監査法人にいる監査・コンサルティングをするアクチュアリーって、何者?

たまにアクチュアリーの業務紹介記事とかエントリーとか目にするのですが、保険会社・信託銀行にいるアクチュアリーについてはぼちぼちいい感じに書かれているものの、監査法人にて業務を行っているアクチュアリーについては、少し解像度が低いような印象があります。

中途や新卒採用の方と採用インタビューさせて頂くときに、我々の方から、監査法人にいるアクチュアリーって何をやっているのか、保険会社にいるアクチュアリーとの主な違いは何か、そしてそのやりがいは何か、というところを簡単に説明する機会が多いので、ここではその内容について簡単に書いてみようと思います。

なお、筆者はコーポレートカラーが虹色の架空の監査法人にて、生命保険アクチュアリーとして日々監査・コンサル業務を行っている人間と仮定してもらえればと思います。(つまり、当記事の内容は個人の見解であり、実際に所属する組織とは関係ありません)

また、記事の内容は基本的に生保・損保アクチュアリーに関連する内容が中心になりますが、ファームによっては年金アクチュアリーとして活躍されている方もいらっしゃることを付言しておきます。

監査法人にいるアクチュアリーってなにやってるの?

監査法人にいるアクチュアリーの業務は、主に①監査業務と②アドバイザリー業務(コンサル業務)に大別できます。

①監査業務

監査法人と言えば監査、みたいな印象をお持ちの方は非常に多いと思いますし、実際にコアな業務として日々取り組んでいます。

監査先は保険会社のクライアントが大半でありますが、監査の中心は会計士のチームとなります。アクチュアリーとしては専門性が高いところ、特に保険負債の確認を行うことが業務割合としては多いです。

いわゆるサンプルチェックのような確認作業的な業務も多くありますが、会計基準の解釈や実務への落とし込みの確認などといったところでも、アクチュアリアルな観点から検討を行うことも多くあります。

②アドバイザリー業務(コンサル業務)

もう一つはアドバイザリー業務で、いわゆるコンサル業務と呼ぶところになります。こちらの業務範囲は基本的には何でもアリレベルで広く、プライシングや決算業務や月次業務といった伝統的な保険数理関連業務のほか、各種会計基準・経済価値関連指標の理論整理・測定プロセス構築やM&Aにおけるデューデリジェンスなどなど、ありとあらゆる業務範囲でサポートをさせて頂くことがあります。最近は気候変動関係やデータ分析に関するプロジェクトもアクチュアリーのチームで承ることが増えてきているように思います。

業務範囲はとにかく広いのですが、監査先のクライアントに対しては、独立性の観点からアドバイザリー業務の提供ができないという制約があります。

保険会社にいるアクチュアリーとの違いは?

もちろんこれは個人的な感覚ですので、もしかしたら人によって、もしくはファームによって、大きく異なる可能性があることをご了承ください。

①クライアントワークである

保険会社内にいるアクチュアリーは、基本的に同じ会社内・部署内にいる上長に対しレポーティングを行っていますが、監査法人にいるアクチュアリーは監査でもアドバイザリーでも、社外のお客さま(クライアント)のために業務を行います。そして、クライアントとプロジェクト毎の契約書によって業務の範囲と報酬を予め定め、その元で業務提供をさせて頂くこととなります。

保険会社でも当然にタスクの割り振りは行われていますが、契約書と報酬のセットという形ではさすがにありませんので、この意味では、業務完遂という点でまた異なるタイプの責任が生じていると考えてよいと思います。

また、クライアントワークである以上、当然のことながら業務の受注がないと実際の具体的な業務を行うことはありません。例えばIFRS17に関わりたいと強く希望していたとしても、タイミング等でIFRS17に関する業務依頼がちょうどなかったりすると、すぐ関わることは難しいケースも考えられます。

②比較的短期間のプロジェクト単位で業務を行う

特にアドバイザリー業務についてですが、プロジェクト期間は概ね3~6ヵ月程度が多いです。もちろん1年以上続くものもあれば、すごく短期で完了するものも中にはありますが、だいたいは数か月です。

