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【アイドリッシュセブン】和泉一織のしんどいとこ語る③

一応リンク張っときますが、②はこちら。

一織だけが気づく、陸の「秘密」

陸は気管支に持病があるけど、それを理由にアイドルを辞めさせられたくないから周囲には言ってなかった。そのことにいち早く一織は気づくんですよね。レッスンでバテる陸の様子を見て、背中に耳を当てて喘鳴音を確認している。ただ息が荒くなってるんじゃなく、特有の音が出ていることで、病気持ちの可能性を推測したんでしょう。

……なんでそんなこと知ってんの17歳……。

三月がまったく気づかないから、身近な人にいたからピンときた、というわけではないのでしょう。仲の良い友人がずっといなかった子だから、学校の友達でというのも考えにくい。(同じ学年とかに喘息の子がいて、そういう病気がある、と知るきっかけになったとかはあるかもしれないけど)
おそらくこれは彼の持ってる「知識」と「観察眼」なんですよね。どこかで読んだり目にしたことがあったのかな。世慣れた大人たちが見過ごす中、一人気づくあたり、さらっと全方位強いよなぁ……。

さて、気づいちゃった一織ですが、すぐ陸に口止めをされます。(口止めされて従ってあげるとこ、いい子だよなぁと思います)
陸の病気のことはひとまず、二人だけで共有する秘密となる。

本編のこの状況だけでもしんどいんですが、サイドストーリー(1-5-2)読んだらさらにしんどさ倍増だよ!

一織の苦悩

というわけで1部5章2話サイストです。

陸が大丈夫と強がるばかりで正確な情報をくれないから、一織は独自に陸の病気について調べている。推測通りの病名なら、無理を重ねれば死のリスクすらあると知ってしまう。

一織はIDOLiSH7を、七瀬陸の魅力を世間に知らしめたい。彼をセンターボーカルとして華々しく活動していきたい。すでに周囲には黙ってマネージャーのサポートをしており、彼女のビジョンとすりあわせて「陸がセンターだ」と結論を出したのは一織自身です。

陸をその立場に置いたことで、陸に無理をさせて、命の危険にすら晒すことになるのかもしれない。ものすごい恐怖じゃないですか、こんなの。なのに陸本人が「大丈夫、できる」と強がるばかりで、正確な見通しをくれない。彼が開示を拒否し続ける以上、医師の監督のもと適切な対応を取ることも難しい。

すでに紡と手を組んでマネージメントに関わっている一織には、選択肢があるんですよね。陸の体調のことをマネージャーや社長に開示するほかにも、それは内緒にしたまま、適当な理屈を付けて陸をセンターから外し、陸には負担の少ない役割を割り当てる、という方向性も、今ならまだ選べる。
でも、一織の夢、IDOLiSH7の華々しい成功には、陸の歌唱や天性の魅力が必要で、手放したくない。
選べてしまうだけに苦悩は深かろうと思います。本人は明らかに無理をしているとわかる。それでも、できるという本人の言葉を免罪符に、そのまま陸の背を押し、陸をセンターのままにしておいていいのか。取り返しのつかない不幸を招かないか。
IDOLiSH7の成功という観点においても、長期的に見た場合に陸センターがマイナスの結果に繋がってしまいはしないか。

この時点の一織が考えていただろうことを想像してみると、めちゃめちゃ胃が痛いんですけど……。

しんどいよー、しんどいよー、この時点でこの一織の苦悩を誰も知らないということがまたしんどいよー。

ここで一織が苦悩や心配の表情を見せられる子なら違った展開があったのかもですけど、あくまで淡々としかめっ面で詰め寄るからなぁ……。

私達が……。
七瀬さんに歌って欲しいと望むことは、
あなたを苦しめることなんですか。

陸にぶつけたこれは、一織の苦悩や不安を示す台詞だなと思います。
でも、これを陸に直接問えるのが一織の資質で、一織と陸のあいだに彼らだけの絆ができた理由なんだろうなとも思う。

