ゆれるせいかつ総撮影後記 「ゆれたせいかつ」
1.はじめに
最終回を迎える前にこの文章を書いてる。
どのくらいの人が最初から最後まで見てくれただろうか。
どのくらいの人がこれから見るのだろうか。
(アーカイブしっかりありますよ!)
「ゆれるせいかつ」 ←こちらから全編見る事ができます
ゆれた人はいるのかな?一部分だけ見た人も楽しんでくれたかな?
いやあ、全部見て欲しいなあ。いや全部見たよね?
そんな事を考えている。
昨年の11月中旬からだろうか、そこから12月の撮影、公開が始まった1月、そして12話が公開される今日まで、僕らは、少なくとも僕は、激動の日々を過ごさせて頂いた。もう随分と前の出来事のように感じている。
僕も監督も、大いにゆれた。
LINEで公式アカウントと友達になっている方からするとお馴染みの撮影後記。
もう最後だから、ゆっくりと整理しながら、気の済むまで書いてみよう。
すごく長いと思います。ゆるりゆるり読んでくださいね。
2.始まりは幡ヶ谷だった
僕の記憶が正しければ、僕は仕事が終わり電車に乗ってFacebookか何かを弄っていた。そこに出てきたのがほむさん(布村喜和監督)の結婚報告のpostだった。そのまま僕は「結婚おめでとうございます。」とメッセージを送ると、すぐに返信が来た。「籾木くん今何してます?」「電車に乗って帰ってます」「今から飲みませんか?久しぶりに。」「いいですよどこがいいですか?」「幡ヶ谷とかどうでしょう?」「わかりました今新宿なんですぐ着きます」となり僕らは久しぶりに幡ヶ谷の地上出口で落ち合った。
ほむさんは久しぶりでも変わらずニコニコしていて、相変わらずの様だった。少しドシッとした感じがして、月日の流れを感じた。そのまま串焼き屋で飲んで沢山の事を話した。
ほむさんはゆったりとしながらも、ドキッとする質問を投げてくる。
「お芝居って、どうですか?」
まずこれが最初の唐突な質問だった。ほむさんと会うのは数年ぶりで、お互いの状況も多少は変わっていた。
「そうですねえ、お芝居ですか。最近僕もよく分からないです。上手いとか下手とか、もう全然分からないです。」
僕は悩みながらそう答えたように記憶している。
↑僕とほむさん
この時の僕はまだもやっとしてるのか、カッコつけてるのか。
「僕ね、多分ですけど、何も特徴のない俳優なんです。適役ってみなさんあるじゃないですか。僕ね、これっていうのがないんです。それが良い時もあるけれど、どうなんでしょうね。多分ね、割となんでも演れるんです。特徴ないから。」
そういった相談をした。
ほむさんは優しく聞いてくれていて、いつも僕はほむさんと話すと喋りすぎてしまう。
少し時間が経って、いろいろ話した後、
「劇って、どうですかねえ。」
ほむさんは綺麗な瞳で呟いていた。僕がほむさんを大好きなのは、ほむさんはいつでも少年のように純粋な顔を見せてくれるからだ。
「劇、ですか。」
そこからほむさんは実はこんな話があってですね、とのちに「ゆれるせいかつ」となる企画の話を始めた。この枠で何かやらないか、という事。せっかく作るなら劇(ドラマ)を撮りたいという事、打ち合わせをしてきて、籾木くんっていう面白い奴がいるという事を話したという事、そういった話をしてくれた。僕を思い出してそんな話をしてくれていた事は、めちゃくちゃに嬉しかったが顔に出さなかった。ほむさん、ありがとう。
「いいですよ、やりましょう。面白いの、やりましょう。」僕は答えた。
こうして『ゆれるせいかつ』は始まった。
割と飲んだからか、そういう話をした事は覚えていたが、そんなに深く考えていなかった。数日後、ほむさんから、「企画、いけそうです!籾木くんでやりましょう!」という連絡が来た。
「分かりました!やりましょう!」といった旨の内容を返したが、漠然と不安があった事を覚えている。
↑左:かいとさん 右:ほむさん
数日後、適役の無い俳優である僕を生かす企画書が送られてきた。
嬉しかった。
難しい言葉ではあるけれど能のワキ(主人公)とシテ(ゲスト)の構図を用いたものを作っていこうというものだった。この企画書の段階から音楽はグルパリさんになっていて、どんな人でどんな曲なんだろうなあと思いながらもほむさんは進んで聞かせようとしなかったから、ほむさんを信頼して聞かないままにしていた。
3.準備奔走!
ここら辺の記憶はあまり整合性が取れない。僕は別件の撮影や何やらでバタバタしていた。それでもこの企画は進んでいっていた。両方やるのに必死だった。
ざっくり書いていこう。ちょっとしたオフショットを交えて。
↑差し入れをみんなで食べている様子
3.①劇をやろう!
