2020.6.11　お誕生日おめでとう

それぞれ片方を見失い、左右違う色のスリッパを履き続けて1週間が経った5月末、娘が1歳になった。ケーキやごはんや花が並び、保育園で作ってもらったショートケーキの帽子をかぶせられた娘は、ずっとニコニコして「アーッ！」「キャッキャ」とか叫んでいる。満足にまだ話もできないが、自分が主役だということはわかるらしい。時々椅子の上で立ち上がっては、仁王立ちでドヤ顔していた。その風情、天上天下唯我独尊。そう、世界は全部君のもの、だから好きにやりなさい。

娘が素手でケーキを貪り食べている時にも、私は左右違う色のスリッパを履いていたし、何なら今も履いている。見失ったそれぞれ片方のスリッパのありかは何となく分かっている。おそらくベットの下に入り込んでいるか、息子のおもちゃ箱に紛れ込んだか、納戸のどこかに置いてあるのだろう。

探せばすぐに見つかるのかもしれないが、その前に、ドロドロになっている息子の靴を洗わなければ。娘の予防接種の申し込み用紙を書かなくては。そろそろ息子にピアノを買いたいから調べたいし、娘の離乳食の作りきもしておかないと。あと仕事しないと。仕事をする限りはちゃんとやりたいし、一緒に働く人たちが健やかでいられるように努力したい。社会に参加してることの威力ってすごいからな。あとは弔う者としての役目を果たしたい。一周忌って何したらいいのか全然わからないけど。それから、何をするにも自分が健康で元気なのが一番だと思うから、ちゃんと自分のことも癒したい。贅沢なマッサージに行ったり、人間ドックに入ったり、良い物語を見たり読んだり、静かな湖畔の森の陰に佇んだりしたい。パーッとビールも飲みたいし、カラオケも行きたいし、キレイな色の服とかも見たい。

いや取りあえず、今日が注文締め切りだから、まずは生協の注文だ、と思ってPCを開いたが、何を注文していいのか分からなくてそのままぼーっとしていた。優先順位がぐちゃぐちゃになった家の中で、私は今日も左右チグハグなスリッパを履き続けている。このまま画面を見つめていたら３Dアートみたいに、何を注文したらいいか浮かんでこないかな。来週は暑くなるから、牛乳を1本多めに頼んだほうがいいよ、とかね。

私が優先順位を見失う反面、娘の毎日はめちゃくちゃにシンプルだ。ご飯は美味しい、ママが近くにいないと嫌。お兄ちゃんが食べているものはいつも気になる。音楽が鳴れば踊っちゃう、苺はめっちゃ美味しい、お花はキレイ、みんなが笑ってたら楽しくなって笑っちゃう。自分で立てた！ドヤ！

トイレットペーパー残ってたっけ？確認しようと立ち上がったが、急に面倒になってそのまま寝室に向かい、ベッドで寝ている娘の横に寝転んだ。娘の頬っぺたをフニフニと触ったら、エヘエヘと笑った。まだ一度も切ったことがない、フワフワの髪の毛から赤ちゃん用シャンプーの甘い匂いがする。

娘ちゃん、ありがとう、ごめんね、そして1歳のお誕生日、おめでとう。