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【ライブレポート】nine point eight presents 「松」

はじめに

昨日二枚同時でのリリースとなった、CRYAMYカワノさんの単独作品集について書いていきたいと思います。
昨日、リリースパーティーとして、時速36kmとTETORAよりそれぞれボーカルを招いてのアコースティックライブを開催して、この日より会場と通販限定での発売となりました。
ライブ後、二作品からそれぞれ「やってらんねー」と「SHELLY」のMVが公開され、また、youtubeアカウントも自主レーベル「nine point eight」のものが新しく作成されてのアップとなっていました。

ライブの模様

新代田FEVERの椅子有でのライブということで、整理番号順に入場。着席して開催を待ちました。新代田FEVERは先日のリリースツアーで初日を飾っていたり、それ以前にも重要な局面で会場に選ばれているCRYAMYにとっては縁の深いライブハウスということで何度か訪れているのですが、アコースティックで椅子有のライブ、という形態は初めてでした。

一番手は時速36kmの仲川さん。数年前によくCRYAMYとライブを共にしていた時期、よく見る機会があったのですが、最近は機会もなく、バンドとして、ではないものの、本当に久々に見ることになりました。カワノさんは彼らのことを「下北四天王」とか言いながら言及されていましたが、CRYAMYを見に行き始めた当時はたしかにキャリア的にCRYAMYよりも長くバンドをやっていて人気も既にあり、下北ギターロックの若手急先鋒、という位置づけで多方面から押されていた記憶があります。ですが正直、当時の印象は良くはなかったです。詞も曲も、わかりやすく所謂ナードを気取った青春ロック、的なイメージでした。というか、彼らに限らずですけど、当時CRYAMY周りのバンドってどうも肌に合わなかったんですよね。悪い意味でイマドキで器用な感じで、不器用さもクールさも破天荒さも計算のうち、みたいなバンドが多かったです。あと、キャラクター付のために過剰に歌詞性をデフォルメしていて迫力やリアリティ、説得力に大いにかけるというか…。ロックバンドのシリアスなかっこよさや強烈なメッセージ性、圧倒的なライブパワーを感じることができるバンドが一つもいなかった記憶があります。僕のバンドの好みにあわなかった、っていうところもありますが…。

そういうわけで、正直あまりいい印象はなかったのですが、結論から言うとものすごくいいライブでした。まず、歌がとにかくうまい。カワノさんもここ一年での歌への意識の高まりは尋常ではないものを感じるのですが、やっぱり好き嫌いの分かれる歌い方だと思うんですよね。一方で仲川さんの歌はカワノさんのような尖った癖がなく、さわやかな印象のトーンの声も相まって、素直に耳に飛び込んできました。系統は違えど、歌い手として彼も高い次元にいるボーカルなんだ、と思わされました。当時はもっと熱量高く歌い上げる印象を持っていましたが、この日はアコースティックライブということもあってか丁寧かつ実直な印象で、これまで持っていた偏見を反省させられる素晴らしいライブでした。

また、新曲群と思しき楽曲の歌詞も洗練されていて、随分と以前よりも地に足のついた、意志のある楽曲を作るバンドになったのだなぁと感じました。この日演奏された「サテライト」という楽曲をライブ後の帰り道で聴いたのですが、素晴らしい楽曲でした。MCやライブ運びも、数年前見た時よりも大人びていて、観客をわざとらしくもりあげるでもなく、ふざけるでもなく、あくまで自然体な姿でライブに対峙する姿勢がすごくよかったです。そして、とりつくろうことなくそういう素朴な姿のままで観客を巻き込んでいけるのはある意味でカリスマ的で、カワノさんのような鋭く圧倒されるカリスマ性とはまた違った、リスナーにやさしく寄り添って背中を押すフロントマンとしての資質を感じました。カワノさんがMCで「尊敬してるし、学ばされる」とおっしゃってましたが、おそらくそういう姿のことを言っているんだろうと思いました。そして、一方でそんな仲川さんも「カワノに歌もMCもステージングも影響されてきた」と話すなど、尊敬を惜しまない姿から、タイプの全然違う二人の間に確かにある友情を垣間見れたことも素晴らしい時間でした。

