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生まれも育ちも悪い④

「俺たち結婚したから」

修学旅行の荷物を抱えて中古の家に帰ると父は見たことないくらい気持ち悪い笑顔で、おかえりも言わずに荷物も持ってくれずにそれだけ言って部屋に戻った。

バツイチは父の話とは全く違った。

ご飯は上手で節約上手で子供を育てた経験があるのでいいお母さんになるという話だったが、ご飯はすべて冷凍食品を油で揚げたもので事前にそれを作って食器棚に入れてあるという状態だった。その冷凍食品はヨーテルの妹が重度の食物アレルギーな事を無視されて用意されたもので、それを訴えたがするとバツイチの鬱の調子が悪くなったと父に怒られた。以降も食事は一切変わらず人数分用意されていた。

頼みの綱は祖父母から宅急便で来る食品だった。孫のためにとせっせと送られてくるレトルト食品やカップ麺やお菓子を兄弟で分け合っていると「お前たちだけで分けるのはおかしい」と父に言われバツイチが連れてきた引きこもりの男の子にも分けたりしていた。ちなみコッソリと入れられていたお小遣いの話は黙っていた。

ヨーテルは定時制高校の昼間部へ行くことになった。知らない人もいるかもしれないので、説明するが定時制高校は昼間部と夜間部があり昼間部は文字通り昼から学校へ行く。ちなみにヨーテルが通っていたところは単位さえ取ることができれば3年で卒業できた。

定時制高校はヨーテルにとっては生きていきやすい環境だった。ヨーテルのように家庭環境が良くない子や不登校の子や派手な子がいて普通の子が少なかった。みんな色とりどりさまざまでどこかに馴染まないとダメというものが無くとてもありがたい環境だった。

バイトも早くに見つかりレストランで働いた。夜は少し高級だったので、ヨーテルが普段関わらない人種と関わることが楽しかった。怒られて泣く事もあったが、ヨーテルは高校1年生から3年生の卒業するまでそこで働いた。

家の中は相変わらずだった。当初はリビングで家族が揃うことが必要だと父ヨーテルは言ったが、それも続かずみんなそれぞれの部屋にいつもいた。バツイチは家事ができないので父ヨーテルが働きながらほぼ全ての家事をしていた。気まぐれで父ヨーテルに弁当を作った時に嬉しそうに恥ずかしそうに笑っていた父ヨーテルの顔は昔のまだお父さんの時の顔で懐かしかった。

「ばあちゃん、ごめん。お金なんやけど」

いつからか父ヨーテルに言われて祖母ヨーテルにお金をせびる役を任されるようになった。ヨーテルがやらないと下の兄弟達がやらされると脅され、こんな役目をさせるわけにはいかずヨーテルは電話をかけていた。毎回謝ってお金の話をする高校生のヨーテルに祖母は責めずに送ってくれていた。それが逆に辛くてヨーテルは学校へ行けなくなる。

単位が危ないと言われ渋々学校へまた行くようになったが、これからもお金を祖母にせびるのが辛く保健室のおばあちゃん先生に話をしていた。明らかに還暦を過ぎているおばあちゃん先生はとっても元気で話を聞いてくれた。

ヨーテルが毎回嫌がるのでとうとう父ヨーテルが折れてお金をせびる電話をしなくて良くなった。だが、それからはヨーテルにお金をせびるようになり最後はバイト代の貯金から9万円出すことになった。名目的には借りているということだが、あれから10年経ってもお金は返ってきていない。

バツイチにも2万を借りたいとメールが来てあまりに必死そうだったので貸したらパチンコに使われていた。それから顔を合わせてもバツイチは何も無かったかのように話をしてきて、あのメールは本当にバツイチが送ったものなのか分からなくなった。そのお金も10年経った今も返ってきていない。

ヨーテルは高校を卒業して家を出た。

⑤に続きます

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