見出し画像

イシイジロウが最後に仕掛けた罠 【アルティメット人狼10 第3部1戦目レビュー】

人狼界最大のお祭りのひとつ、アルティメット人狼。舞台上で、人狼TLPTキャスト、ゲームクリエイター、将棋棋士、プロ雀士(スリアロ勢)、人狼最大トーナメント勢、人狼愛好有名人といった人狼界の名手たちが集い、「魅せる人狼」で強さとパフォーマンスを競う戦いです。

このアルティメット人狼の記念大会にしてイシイジロウさんの出役引退興行となる「アルティメット人狼10」、特に第3部の1戦目は、個人的に過去ベスト級に見事なゲームだったと思います。ニコ生コメントなどでは選択に批判的なものも見られましたが、それは視点の違いというもの。この戦いにおいては、勝った陣営の戦い方こそを褒めるべきでしょう。

というわけで、この戦いのポイントをレビューしたいと思います。あの結果に至るまでには、多くの伏線、多くの罠が存在し、壇上の出場者がその罠を踏んだか踏まないかで大きく違う結果になったのです。

とりあえず、読む前に一度、タイムシフトで戦いをご覧になることをお勧めします。ここから先は、役職が分かった前提でレビューしていきますので。


●初日:アルティメットだから効いた戦略

このレベルの人たちは、極めてタイトな観察で初日をスタートします。この日も、人間だと思う・怪しんでいるの立場をそれぞれに落としていくのですが、キーのひとつが、児玉さんの「今日は預言者が出ることを禁止したい(人狼に情報を与えない、狂人を殺す狙い)」という提案です。

これをもって児玉さんを疑う向きもあったようですが、ここはアルティメットの場であることが大きな意味を持ちます。観客に見せることを前提とするアルティメットの初日はNoのぶつけ合いではなく、Yes, andで進むことが多いのです。そして効率の追求ではなく、バリエーションの追求もまた、アルティメットの個性と言えます。だからこそ、児玉さんの提案は、何かを考えた村人目線でも充分にあり得る提案として村に迎え入れられます。

実際、真預言者のデイジーさんが同調して「吊り逃れ無しね」と発言し、提案に殉じて、白と知っている森本さんを見捨てでも真預言者の自身を取ったのが、アルティメットの世界観をよく表していると言えるでしょう。ただし、安西さんはこの点を疑問視しているので、疑いを持つ視点も充分にアリです。

結果、初日の役職COはなく、古川さんとの決選投票の結果、村人の森本さんが追放となりました。


●2日目:デイジー無双

村中六段が噛まれてスタート。そしてステージが一気に動きます。

開口一番、デイジーさんが預言者であることをCOしつつ、ノエルさんが対抗に出てくると預言。これに対し、ノエルさんは一瞬で「違います霊媒師です」とCO。さらにデイジーさんが被せて、ノエルさんを狼だと見たと証言します。

ここには、TLPTキャストならではのスピード感を感じます。デイジーさんのCOからの展開も見事ですが、出色はノエルさんのCO。おそらくデイジーさんが本物であろう流れから、それでもデイジーさんの思い通りに展開させず、かつ後手に回らないよう、一瞬で違う役職として立ってみせたわけです。ただ、デイジーさんの論拠がノエルさんを狼と見ていた点にあったので、ノエルさんのズラしはやや空振りに終わります。

ここから急展開し、対抗霊媒師が出ないことを確認してマドックさんが預言者CO。さらにダンカンさんが霊媒師COをし、ここにTLPTキャスト同士による2vs2の戦いがスタートします。最高にアツい展開!

ちなみにここでマドックさんは「ノエルは人間だ、私が預言者だから」と言って立ってはいますが、ノエルさんを見たとは宣言していません。可能性としてはそれぞれの預言者・霊媒師は完全には繋がっていませんが、対抗が人狼と見ていることをベースに、事実上の対抗戦となっています。

ここで小さな種が蒔かれるのですが、1.ダンカンさんが自分対ノエルの霊媒師の戦いにせよと言い切る、2.イシイジロウさんが客席に「そっちで見たーい(笑)」とピュアな印象を置きつつ迷う素振りを見せる、という展開があります。こういう小さな種が後々効くこともあります。

昼の議論では、狂人である児玉さん(この時点から人狼側支持を動かしていない!)以外はデイジーダンカン組を支持するスタンスを取り、途中からイシイさんが真ん中をウロウロする素振りを見せます。圧倒的にノエルマドックの人狼側不利。この日、マドックさんは珍しく、混乱していること、呼吸を整える必要があることを述べたりもします。恐らくクリティカルにやられすぎたが故の本音でしょう。

結果、ノエルさんが6票を集めて追放。ダンカンさんは狼3票+大野さんの4票を集めます。大野さんの票は判断ミスというより、ダンカンノエルの決選投票にする可能性を最終票の安西さんに残した感がありました。ピーキーな戦いになりがちなアルティメットにおいて、実はこうしたバランサーは貴重です。

圧倒的不利の中で死んでいくノエルさんは、大変にエモーショナルな遺言を残していきます。TLPTキャストが役職者として死んでいくときに、割とエモーショナルなアピールを見せることも、よくあることだったりします。ビックリした人もいたかもね。