尖った事してやろうぜと僕らは気合いを入れた事。
同じ枠で作っている人たちに嫉妬させてえなあって僕は思っていた。視聴する内容は尖っていなくても、分かる人から見たら「やってんなこいつら」と思わせたかった。
3.②時間がない!
11月中旬くらいから始まって、当初公開予定が12月中旬だった。無理じゃん!と思い何度か僕はほむさんに弱音を吐いたが、ほむさんは「いけます!いきましょう!」と言った。時間がなくて脚本かけないじゃん!と頭を抱えた僕らは、「フェイクドキュメンタリー」という手法を思いついた。
このコンテンツだからこそ縦でいこう!となっていたし縦動画の特性やら何やらを議論していた時に二人称感が強い、自分の事のように感じられる、というのが出ていたので、ここで最初のパズルがハマった。象徴的なアイテムを毎話だそうという事やフェイクとドキュメンタリーのバランスを整えて行ったのもこの頃だったかな?
最初のタイトルは「生活(仮)」だった。
↑こんな感じのメモがどんどん増えていっていた
3.③キャスティング!
あーだこーだあったりして、意外と難航した。フェイクドキュメンタリーだからこそ、僕の身近な人にも出て貰いたかった。そしてほむさんは、僕に面白い人と出会って欲しいと思っていたと僕は勝手に都合よく解釈している。出て貰いたい人のリストを作って、僕は何人かの友達に電話して出演を相談したりした。みんな乗り気だったけれど、スケジュールや別仕事で出演が叶わなかったりした。快く前向きに検討してくれたみんな、出てくれた理くん、本当にありがとう。残りの枠はほむさんがキャスティングしていってくれた。ここら辺からは本当に時間との戦いだった。それに加えスタッフィングも始まっていた。本当にほむさんにおんぶに抱っこ。20も半ばを過ぎた男(籾木)は本当におんぶに抱っこ。馬鹿。二人で企画会議をして、話すだけ話し、手書きのメモを見せ、こういう構図はどうでしょう?じゃあこうしません?僕は口だけ回していて、面倒臭いPC作業やまとめ作業は全部、隅から隅まで全部ほむさんがやってくれた。どう?ほむさんはすごい人でしょ。
3.④ロケーションにお洋服!
この頃だと思う、ロケーション協力をしてくださったHSJworksで初めて飲んだ。佐藤さん(店主)はすごく大らかな人で、この方の協力なしでは不可能だったと思う。奥はシルバーアクセサリーの工房になっていて、それもそのまま使わせて頂いた。佐藤さんはカフェの対話シーンほぼ全ていて下さって、どの会話も真剣に、そして暖かく聞いて下さっていた。撮影中、佐藤さんの顔を見ると安心するくらい、しっかりと聞いて下さって、毎度「今日もよかったねえ。」と声を掛けて下さった。このお店にも、ぜひ飲みに行って欲しい。幡ヶ谷のディープスポットの一つだろう。一番印象深いのは、飲んだ日と撮影の日で、佐藤さんが僕に「別人みたいだねえ」と仰ってくれたことだ。僕としては実感が無かったけれど、嬉しく感じたことを覚えている。
↑僕、佐藤さん、グルパリさん
最初の最初に、どんぐりとの散歩シーンを撮ったのは確かだ。ショウの衣装合わせをして、どんぐりと初めて会い、道を歩いた。「本当に始まるのかな?」バカな僕はまだ疑っていた。頓挫したら怖いなあ。とも思っていた。すみません。
ちなみに今回の衣装をやってくれたのは上野さんという人で、突撃洋服店というお店でスタッフもしていらっしゃる。この突撃洋服店というお店は非常に面白いお店で、僕とほむさんが出会ったのもこの店だった。本当に面白いから皆さん是非行って欲しい。
ここから段々とキャスティングが決まり、日程が決まり、企画の詳細が固まりだしていった。プロデューサーS氏も非常に協力してくれて、本当にありがたかった。
僕は飛騨高山での撮影と1週間のスケジュールハードモードな撮影があって、もうね、必死でした。あははははは。ここら辺の記憶、マジで本当にないのね。どれも手が抜けない仕事だった。すごく必死だったけれど、どれも楽しくて楽しかったからやれたのだと思う。ほんと、クリエイティブって楽しい。たまにクリエイティブが人を殺しに来るけどね。
3.⑤再び幡ヶ谷で.....