優しくてあったかい、気遣いあう関係でこの質問って、聞きにくいし答えにくい……というか、聞いたって本心からの答えが得られにくいじゃないですか。たとえば紡が聞いたなら、「そんなことないよ、期待してくれてすごく嬉しいんだ、オレがんばるよ」という風に答えるんじゃないかな。
陸は基本的に優しい子だから、相手が自分を思ってしてくれることが自分に辛い、と口にすることは、難しいだろうなと思う。陸がそういう子だとわかるから、聞く方も聞きにくい。ノーを言わせてしまう質問だとわかってしまう。

だけど、一織だから。
ひたすら反発しあってきた相手、陸を慮って踏み込むまいという様子も見せず、ずけずけ言ってくる生意気な年下の少年だったからこそ、陸も自分のエゴイズム丸出しの「ノー」が言えたし、それが陸の本心だと一織にも伝わったんじゃないでしょうか。

「この場所を奪われたくない。
 一織や、みんなと、IDOLiSH7でいたい。」
「このまま、夢をあきらめて、
 100歳まで生きるよりも、
 100年分、歌って死にたいんだ。」

もしかしたらですけど、陸もこの「欲」を口に出せたのは、これが初めてなのかもしれないなぁ、なんて思っています。(ご両親に言って出てきたのかもしれないけど……)

だってこんなの、自分のこと愛して、大事にして、苦しませたくない長生きして欲しいって願ってくれる人には、なかなか言えないじゃないですか。

「元気で、スタミナがあって、
 どんな時でも歌える人がセンターの方が
 みんなのためになるってわかってる……。」
「でも、嬉しかったんだ。」
「……生まれて初めて、
 自分の人生を生きてる気持ちになった。」

陸のこの、歌うことへの執着、めちゃめちゃ好きなんですけど、それはそれとして、

めちゃめちゃ重っ!

ただ一人、病気に気づいてしまったばっかりに、こんな告白を受け止める羽目になった一織、ほんと大変すぎるでしょ……。

でもその重たさが、きっと一織には、欲しくて欲しくてたまらなかったものなんだろうなぁ。
有り余る能力だけを望む前から与えられて、誰かの役に立ちたいという願いだけ持って、でもそれを捧げたかった兄には拒まれて。
十二国記の「風の海 迷宮の岸」に、育てるべき麒麟を蝕で失った女怪が、与えるはずだった乳を腫らしていたという描写があるでしょう。
IDOLiSH7加入前の一織って、そんなイメージがあります。
だからこそ、ダイヤモンドの原石でありながら普通の人よりも困難を抱えた「七瀬陸」という人物は、一織にとって福音に等しい。

行き場のなかった一織の願いと、陸の願いが、ここで噛み合う。

陸の願いにも、ずっと行き場がなかった。家族に愛され、大事にされて、気遣われて、それ故に蚊帳の外に置かれ続けていた子ども。ありがとうを言うばかりで、喜ばせてもらうばかりで、与える喜び、求められる喜びを得られなかった子ども。
優しい家族にありがとうと笑いながら、ずっと、ただ生きるために生きていた。自分の弱さを悲しんでいた、ただ生かされるだけだった子が、初めて見つけた目的、生きる喜び。

ちっとも優しくない、口うるさくて、成果を求めてくる、口の悪い年下。
「苦しもうとも、歌いたい」という陸の願いは、一織を納得させこそすれ、一織を傷つけることはない。陸はそう信じられたから、自分の願いを口にできたんだろうなと思います。

共犯者

……私も同じだ。
長い間、夢だったんです。
私の夢を叶えてくれる人が現れることが。

私に傷つかず、
私の手で支えていける人がいることが。

やっと、誰かの役に立てる。

ここ、一織のモノローグの中でも一番好きかもしれない……。
「やっと」の、この重み。
本当にこの子は、持って生まれたものと、心の在り方が噛み合わなくて、ずっと辛かったんだなぁと。
それでも、辛い顔をすることすらできなかったんだろうなぁと。
しみじみ思います。

