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環くんの「しんどいな」について

 環:いおりん、りっくんの代わりやんだって?
一織:そうですよ。
 環:はー。しんどいな。
一織:……止めてください。あの人たぶん、気づいてませんから。
 環:……。
一織:MEZZO"はないんですか。こういうの……。
 環:俺らは……。違いすぎるから。比べる方も、不便なんじゃないの。

アプリでは一織の部屋、アニメでは風呂場前の会話になってましたね。
この場面で環くんが言う「しんどさ」について、Twitterで長々語ったのですが、まだ語り足りないので、こちらにもまとめておきます。

一織:MEZZO"はないんですか。こういうの……。
 環:俺らは……。違いすぎるから。比べる方も、不便なんじゃないの。

環くんの「比べる方も不便」という答えから、一織の言う「こういうの」は、第三者が二人を比べてあれこれ言うことを指していると推測できます。
そして「違いすぎるから」比べる方も不便。
ということは、ひっくり返すと一織と陸は「さほど違わない」から比べられやすい、ということになります。

「違いすぎる」MEZZO"

MEZZO"は「対照的な二人組」が売りのデュオです。
ダンスの環/歌の壮五、といっても二人ともダンスも歌も上手いですが、得意とするダンスの質や、歌のタイプも違う。キャラクターとしても、男性的/中性的、年下/年上、子どもっぽい/落ち着いている、などなど、役割分担をしている二人です。
そのため、「○○については環が/壮五が 上」といった評価は「みんなの共通認識」になってて、あらためて取り沙汰することではないんだろうなと思います。

(もちろんそれは決めつけ、先入観でもあり、当人の「今回はこれをがんばった」といってたものを伝わりにくくしてしまう面もあるでしょう。
比べられないことについて環くんが微妙な顔をするのは、その辺りもあるのかな?とか考えます。あとは単純にこの時期の環くんがとにかく自分と違いすぎてそりの合わない壮五さんに不満があるんだろうな……)

比べられるセンター二人

陸と一織は、MEZZZO"とは異なり、基本路線の近い2人です。
体格も似ているし、年齢も近く、ダンスや歌のパフォーマンスの方向性も、おそらくはメンバー内では近いのでしょう。
一織自身、「私ならプレーンなIDOLiSH7になれる」と言っている。ここで言う「プレーンなIDOLiSH7」とは、「七瀬陸をセンターに据えたときのIDOLiSH7」。

大和の表現力・三月のエネルギッシュさ・環のダンス・壮五の自在な情感・ナギの美貌と品のような、グループの印象を塗り替えるに足りる「個人の武器」を、一織は持ちません。
第1部でグループのセンターを決めるときにも、そういう話をしてましたね。

ステージパフォーマンスにおける強烈な個性を持たない一織は、センターに立ってもこれまでの印象を壊しません。
いずれIDOLiSH7センターを陸に返すために、IDOLiSH7というグループの方向性を変えてしまってはいけない。フレッシュな男の子の明るい歌声とダンス、一緒にがんばろうよ! というメッセージの伝わる、前向きな歌詞。
それを引き継げるのは一織であり、だからこそ一織が代打センターとして最もふさわしい人材なのだけれども……。

でも、「そのまま引き継ぐ」というのは、「陸センターのIDOLiSH7と一織センターのIDOLiSH7を、ほぼ同条件で並べる」ってことなんですよね。

たとえばですけど、野球で「ストレート主体の速球投手を中心にした守備的チーム」が2チームあったら、それぞれのエースの能力比較が話題になりやすいでしょう。そういう感じでしょうか。
この、センター2人の差を露骨に比べられるという状況が、一織が言う「こういうの」で、環が「しんどいな」と評するものなのだろうと思います。

そして、のちに天との合同レッスン(「心の真ん中にあるもの」の章)で一織が吐露しているとおり、陸は「メンバーでも随一の歌唱力があり、ブラホワでTRIGGERの九条天に勝てる歌声の持ち主」です。(さらに加えると「誰にでも愛される魅力の持ち主」でもある。)

一織は、歌唱力において自分が陸に及ばないことを知っている。ファンブックの増田俊樹さんのコメントにもありましたが、一織自身はメンバー内で特に下手でもないけれど、飛び抜けて上手いわけでもないシンガーだと思います。
その一織が、陸と同じように「一生懸命歌うボーカル」をやろうとするならば、「七瀬陸のほうがうまいのにね」という声がある程度あがるだろうことは、一織には簡単に予測できたでしょう。
冠番組も始まり、IDOLiSH7がこれまで以上の飛躍を狙うこの時期に、マイナス評価なんて受けたいわけがない。そしてそのマイナス評価は、自分が陸ほど歌がうまくないせいでついてしまうもの。