例えば、IFRSについて理論整理をやったと思った矢先、プライシングの収益検証サポートに関わったり、同時にICSやESRの効率化プロジェクトに関わったりと、分野の振れ幅がある程度大きくなることもあります。また、似たような目的のプロジェクトでも、お客さまが異なれば事情も大きく異なります。複数のプロジェクトをかけ持つこともあります。

従って、幕の内弁当のように(実際の一個一個のプロジェクトは一口おかずのサイズ感ではないのですが(!))、広い範囲の業務をたくさん関わるケースが多いです。これは、一般的に部署移動が2,3年の保険会社とは、業務の振れ幅という観点で異なる特徴と思います。

③アドバイザリー業務の場合、業務自体はあまり変わらない

違いは?というタイトルのくせして、違いがありません、という記載になっているのはちょっとアレですが、アドバイザリーにおける業務内容は、保険会社にいるアクチュアリーが行う業務内容とあまり変わりません。保険会社から転職された方が、この点でギャップを感じることは少ないと思います。

もちろん、例えば何かの数値や算出プロセスのレビューを行うといった性質のプロジェクトであれば、社外の組織の関与が必要になるケースもあるので、立場が違うという点で特有と言えば特有ですが、その中で何か検討しなければならない技術的な論点といったところは、アクチュアリーとして共通の思考になると考えられます。

④営業をするという概念がある

クライアントワークですので、まずはお客さまからお仕事のご依頼を頂戴しないと何も始まりません。したがって、常にお客さまの先々の状況を勘案して、ご挨拶に赴いて「このような業務も承れます」とご提案させて頂くこともありますし、逆にお客さまの方からこれこれこういうプロジェクトをやりたいということで相見積もりのご依頼を頂くこともあります。

ただし、これは一定以上職階の人("マネジャー"とか付く人)が考えるもので、ジュニアの職階の方はあまり気にしなくていい内容になります。(もちろん意識してもらうのはとても重要なことですが)

また、部署や職階によっては個人単位での売上目標も存在するケースが多いと考えられます。ただし、組織のリソースや技術レベルを無視して、無理やり獲得したプロジェクトを行うことはファームとしても非常に高いリスクが存在するため、その点のコントロールは組織的に慎重に行われることが一般的と思われます。

やりがい的なもの

ぜひ前向きなことを書いておきたいなと思うので、コンサルを行うアクチュアリーとして個人的にやりがいを感じるところを書き留めておこうと思います。

我々は普段、アクチュアリーという専門性をもって業務提供を行っていますが、クライアントもアクチュアリー分野の専門家であるという、大きな特徴があると考えています。専門性をもって業務を行うという点では、医者や弁護士等と共通するところはあると思いますが、個人単位では、ベースとなる基本的な知識や経験という点では、お客さまと段違いであるということはあまりありません。(なお、一般的に監査法人やコンサルファームの強みとしては、組織として多くのお客さまと業務を行った経験があるので、そこから一般化される(グローバル単位の)業界知識や動向の理解といったところにあると思われます。)

従って、例えば効率的に作業が行えなかったりした場合でも、お客さまもある程度業務に関する感覚を持っているため、誤魔化しは全然効かないという大きな特徴があると感じています。(まぁ、他の専門職は誤魔化せる、ということを言うつもりもありませんが・・)そして、これに上記の契約書の存在による別の責任感が掛け算されると、なかなか気持ちも変わってくるような気もします。

こう表現するとなんだか大変そうな印象も受けるかもしれませんが、逆に言えば、こっちが頑張って力を入れた内容について、正当に評価される可能性も高いと言えるのではないかと、私は信じて業務を行っています。つまり、業務の質が満足度に直結しやすい状況なのではないか、と考えています。そして良い業務ができれば評判も上がりますので、次回以降お声がかかりやすくなり売上にも繋がる、という好循環になるとベストだと思っています。(ただし、その逆もあり)


いかがだったでしょうか?
会社によっては、普段あまりコンサルと関わることが多くないところもあるかもしれませんが、特にこの記事で、監査法人にもアドバイザリー業務(コンサル業務)がたくさんあるということが伝わればいいなと思っています。
そして監査法人におけるアクチュアリー業務にご興味があれば、ぜひお声かけ頂ければと思います。お仕事のご相談もぜひ。

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