SOA Exam LTAM–Long-Term Actuarial Mathematics対策でやったこと

【まとめ】
・LTAMは日本ア会でいう生保数理。ただし確率論的な理論構成が中心。
・選択問題のほか記述式の問題があり、他のASAの試験と比して難易度が高いと考えられる
・計算量が多く、試験時間4時間15分にも関わらず時間との勝負

受験時期

・2019年10月下旬(2019Fallの回)

受験時の前提知識

・日本アクチュアリー会正会員、CERA保持
・TOEIC 825
・Exam P, FM,STAM取得

勉強時期・総時間

・2019年8~10月いっぱい
・200〜250時間程度

勉強教材

・SOAのHPで公開されている過去問
・Coaching Actuariesが公開しているFormula Sheet
・Coaching ActuariesのAdaptによる到達レベルの確認
教科書等は特に買っていませんが、日本ア試験とは流派が少し違うので、もしかしたら必要となる方もいるかもしれません。

シラバス(試験範囲)について

 この科目は、日本アクチュアリー試験でいう生保数理にあたる試験で、6,7割以上は日本の内容と一緒です。なお、シラバスには”6. Topic: Pension Plans and Retirement Benefits (10-15%)”という分野がありますが、中身はほぼ生保数理であり、日本ア試験の年金数理の内容ではありません。

Spring 2020 Syllabus with Learning Objectives/Outcomes and Readings 
https://www.soa.org/globalassets/assets/files/edu/2020/spring/syllabi/spring-2020-exam-ltam-syllabi.pdf

 ただし、LTAMでは生保数理を確率論的なとらえ方をしています。特に基数は一切出てきません。たとえば、保険金額b、予定利率i(割引率v=1/(1+i))、x歳の被保険者の終身保険の純保険料Pを求める際は、
  Tx: x歳の被保険者が死亡するまでの期間の確率変数
  L:=b*v^Tx - P*a_{ ̄Tx |} : 将来における収支(確率変数)
としたとき、E[L]=0となるP、という求め方をします (上記a_{ ̄Tx |}は確定年金のつもりです)。

 日本ア会の試験で基数計算に慣れ親しんだ身としては、最初はこのギャップに驚きましたが、保険料も責任準備金もロックインであり、収支相当といった基本的な考え方は一緒なので、すぐ慣れると思います。

 また、日本の試験と大きく違う点としては、収益検証(Profit tests)が試験範囲に含まれるところです。費差・利差・危険差損益の3利源の分解といった内容も含まれます。(個人的にはかなり好きなポイントで、負債評価がどのように期間損益に影響するかよく理解できる部分だと思います。問題を解くうえでは、公式を覚えるだけではありますが)

 さらにLTAMは、Lee-CarterモデルやCBDモデルといった、死亡率改善モデルもその試験範囲に含まれます。問題を解く上ではこれも公式を覚えるだけで事足りてしまいますが、それでもこれらが試験範囲に含まれることは注目に値するかなと思います。

試験の形式について

 LTAMは今まで紹介した試験の形式とは異なり、CBTのテストセンターで受験する試験ではなく、通常の試験会場で受ける試験となります。

 試験問題は前半の5択問題(Multiple-Choice)と後半の記述問題(Written-Answer)に分かれています。前半の5択問題は通常20問出題され、配点は各2点です。後半は記述式の試験で56点分出題されます(合計は100点じゃないんですね。)。また、後半は大問6つ程度で構成されていることが多いです。

過去問はこちらから見られます。Spring2018以前はMLCという試験科目名なので留意してください。
Past Exams and Solutions
https://www.soa.org/education/exam-req/syllabus-study-materials/edu-multiple-choice-exam

 後半の記述問題では、"Show your work"と指示があるように途中式も評価の対象となるようです。もちろん全て英語で解答する必要があります。とはいえほとんど数式なので、"We have.."とか"Therefore..."とかたまに使う程度なので、心配する必要はありません。

 ただし、数点分ではありますが説明問題がある場合があります。例えば2019Fallでは「販売チャネルによって死亡率や費用率の前提を変える必要がある理由を説明せよ(2点)」という問題がありました。もし捨て問にしないならば、例えばadverse selection(逆選択)といった保険業界固有の単語はある程度勉強した方が良いような気もします。

 また、他の試験は合格水準は7割と明確なのですが、この試験は毎回合格水準が変動するようです。試験結果を眺めてみると、どうやら合格率が40~50%になるように合格点が変動しているように思います。ちなみに私が受けた2019Fallの回は、自己採点が60点程度でGradeが7だったので、おそらく55~58点くらいが合格点だったと思います(Grade6が合格最低基準)。

(なお、私は試験中まで7割が合格水準だと勘違いしていたため、本番で70点分しか解答できなくて、落ちたと勘違いして涙目になった思い出があります…。)

合格水準へ到達するための作戦

 基本的な作戦としては、前半は満点、後半で力と時間の限り得点を稼ぐ、というものになると思います。

 前半の5択問題は、他のCBT試験のようにパターン問題がほとんどで、難易度のばらつきも少ないので、ちゃんと対策すれば全て正解できるようになると思います。少なくとも20問のうち16問は正答したいところです。

 問題は後半で、これは毎回なかなか手ごわい問題が出ます。しかも記述式ということで結構ビビりますが、問題をよく見ると「保険料が○○となることを示せ」といったように、解答となる数値が示されている問題がそれなりにあります。これを取りこぼさなければ20点くらいは確実に得点できます。

 また「数値が○○となることを示せ」という問題の○○の数値は、その問題が解けても解けなくても、次の問題以降に使用することができます。つまり、大問の誘導の初期で躓いてそれ以降の問題が芋づる式に全て不正解になる、という心配をする必要はありません。

 そして全体に言えることですが、とにかく時間が足りません。4時間も試験時間があるのに。なので、時間がかかってしまいそうな問題を見極める眼を持つことも重要だと思います。

勉強方法について

 SOAのWebサイトには過去問はありますが、サンプル問題は特に用意されていません。したがって、今回もCoaching Actuariesを利用することにしました。 ただしCoaching Actuariesでカバーされる範囲は、前半のMultiple-Choiceだけで、後半のWritten-Answerはカバーされていません。(Coaching ActuariesについてはIFMの回で書いているので、下記をご覧ください)

SOA Exam IFM: Investment and Financial Markets対策でやったこと
https://note.com/youkun510/n/n54865976d963

 私は生命保険会社のアクチュアリーとしての無駄なプライドもあり、Coaching ActuariesのEarned Levelは7まで上げ、本番も前半は20問全て解答しました。

 一方、受験勉強中は後半をどのように対策するか迷ったのですが、前半が十分に対策されていれば後半も十分対応できると信じ、過去問を数回分解く程度でその他は特に何もしませんでした。

 結果、なんとかPassしたのですが、今思うと、なんでもいいので練習問題を探して買っておいた方が良かったかなと思います。というのも、後半の問題では、前提が"よくあるパターン"からすこし外した設定であることが多く、公式を覚えるだけではない「本質的な理解」的な何かを求められていた気がしたからです。

まとめ

 いろいろと書きましたが、日本ア会の試験を経験しており、Coaching Actuariesで十分対策していれば、合格水準に達するのはそれほど難しい話ではないと思います。一方、SOAのLTAMが人生初の生保数理という状況であれば、まずは教科書をあたる方が良いと思います。

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