義理堅いお客
筆者がとある専門店で勤務してた頃、馴染みの客がいた。
小さいながらも会社を経営しており、従業員からの要望に応えるためにと買い物にしばしば来店してくれた。
体型は5L。
背は160センチ位だろうか。
ガタイはいいが人懐っこく、店で発行しているクーポン券を集めて喜ぶさまは子供がポケモンカードを集めた時に見せる笑顔を彷彿とさせる。
たくさん買ってくれる上に筆者への対応もジェントルで、非常に大切なお得意様だった。
あるとき電話が鳴った。
前述のお客からだ。
「代々木さん、済みません。予約していた商品を今日取りに行こうと思っていたんですが、祖母がなくなりまして」
「え!? それは大変ですね。ご愁傷様です」
「はい。それでこちらの用が済みましたら行きますので」
「はい。大丈夫ですよ。ご丁寧にご連絡有難うございます」
わざわざ予約品を取りに来る日にちが遅れる旨を連絡してくるとはどんだけ律儀な方なんだろうと驚いた。
またそのときは、もの凄く周りが静かなところからの着電だなと感じた。
その後しばらくすると、また常連で通ってくれた。
自分の経営している会社の従業員を連れてきてくれたりもした。
交友関係も広く、他のお客さんを誘ってくれたりもした。
だがまた予約注文をした商品もあるのに、しばらく音信不通になった。
そんなある日、そのお客の友人でもある別のお客が筆者あてに来店した。
「いやぁ、代々木さん……今回来たのはさあ、アイツから伝言を預かっててね」
「はい……?」
「アイツもいろんな事やっているからね」
「ええ?」
「実はパクられたんだよ、アイツ」
「へ!?」
「だから注文した商品を受け取りに行けないから、キャンセルしてほしいんだって」
「えっえっえ? は、はい……」
「代々木さんにお詫び言っといてくれって。面会に行った時に言ってたわ」
「…………」
たとえ捕まっても礼儀は通す。
その男気に筆者はただただ感心するばかりであった。
つづく。
※写真はフリー素材サイトぱくたそさんから借用させていただています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?