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ロータリー編

 駅前のロータリーはもはや居酒屋である。駅ごとに特色があり、皆がその駅のキャラクターを演じている。俺はしばしば路上演劇を観ているような錯覚すら覚える。その劇の登場人物になることが、豊田道倫言うところの「街の男」になるということなのだろうか。

 とはいえロータリーは市民の憩いの場である。大酒を喰らい自我を無くし、大声を出してシラフの方々に無駄な緊張感を与えるようなことがあってはならない。赤ちゃんが泣き喚くのとおじさんが酔っ払って喚くのはワケが違うのである。

 吉祥寺駅で時間を持て余した俺は、北口のロータリーへ入り、お子様連れがいないかよく確認してから正月気分も抜け切ったこの時期に不似合いなクリスマスツリーの裏側のベンチにちんまりと腰掛けた。

 黒ラベルを開け、あたりを見渡す。日中ということもあって、パソコンを睨めつける会社員風の男が一人と、外国人風の女性二人組がいるだけで閑散としている。スリルはないが、平和でいいロータリーである。

 吉祥寺駅のキャラクターは如何なるものか。バンドマン、絵描き、小説家、なんとなく下北沢に多摩の成分を注入して幾分マイルドにしたもののように思える。生粋の多摩っ子である俺は本を開いて自分の中の吉祥寺のキャラクターを演じて黒ラベルを傾けるのであった。

じゃ、また。

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