと思う」と、上記のように自分自身の歌にすら厳しい目と疑いをはらみつつもそれを歌うことをやめない理由を断言し、続けて、「俺が愛しているを歌えるまで待っててくれてありがとう」「俺に音楽をやらせてくれてありがとう」と言葉にしました。数年前、僕はCRYAMYに出会ってからこの日まで追いかけてきましたが、彼ら四人の紆余曲折や変化に振り回されたり、楽しませてもらったり、その日々を思い返すと、この言葉はどんなにうれしかったか、言い表せないほどです。

このMCのあとに選ばれた曲は、CRYAMY第二期の開幕を飾った「WASTAR」。強靭でストレートなメッセージ性を持った楽曲ですが、MCを通して伝えられたそれはより一層の説得力とパワーを持って迫ってきました。この歌で歌われる純粋な「愛」を受け入れられないであろうカワノさんやカワノさんに似た僕らですが、少なくともそれは「正しいことだ」と胸を張って受け入れられるのは紛れもなくこの日の彼らのライブのおかげです。その正しさを貫いて彼らはこれからも歌を届けていくのだと思います。

「WASTAR」のアウトロの轟音の中、カワノさんが一歩ステージから身を乗り出して、「一個だけいいか?」と絶叫。そこで吐き出された言葉で僕はまた涙を流してしまいました。

生きててすみません、じゃねぇぞ
生まれてきてすみません、じゃねぇぞ
そんなことはどうでもいい、生きててよかったのか、良くなかったのか、生まれてきてよかったのか、良くなかったのか、どうでもいい
どうでもいいんだよ、どうでもいいんだけど、俺は今日あんたが生きてここにきてくれて、嬉しいぜ!

今でこそそういうバンドも増えてきたり、時速の仲川さんもカワノさんの影響かそういう話を近年するようになってきましたが、カワノさんは昔から「人の生き死に」をちゅうちょなく発言してきました。そこには揺らぎや矛盾もありつつも、その姿勢は結成当初からぶれることなく一貫しています。カワノさんは「生きる」ということを決して肯定的にはとらえていなくて、「生きる」ということを言葉にする際はどこか謙遜したり嘲笑的だったり、「苦しみ」もセットになってぶつかっていくことが多かったです。それが今日、この日は「嬉しい」という言葉を使って吐き出されていました。「生きる」ことを肯定的にとらえたその言葉のエネルギーはすごくて、なにより、「生きててすみませんじゃねぇ」という、後ろ向きな人間が口癖のように発する言葉を徹底的に否定してくれるその姿で、僕は涙が止まりませんでした。
そして、そのMCの後、実に久々にならされた「ディスタンス」は圧巻でした。「#4」以降、おそらく何か意味があって封じられてきた曲でしたが、やはり僕にとってはCRYAMYと言えばこの曲なのです。「#2」という、CRYAMYのはじまりの一枚であり、カワノさんいわく「台無しにしていた」時間を最も多く過ごしたであろう五曲の最後を飾るこの曲は、間違いなくCRYAMYの生まれたばかりのエネルギーを最もピュアに内包した楽曲だと思います。ファズギターの悲鳴のような音と、それをかき消さんがばかりの絶叫をもってこの曲は鳴らし切られました。

ノイズが崩れ落ちるように途切れ、そこからカワノさんの弾き語り。歌われたのは、新曲「GOOD LUCK HUMAN」。アコースティックギターでの弾き語り構成での演奏は新代田で披露されていましたが、このツーマンツアーで初めて解禁されたバンドアレンジは、アンビエンスノイズとシンプルな2コードのリフを基準にしたツインギターの掛け合いを軸にした長いインプロを冒頭に置いた壮大な一曲に生まれ変わっていました。「世界」の中盤にみられる轟音のノイズと破綻したギターフレーズを軸としたパンク・ハードコア的なインプロビゼーションと違い、リバーブとディレイがふんだんに使われたドリームポップやサイケデリックに近いそれは美しく、その後に続く楽曲も非常に美しい言葉が続くロックソングになっていました。「暴力に憧れないで 悪意に魅力を感じないで」という歌詞はものすごい歌詞だと思っています。

長いアウトロのギターソロを終えて、カワノさんがメンバーにアイコンタクトを取って、ここで一連の流れが終了。最後に再びカワノさんが話し始めました。「苦手だけどどうしても言っておきたいから」と、対バンの時速36kmへの感謝を伝えていました。彼らからCRYAMYがうけた影響は、このツアーを密接に回ってきたからこそ小さくはなく、それが彼らの変化の一因にもなっているのだと思います。素晴らしい関係性だなぁとみていて思いました。
そして、最後にカワノさんはゆっくりと語り始めました。自分を守ってきた人間の話、その人間はあくまでとるに足らない存在だったこと、けどそのとるに足らない存在が自分をここまで生かしてきたこと、その積み重ねで拾った命は音楽でまた同じことをするためにあるということ。真摯に、ゆっくりと思いを伝えて、カワノさんは最後に「今日はあなたが俺の命で、あなたが俺の人生で、あなたが俺の世界!」と告げて、轟音を鳴らし、サビを絶叫してから最後の「世界」へ。10分以上に及ぶ、異常なまでの爆音での演奏を観客にたたきつけて、CRYAMYのライブは終了しました。

終了後、耳鳴りの止まらない頭にはうっすらと頭痛がしていて、心は憔悴しきっていました。果たしてこの後、無事時速がみられるのか…とか思いながら後方に下がりました。実際、この後放心してしまって、時速のライブは正直記憶にはあまり残っていません…。が、冒頭「サテライト」からスタートしましたが、以降はアップテンポなナンバーを軽快に鳴らしていて、さきほどまでのヘビーなライブとは対照的にファインな空気で場を楽しませていました。音像もCRYAMYと比べるとクリアでより歌に寄り添ったようなサウンドになっていて、正直爆音で具合も悪かったところだったのでよかったですし、すっきりと耳に楽曲が届いてきてよかったです。
ライブの雰囲気、メンバーのたたずまい、セットリストの構成、メッセージ性など、2バンドは終始対照的なライブだったのですが、終盤、仲川さんが「あいつらのライブを見て悔しいと思う」とか、「これからもいいライバル、いい友達でいたい」と観客に伝えていて、2バンドが互いにリスペクトをもって行われてきた、たがいに意味のあるツアーだったのだなぁと客席から見ていて感じました。客席もCRYAMYの時よりも全体的にわかりやすく盛り上がっていて、終始ハッピーなムードで終了。これで演奏の順番が逆だったと思うと恐ろしい…。いい流れのイベントでした。
しかし、僕はもう心持は時速のライブどころではなく、本編終了とともにリキッドルームを後にしてしまいました…。次は健全な精神状態でしっかりとライブに足を運びたいと思っています。

おわりに

すごいライブを見た、ということで大急ぎで記憶を言語化したのですが、本当にCRYAMYは加速度的に変わっていってますね…。ツアーを見るたびに進化していっているのが伝わってきます。新曲の思わぬ方向に舵を切った幻想的な演奏はまた新たな一面を彼らに付与するピースになったのではないでしょうか。

CRYAMYの四人にとってきっと転機となったツアーも残すところあと2本。僕は足を運べないのですが、きっと素晴らしいライブを見せてくれることでしょう。無事にツアーを終えられることを願っています。

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