最後の曲ではマイクを通さずにカワノさんのギターを使って歌い上げ、観客にも手拍子を煽ってピースフルにライブが終了。CRYAMYとのツーマンツアーにも足を運ぶのですが、その日が非常に楽しみになった、素晴らしいライブでした。

二番手はTETORAのボーカルの上野さん。CRYAMYのツアーにも出演するなど、ジャンルは違えど親交が深い様子です。楽曲をほぼノーマークのままライブに臨んで、帰宅後に調べたのですが、どうやら彼女たちもサブスクをやっていない様子。ここら辺はCRYAMYとも共通する何らかのこだわりがあるような感じですね。

こちらも非常に優れたボーカリストで、一番手の仲川さんとは打って変わって特徴的な歌声でした。CHARAさんのような、というと少し違うのですが、独特のハスキーボイスが切なく、力強く歌われていました。歌詞もはっきりと意思表示をするものが多くて、ジャンルは違えど、カワノさんが好きそうだな!と感じさせられるまっすぐな楽曲たちでした。ライブのたたずまいもとても堂々としていて、コード進行も凝っていて、一歩間違うと淡々としてしまいがちな弾き語りでしたが通して展開のあるライブでした。

上野さんはMCで、この日出ていた2人のバンドとは親交が深く、その思い出と、この日参加できた嬉しさと感謝をひたすら語っていました。カワノさんいわく、かなり激しい打ち上げの席が出会いだったようで、「ひどい姿を見られまくったから嫌われてもおかしくなかった」とのことですが、上野さんはそれすらも「距離が一気に縮まった」と語っていて、ここでも仲の良さがうかがえてよかったです。

音源を入手する機会がなかったのですが、これを機にまたバンドの曲も聴いてみたい、と思えるライブでした。いずれバンドでの共演の機会があることを願っています。

トリはこの日主催のカワノさん。ふらふらとステージに出てきて、チューニングしたかと思えば「やりましょっか」と吐き捨てていきなり「やってらんねー」からスタート。先ほどの二人がかなり丁寧な印象のライブをしていたので忘れてましたが、カワノさん…っていうかCRYAMYってこうだよな、とちょっと笑ってしまいました。ぶっきらぼうで唐突。

あと、カワノさん、最近前髪がめちゃくちゃみじかくなってるので目線がよく見えるんですね。この間のシェルターのライブでも思ったのですが、その目っていうのがすごくて、ぐわっとにらみつけるみたいな、歌っていてそのテンションが目に反映される感じというか、それがよく伝わってくる。さっきまでの二人にはなかった圧迫感、緊張感が一気に伝わってくる一曲目でした。

二曲目は「ALISA」。ですが、冒頭いきなりコードを間違えて「ごめんねー」とへらへらしながらやり直し。これはアコースティックライブだからこそのゆるさですね。僕は刺すような視線で絶叫してるカワノさんも好きなんですけど、たまにこうして緩いところを見れるのはとてもうれしいです。

二曲目が終わって、そこからMC。カワノさんはこの日出演してくれた二人への感謝を話したのですが…それが長い、長い。多分トータル十分ぐらい話していたのではないでしょうか。最近のライブでは口を開くことがまれだったため、なおのこと長く感じてしまいました。普段彼が話す内容は、聴いているこちら側にも重く問いかけるような、本質的な内容の話が多いのですが、この日はそんなことはなく、ただ二人への感謝をひたすら述べていたように思います。カワノさんはこの日出演の二人から受けた刺激はとても大きかったようで、二人のことはミュージシャンとして尊敬している、と気持ちを伝えていました。あと、意外だったのが、カワノさん、「二人へ」って言って観客に拍手をさせていました。普段だったら拍手なんかできない空気をライブで出しているし、そもそもこうやって共演へのリスペクトをしっかり形に出すことをしない人なのでそちらも驚き。僕のまわりのお客さんたちも、そういう今日の会場の空気からか、こころなしか日頃の彼らのライブよりも気楽に、楽しそうにステージを見ていたのが印象的でした。

長い話を経て、カワノさんが「ふざけて作った中じゃまじめな方」と宣告して、ソロCDより「道化の歌」。カワノさんの楽曲にしては非常に珍しい明るいコード進行とポップなメロディで、それが展開に従って暗く沈んでいく楽曲でした。「道化になる」というのはカワノさんの中で一個のキーワードとして、日記やライブで頻繁に彼の口から取りざたされてきたワードですが、ここにきてそれを回収する楽曲がソロ作品にあるというのは大きな意味を持っているのではないでしょうか。この日のライブでは素朴な弾き語りに乗せたアレンジでしたが、CD収録の原曲はピアノの伴奏を主軸としたアップテンポではねるような陽性のポップソングになっています。歌詞の悲壮性をより際立てる、ほんの少し不気味さをはらんで。