「私に傷つかず、私の手で支えていける人」。
陸が「一織に傷つかない」人だというのは、これまでにギャンギャンやりあってきたこと、そんな関係でありながら陸が「なあ、オレの価値ってなに?」「一織が誉めてくれるの珍しいもん。」と言える人だから、信じられたのかな。
あと、陸が最初から「一織に大事にされること」を求めていないからかな、と思う。

ある種、共犯者めいた関係性なんですよね。陸はアイドルを続けるために持病を隠したい。一織は陸に協力する代わりに、彼の行動に口出しする権利を独占的に手にしている。
(まあ口出ししてもたいして聞きやしないんだけどさ……)

しかし。
しかしですよ。
この共犯関係を正しく認識しているのが、今に至っても一織だけだというのがさぁ~~~~~~~~!

「寿命を縮めてでも歌いたい、ただ生きるより歌って死にたい」という想いを、陸は一織にはっきりと伝えている。でも陸は、一織の「誰かの役に立ちたい、いいものを輝かせてやりたい」という切望を知らない。
モノローグでしか語られない一織のその願いは、一織ひとりの胸にしまわれたままなんです。いまだに!

陸と一織の関係がなかなか安定したいのは、このあたりが理由なんだろうなと思います。お互いにお互いを求めてて、相手でなきゃいけない理由があるのに、自分からの矢印しか見えてない。

一織は基本的に自分の人格に否定的すぎて、自分への陸の執着をうまく理解できてない。一織は陸に「あなたを支えることこそ私の喜びだ」といまだにちゃんと伝えてないから、陸は当然、一織の想いを知らないまま。

それぞれ、相手から貰っているものだけ見つめて、相手にとっての自分の価値を信じ切れてない。だから不安なんですよね。

めちゃめちゃもどかしい……。さっさとめっぞくんみたいにバチバチに喧嘩してほしい。

(とはいえ、陸は少しずつ一織からの矢印を認識し始めているような気はします。解決ミステリーのラビTVとか、4部ラストとか。)

余談:「魔王」とは

ところで、このサイストの一織のモノローグの

私が魔王の役をすればいい。

って、結局、どんな意味なんだろう?って、未だに悩んでいます。

「エロイムエッサイム 我は求め訴えたり」
「おまえの願いを叶えるために
 1番最初に現れた、魔王は誰だい?」

九条鷹匡のこの台詞の「魔王」と、一織の言う「魔王」が、同じ存在であると仮定するならばですが、魔王とは黒魔術の儀式と呪文に答えて呼び出される悪魔であり、呼び出したのは "モンスター" 七瀬陸。「一人目の魔王」として七瀬天(九条天)がいて、「二人目の魔王」が一織となります。
そして、悪魔召喚というのはおおむね、命や魂と引き換えに悪魔を使役するもの。
(九条の台詞は、「魔王を呼び出した陸」が「魔王に喰われる」示唆なのかな……という気がします。これは、陸はいずれ消滅する存在だという九条の言葉にも合致する。)

陸は自分の望みを叶えるために自身の生命を削る覚悟すらしている。それは確かに、己の魂を担保に悪魔を呼ぶ行為に似ていると言えるかもしれません。その場合、陸の望みと覚悟を知って、その共犯者になろうとしている一織は、たしかに、呼び出され、命を食らう契約で願いを叶える悪魔の立ち位置です。

陸に協力することは陸の生命を削ることにひとしいけれど、それこそが陸自身の願いであり、同時に一織の願いを叶える道でもある。
七瀬陸の生命を喰らいながら、七瀬陸の願いを叶える存在。「それが七瀬さんの願いなら」「私が魔王の役をすればいい」と一織がいうのは、自分の役割をそんな風に認識している、ということなのかな……と、解釈しています。

まあきっと5部でまた色々語られるんでしょうけどね!

しまった、嵐の中のコンサートの話をする予定だったのにめちゃめちゃ話がずれました。まあいいや。次回たぶんその辺の話をします。

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