●3日目:命を賭したイシイジロウの罠

メアリさんが噛まれてスタート。

また開口一番、デイジーさんがイシイさんを人狼と宣言します。これに対し、ほぼ反射のように被せてマドックさんは「イシイは人間だった」と宣言します。この対抗宣言は、恐らく先のノエルさんと同じく、反射的にラストウルフのイシイさんを守ったのだと推測します。ラストウルフに黒出しされて、これに一瞬で対抗する瞬発力! これは村人には必ずしも効果的には響きませんでしたが、ダンカンさんが真霊媒師だとしてもデイジーマドックの二択は確定できない状況にあるため、ダンカンさんと古川さんはそこのケアも続けつつ論を展開します。

それにしても、これは人狼には相当に絶望的な状況です。騙りの能力者がCO前から黒出しされて信用を取れておらず、狂人は出てこず(この段階では、噛んでしまった村中六段だと思っているでしょう)、ラストウルフにまで黒を出されてしまっては、詰みにも近い。

ところが、ここで諦めないのがアルティメット級のプレイヤーたち。潜伏狂人の児玉さんは「意見が偏りすぎている、まだわからない」「この状況が正しければメアリを噛んでいる暇なんかない」という観点から疑問を続け(自身が狂人だから強く言える論)、それを聞くマドックさんはさりげなく立ち位置をダンカンさんの近くに寄せてダンカン真マドック真の組み合わせがあることを擦り込もうと試みるなど、舞台上ならではの小技で対抗しているのです。すげえなこの人たち。

そしてダンカンさんが「今日の二択はイシイさんと僕にしてくださいね、デイジーに絶対投票しないで」と強く出ます。ダンカンさんの立場からはデイジーさんは真預言者に確定していませんが、預言者を残して情報を増やす方を選択します。これはフラットには非常にクレバーなやり方ですが、結果として流れを断ち切ってしまう危うさをはらむ提案でもありました。

ところが、イシイさんはこの日の投票で、先に2票を受けて自分より票が先行しているダンカンさんではなく、「ダンカン真はあるでしょう? だから入れられない」と、デイジーさんに投票するのです。自分の命を賭したこの投票こそが、イシイさんがステージ上で最後に張った罠となります。この意味を考え始めることで、村人たちは混乱に陥ります。

この後、中田八段は「それがイシイさんの白アピールなの?」と考えつつ。大野さんは「万が一があるから」と。古川さんは「イシイさんの投票はどっちとも取れる……」と。三者三様の理由ですが、連続でダンカンさんに投票し、真霊媒師が追放されるのです。ダンカンさんは提案した以上飲むところですが、結果として、イシイさんが張った罠に全員が絡め取られた形になりました。

注目してほしいのは、ステージ上の誰ひとり、「霊媒師ローラー」という概念を使っていないことです。結果は同じではあるのですが、アルティメットのステージ上では霊媒師ローラーはダンカン吊りの理由たり得ません。普段の遊びではひと言で展開を決められて効率的かもしれませんが、そんなにイージーに考えると見る側もやる側も楽しさが落ちるよ、という、アルティメットからのメッセージなのかもしれませんよ。

ともあれ、イシイさんが張った罠は見事に機能し、狼である自身は死なずに、自分が投票もしなかったダンカンさんを追放することに成功しました。この仕込みによって、村にとって霊媒師の真贋を追う必要性がグンと下がり、ノエルさん黒出しを根拠にデイジーさん圧倒的有利だった預言者二択の天秤がやや戻ります。傾ききっていたモメンタムを一手で揺らしてみせた、見事すぎる罠だったと思います。

この罠により、完全に負け試合だった狼側に、一気にチャンスが生まれます。


●4日目:児玉健の恐ろしさ

古川さんが噛まれてスタート。

またデイジーさんが人狼を見つけていると言い、しかし先にマドックさんが「安西は人狼だ」と宣言。対してデイジーさんは、「マドックが人狼」と宣言します。対抗の預言者を占うのはやや珍しいケースですが、この日のデイジーさんは余りにもキレキレすぎており、こりゃ詰みか、とも思われました。

ところが、ここで溜めに溜めた狂人の児玉さんが霊媒師をCO。ダンカン狼ノエル白の結果とともに、ついに動き出すのです。これ、単体では遅すぎる飛び出しにも見えますが、真だったとしても、前日に出たところで自分がただ死ぬ選択肢入りするだけなので、COを待つ意味は充分にあります。そしてここでダンカンさんを黒と見ることが、デイジーさんが偽物たり得る最後のピースでもあるのです。

ニコ生コメントでは「児玉狂人」が並びましたが、ステージ上においてはイシイさんの罠が効いていることも忘れてはいけません。そしてデイジーさんが対抗を見るという、キレキレすぎたが故のトリックプレー。いったんデイジーさんの偽を疑ってしまえば、腑に落ちる答えとも言える伏線が張り巡らされているのです。これがステージ上の魔物、アルティメットの魔物なのだと思います。

結果、イシイさんと安西さんの二択で、大野さんが最後の1票を安西さんに入れてしまい、翌日のパワープレイへと繋がります。


安全なところからデジタルに見ていれば大野さんの判断ミスに見えるのでしょうが、伏線と罠が張り巡らされているステージ上はそう簡単ではないのです。おれ自身、最初に見た時には、「その筋もあり得る」という印象のもとに見ていました。

この逆転劇を起こしたのがイシイジロウさんの一手だったことに、アルティメット人狼というステージの意義を強く感じます。TLPTキャストがTLPT的なる戦いを繰り広げるところに刺した毒。見事と言うほかはありませんでした。

ステージ上でこの人狼プレイができるイシイジロウさんの引退を惜しみます。おつかれさまでした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?