そりゃもう、一織にはすさまじいプレッシャーだったでしょうよと……。
しかも、一織には苦い記憶があるんですよ。自分の失敗が全員の未来を閉ざしたミュージックフェスタ。何度も夢に見て、しばらくは「miss you...」も聞けなくなった、一織の巨大なトラウマです。刺激されないわけがない。

気づかない陸

一方陸は、センターって先頭に立ってグループを引っ張る役割だから大変だ、すごくプレッシャーあるな、という気持ちはあっても「陸ほどうまくないこと、陸と比べられることを、一織が強烈なプレッシャーに感じている」とは、この時点では思ってないのでしょう。

陸は自分のボーカルを、一織のようには高く評価していないですよね。たぶんグループ内で陸が一番、陸のボーカルを評価してない。自分の能力を客観視するって難しいですし、陸は天という存在がずっと近くにあったこともあって、もともと自分の歌にそれほど自信がないんだろうな。
好きだから歌いたいし、センターを任されることは誇りだけど、自分こそがグループのトップであり、絶対的センターだという自負には、まだ乏しい。

そして、陸は一織への劣等感をしばしば剥き出しにしますが、一織は自分が陸にかなわないと感じていることを、陸にはほとんど見せません。
(二人のこの行き違い、お互いがお互いに感じているコンプレックスは、山田のこし先生のコミカライズ12話(3巻収録)でわかりやすく描かれているので、できればぜひ読んでください……)

IDOLiSH7のセンターであることを誇りに思いつつ、身体の問題で一織にセンターを代わってもらうことを「悔しい」「申し訳ない」と感じている陸に、一織はなるべく余計な負担をかけたくない。そもそも、だからこそのセンター交代です。陸の後釜であることが一織のプレッシャーになるという事実に陸が気づいていないなら、そのままであってほしい。
だからこその環への「やめてください」なのでしょう。

一織の戦略

さて、一織が歌唱力で陸に及ばないとしても、「新センターは歌が下手」と言われて終わるわけにはいきません。
陸より劣る部分を完成度でカバーし、全体の印象を下げないようにする――というのが、一織が自分の能力と向き合って決めた方針なのかなと思います。

でもそうすると今度は「歌なら確かに七瀬のほうがうまいけど、トータルで見たら和泉弟の方が上だね、安定感あるし」といった評価をされることもあるでしょう。実際、大和がP_Gラビチャでそういう評価をしてます。

というか、「一織センター」の評価を「陸センター」より下げないためには、少なくとも「七瀬もいいけど、和泉弟もいいね」という評価を得られなければいけない。さらに、ボーカルとしては陸のほうが上である以上、「七瀬のほうがいい」という声は一定数あるだろうし、それに負けないだけの「和泉弟のほうがいい」という声を得ていかなければ、IDOLiSH7の飛躍につなげることはできません。

陸派と一織派に別れてIDOLiSH7のセンターとしてどっちが上か、というファンの対立も二部では書かれましたが、自分がセンターとして成功するならばそういう声も出てくるだろうということも、おそらく、センターに立つと決めた時点で、一織には予測可能だったと思います。

七瀬陸中心のIDOLiSH7を至上とする一織にとって、自分がセンター代理になることで陸を否定する声が出てくるなんて、耐えがたい事態じゃないですか。
でも大切なIDOLiSH7のため、陸の居場所を守っていずれ陸に返すため、一織は「陸と同等またはそれ以上のセンター」にならなきゃいけないんですよ。

「誰が一番、あなたに歌って欲しかったと思っているんですか」

センターでのびのびとPerfection Gimmickを歌う陸の歌声を聞きたい。
陸と比べられる恐怖から解放されたい。
大好きな陸の歌声のすばらしさを世界中に自慢したい。

でも、いまは、できない。
その苦しさも無念も顔に出さずに、平然と、やり遂げなきゃいけないんですよ。

環くんの「しんどいな」には、ここまでは含んでいないとは思いますけれども……

めっちゃめちゃ! 
めっちゃめちゃしんどい!!!!!!

しんどいよな……!!!

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