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お前を呪っときゃよかった


 疲れた。疲れた。
働くことが好きじゃない。世界はわからなくて怖い。
未だに中二病だよ。君の痛々しさなんてまだ序の口さ。と、15年前の私の肩を叩く。
そうあの時、そんな大人が本当は欲しかった。


 職場に鎮座する私にとっての理不尽の塊とは冷戦状態へと突入した。
基本的に誰かを嫌いとか好きとか自分から思うこともないが、自分より上の立場の人間が「尊敬に値しない」と感じるとものすごい速さでその人への感情が一切死に果てて最早会話が不正立となることを初めて自覚した。
まぁ振り返れば私はずっとそうだった。
そんな私はなんて貧しく幼稚なのか。情けなくて泣きたくなる。

いつかどうか普通の同僚になれますように。(棒読み)
悪いのは人ではなく相性である。

 不毛だ。
最近、パートナーシップを結ぶ可能性を排除しない相手との会食を数回。
家に帰ると胸が悪くなり、やさぐれてポテトチップスに炭酸水を抱えてアニメを一気見した。
記憶を消したい。消したい。消したい。助けてほしい。
液晶の中で颯爽と笑い、血みどろで戦い命を燃やす「ヒーロー」を、心のどこかでそんなこと唱えながら見つめていた。
一人の時間で「将来のパートナー」との時間をうがいして吐き出すように薄めてやっと息ができた。
無理無理。どうしてこんな不毛なことをしているのか。
わかっているが決して言葉にはできない。したくない。

「呪い合おう」

液晶が点滅する。場面が目まぐるしく変わる。笑いながらほとんど肉弾戦で殺し合う関係が、羨ましくてゆっくり指でなぞるように静かに物語が進むのをただ眺めていた。
呪いっつーか単なる殺し合いでは。


 留守電。LINE。・・・え、どうして?
他人同士だったら終わりだ。そんなことを何回も何回も繰り返して、それでもいつの間にか気付くと話をしたり食事をしたりしている。
趣味は合わない。人として尊敬できない。一緒にいて不快で疲れるだけだ。
そんな相手からの「会いたいね」とお金の無心がセットになっていることを気に留めない私を、友人は怒って、
他人同士である私達は絶交までしたっていうのに(理由は様々あったと思うが)私は何も変わらなかった。
家族だから。子供だから。血が繋がっているから。
やめろやめろやめろ。私の中であらゆる理由をつけて私を縛るやつの首をいつか絞めてやりたいと思う。他でもない私自身だ。縛るのも、首を絞めたいのも。そうして憎まれるのも、憎むのも、全部自分。
 でもさ、お金なんて惜しくない。私は食べて眠れたらそれでいい。どうでもいいんだ。
だからお金を振り込む。話したくない薄情な自分を、お金を渡す行為で覆う。

 ああ、家族が欲しかったな。

 みんな嫌いだ。
今更ゆるすことなんてできない。
夜中に動悸がして目が覚める。呼吸が苦しいほど胸がザワザワとする。
静かすぎて怖くなる。悲しくて気持ちが重い。
嫌なことがたくさん吹き出してくる。

痴漢を受けていることに気づかなかった私に気づいていたのに、電車を降りてから「大丈夫ですか?」と声をかけてきた人。
山奥に拉致されショックを受けて挙動がおかしかった私に「男の車に乗ったのがいけない」と残して電話を切った知人。会社ぐるみでその告発を握り潰した人たち。
私を慰めの道具にして捨てた人。(君自身が最も忌むことを私にやってしまったんだよね。そしてその罪を認めもせず私に全てをなすりつけて逃げたんだ。私は知っているよ。)

 みんな呪ってやればよかった。
みんなみんな呪っときゃよかった。
いつもいつも呪うのは自分だった。そうして大好きな自分のことを大嫌いになった。

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