「話過ぎたからもう最後」とカワノさんが語って、四曲目にして最後の曲へ。「優れた日本語の歌は、みじめな人生をかざることなくありのままで、なのに美しく奏でたものです」と告げて、サウンドクラウドのデモにて公開されている「GOOD LUCK HUMAN」へ。デモでも聞けますが、この楽曲はカワノさんの得意とする事実や真実を淡々と吐き捨てた歌詞とはまたキャラクターを異にしています。「君が飾った夕方」「錆びた地平を繰り返す」「天国の匂いのするシーツ」という、詩的な言葉回しをもって幻想的で浮世離れしたワードを並べながらも、「君といることはとてもうれしいんだよ」「さよならの四文字は随分前に僕が壊しておいてあげた」と、一気に目の前の人間への愛情に世界を帰着させる彼らしい歌詞が紡がれていました。

また、僕が個人的に刺さったのは「暴力に憧れないで」「悪意に魅力を感じないで」というフレーズです。先日のシェルターでのライブでも語っていた内容にもリンクするようなこの歌詞は、2022年現在の混沌とした社会を生きるすべての人たちの実存を脅かす悪意に対する反抗としての意味合いを、決して強い言葉を並べずに示しているように感じました。カワノさんは「音楽で人を救う」という確固たる意志をもってライブをやっている人ですが、一方で「音楽では何も変わらない」という諦念を抱えていることも隠さない人です。そして、前者の意志をもって後者の事実を打ち負かそう、と挑んでいる姿をこれまでも幾度となく示してきた人ですが、その姿勢が初めて歌詞として言語化された、素晴らしい一節だと個人的には思っています。カワノさんは正式な音源化に際して歌詞を大きく変更することをよくする人ですが、この歌詞だけは残っていてほしいなぁと個人的には願っています。

ステージを去ってしばらくした後、アンコールにこたえてカワノさんが再登場。「たいして歌わなくてごめんね」とか、「ネットに書くなよ」とか、へらへらしながら話した後、「体に気を付けて」「一生懸命歌います」と告げて、「WASTAR」。
この楽曲を弾き語りで聴くのははじめてだったのですが、バンドサウンドは疾走感と絶叫、というたたずまいなのに対し、アコースティックでは声やギターの強弱を巧みに操っていて、改めてこの楽曲の歌ものとしての強度と楽曲としての完成度を突き付けられるようでした。本編の緩い空気とは一転、迫力ある眼光と熱量を伴った歌声が、よい意味でいつものCRYAMYのライブのようでした。涙を流している方も周りにはいて、この楽曲は早くもCRYAMYの新しいアンセムとなっているのだな、と実感しました。

粛々と歌い上げた「WASTAR」のあと、共演の二人を呼び込んで、最後に演奏されたのはエレファントカシマシの「今宵の月のように」。少しグダグダな三人の演奏で終了。気まずそうなカワノさんが二人に頭を下げて、観客に手を振って、拍手とともに三人は去っていきました。

おわりに

この日のライブで二枚のCDを手に入れて僕は帰路につきました。道中で今作からそれぞれMVが公開。しっとりした弾き語りの映像と、サイケデリックでとことんコミカルなソロ作のMVの落差がものすごくて驚かされましたが、現在、その二作のCDを聴いて、どちらもよく作りこまれた作品になっていることに驚きました。

ソロでの作品リリース、と聞くとバンドと比べてキャラクターが乖離していることも多く、受け付けないものもいくつか思い浮かぶのですが、カワノさんのものは、サウンドや雰囲気こそバンドのものとは大幅に異なっていますが、どこかしらに彼ら示唆を全く損なわずに隠されていて、非常に絶妙なバランスで構築されています。むしろ、バンドと比べると気楽に聴けてしまうポップさを持った楽曲が多く、こちらを機にいる人も中に入るんではないだろうか、と思うほどでした。

数日以内にディスクレビューが書ければいいなぁと思っています。


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