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女子プロレス団体「ディアナ」の提起した裁判について

第1 はじめに



実に3年以上振りの投稿となります。

昨年来からいくつかの女子プロレス団体において、試合中の選手の臀部や胸部、股間などを強調した性的画像を接写してはX(旧ツイッター)にアップしたり、Youtube上で「お尻選手権」などと称し、会場で接写した画像をアップする輩が現れ、当該撮影者が特定されて興行への出入りが禁止されたり、被害に遭った団体や選手個人が当該撮影者らを提訴するといった事象が発生しています。

試合中の写真を撮ることの多い一女子プロレスファンとして、このような事態を注視しておりましたが、このたび女子プロレス団体「ディアナ」が件の輩らを提訴したとの報に接し、わたしは第1回期日の翌日である令和6年3月14日に東京地裁に赴き、当該裁判記録を閲覧して来ました。

第2 裁判記録の閲覧?

まず本題に入る前に、そもそも訴訟の関係者でもない人間が他人の裁判記録の閲覧なんて出来るの?という至極真っ当な疑問が思い浮かびますが、これについては民事訴訟法91条1項がそれを許している、ということができます。

民事訴訟法91条

これによると訴訟記録の「閲覧」(えつらん=見るだけ)であれば訴訟関係者でなくても誰でもできる一方、「謄写」(とうしゃ=コピーを取ること)ができる者は事件の当事者やその代理人、若しくはその裁判に直接的な利害関係を有することを疎明できる者に限られることになります(民事訴訟法91条3項)。

したがって、そのような利害関係が無い私はあくまで「閲覧」ができるに留まります。

裁判記録の閲覧は比較的容易です。
今回の訴訟の舞台となった東京地裁の場合、霞が関にある東京地裁の14階の「記録閲覧室」に行き、申請書に記入することで誰でも記録を閲覧することができます。その際の注意点としては、収入印紙150円と印鑑、本人確認資料(免許証など)が必要なのと、12時〜13時は申請や閲覧ができないこと、及び申請から記録閲覧まで30分〜1時間くらいの時間がかかることくらいです。

申請書には「閲覧」「謄写」とあるので「閲覧」に丸をし、閲覧目的は「調査のため」、事件との関係は「第三者」で良いと思います(わたしはこれで通りました)。

しばらくすると分厚い訴訟ファイルの原本がドサっと渡されますから閲覧室で読みます。あくまで閲覧ですからコピーはもちろん、写真で記録を撮影したり動画を撮るのもNG。ましてや記録を室外に持ち出すことなどもってのほかです(メモを取る程度はOK)。閲覧時間は30分と書きましたが、記録はかなり分厚いので1時間くらいは必要だと感じました。

刑事裁判とは異なり、民事裁判の第1回期日は原告代理人が出廷するのみで事件の詳細が法廷で披露されることは無いことが殆どですから、傍聴しても訴訟の詳細は分かりません。被告側も答弁書さえ提出すれば出廷する必要もないため、実質的な審理は行われず、次回期日を決めるだけになりがちです。ですので早急に事案の内容を把握するため閲覧に及んだという次第です。

第3 事案の概要

原告(訴えを起こした側)は法人としての団体と所属選手1名の計2名。これに対し被告(訴えられた方)は2人の男(兄弟)です。裁判の対象となったのは2023年4月〜5月の撮影行為であり、当初は兄が撮影・アップしていたものの、マークされ注意され始めると弟が別アカウントで投稿し、それを兄がリポストしていたこともあったようです。同居している兄弟であり身分関係にあることから、2人して性的画像をアップすることが共同不法行為にあたるとの主張がなされていました。

わたしが閲覧して数えた限り、彼らがXにアップした写真が200枚以上証拠提出されていたほか、原告となった所属選手自身はもちろん、原告に加わっていない所属選手2名や団体スタッフも、彼らに対する嫌悪感、不快感を陳述書という形で証拠提出していました。

訴えを起こした原告以外の所属選手についても被害写真がアップされていたため、その写真が証拠提出されており、彼女らも原告に加わりたかったみたいですが、彼女らの陳述書によれば未成年であり親の同意が必要なため、こんな写真が撮られていることが親に知られたらプロレスやめなきゃいけないとの思いから泣く泣く諦めたり、未成年であるが故に大人達と争いになることを恐れた結果、原告に加わわらなかった人もいるようです。

請求額はディアナが約624万円、所属選手個人が220万円。所属選手個人の請求が、不快な写真がアップされた精神的苦痛に対する慰謝料及び弁護士費用を損害としているのに対し、ディアナの請求は、日頃大会運営やPRを委託している先に、今回の被告らの撮影行為に対する対応をも委託することを余儀なくされ、それに対して支払った対価を損害としています。

第4 選手のプライバシー

この訴訟の原告や関係者には本名を公開していない選手もおり、訴訟を提起することによりその選手らの本名住所等のプライバシーが侵害されるのではないかと心配する向きもあるかと思われますが、誰でも記録が閲覧できる制度があることも踏まえ、あらかじめ原告代理人から選手のプライバシー事項について秘匿決定の申立がなされており、裁判所もそれを許可したことから、原告その他選手については本名や住所など一切のプライバシー事項が裁判記録から除外されており、閲覧者に漏れることはありません。

第5 今後について

わたしは第1回期日を傍聴したわけではありませんが、傍聴した方のポストを見る限り、やはり被告らは出廷しなかったようで、意外なことに代理人も選任せず答弁書の提出もなかったようです。このまま次回まで何もなければ「争うことを明らかにしないものとしてこれを自白したものとみなす」という民事訴訟法の規定により請求認容の判決を受けることになりますが、まだ期日まで時間がありますのでどうなるかは分かりません。

請求額は840万円超とかなり高額ですから仮に請求通りの判決になっても支配能力にも疑問があります。

しかし一罰百戒の効果は覿面だと思います。

女子選手達が何ら心配することなく最高のパフォーマンスを発揮できる環境が確保されることを願っています。

以上






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