この頃だっけかな、疲れ切った僕とほむさんはまた幡ヶ谷の居酒屋で会議を開いた。僕が少し遅れていくとぽやーんとほむさんは座っていた。僕もぽやーんとその前に座り、「気を抜くと風邪ひきそうですねえ」なんて言ったりした。
何だか分からないけれど、僕らは熱燗を頼んだ。あの熱燗は本当に美味しかった。体の芯から温まった。この時タイトルがまだ決まっていなくて、メモ帳に色んなタイトル案を書いたりしていたけれど、どれもしっくりきていなかった。他の部分を詰めた後、なんだっけか僕がギャルの話をしていて「バイブス」という言葉を使った。それを「バイブ?」とほむさんが聞き間違いしたのかなんなのかで、少し笑って、「バイブかあ、ゆれますねえ」「あ。」「ゆれるせいかつよくないですか?」「いいですね、ゆれますもんね」みたいな感じでタイトルが決まった。どのタイトル案よりもバイブスからきた「ゆれるせいかつ」がしっくりきて、それもまた可笑しかった。
3.⑥てんちょーグルパリ誕生!
ある日の打ち合わせの後、ほむさんがこの後グルパリさんのライブに行く、と言ったので、ついて行く事にした。これが僕とグルパリさんの出会いだった。
衝撃だった。なんとも言えない、いや言いたくない、そんな感情になった。言葉では到底言い表せれない。その後三人で少し話をしたけれど、僕は疲れと衝撃が相まって何もうまく話せなかった。そのくらい凄かった。
僕はほむさんに「僕じゃなくてグルパリさんでやった方がいいと思います。」と言った。本心でそう言った。勝ち負けじゃないけれど、この人には僕は勝てない。そう断言ができた。歌も声も曲もそうだが、存在として圧倒的だった。
「いや、籾木くんなんです。」ほむさんはそう言ってくれたけれど、なんでグルパリさんを見ても僕だって言ってるんだよ、と心の中で思っていた。
それを消化して前を向いた時、この人が歌ってくれるんだから何だって出来るという物凄い強さになった。
そしてグルパリさんに是非出て欲しいとお願いしたら快諾してくださった。
魔道士を味方にしたような気分になった。
僕はグルパリさんが大好きになった。
本当に日高屋行きましょうね、グルパリてんちょ。
こんな素晴らしい出会いが積み重なっているのがこのゆれるせいかつの奇跡なんだと思う。
↑これは打ち上げの様子
4.撮影スタート!
ハードモードスケジュールな撮影の二、三日後、対話シーンの撮影がスタートした。スタッフはほむさんの友人や仕事仲間。おかげで僕はすごく安心している事が出来た。皆、嫌な顔一つせずいろんな事をしてくれて、ほむさんの人柄を感じた。
録音をやってくれたかいとさんはいつもニコニコしていてくれて、髭面のおっちゃっんだけれどもいつも僕を励ましてくれた。グラフィックをやってくれた浅野さんも現場に来てくれて、カメラを回してくれたり人止めして下さったり、独特の笑いも提供して下さった。他にも何人もの人が来てくださり、小さいことから何から何まで支えて下さった。僕もいつかこんな現場を作りたい、そう思わせる理想の現場の一つだったと思う。
面白くて優しいスタッフさんばかりで、幸せな時間だった。
理くん。
土屋さん。
ズイキさん。
神条さん。
グルパリてんちょー。
各回のコメントを再度書くと本当に一万字なんか軽く越えてしまいそうなので、LINE公式アカウントで配信した撮影後記をそのまま載せることにした。
再度見て、また想像なんてしてくれたら嬉しいな。
最後の高瀬さん。
僕らはトリッキーな撮影を続けたせいで撮影の平衡感覚を完全に狂わせていたけれど、彼女は明るく、そして恐ろしいくらい綺麗なのに飾りっ気もなくいてくれた。僕らはそれにどれだけ救われただろうか。男臭い現場に咲いた一輪の高嶺の花だった。出演してくれたのが奇跡だと彼女のSNSを見るたびに思う。
犬とじゃれ合う彼女、まっすぐ僕を見る姿、素敵だった。
ありがとうございました。
5.そして.....
まあざっくり言って、こうして?僕らの「ゆれるせいかつ」は終わりを迎える。
この期間の間に、世界でも日本でも、大きな問題が起きた。
僕らは社会基盤から大いに揺らされている。
不安が湧いたり、信じていたものが崩れようとしたりしている。
この作品が、直接何かを救う事はないだろう。
この撮影後記も誰かを直接救う事はないだろう。
そんな小さな小さな物語だと思う。
6.それでも、最後に
ある日の眠れない夜、ぼーっと乗っている電車。
何か行き詰まった時。何となくやる気が出ない時。
本当にこれでいいのかなあと漠然と考えてしまっている時。
やだな。面倒だな。何だかな。もやもやが溢れる時。
なんか明日が来るのがやだなと感じてしまう時。
たまたまでも何でも、この作品の事を思い出してくれたら嬉しい。
ダメダメなショウと可愛いどんぐりを想像してニコッとしてくれたら嬉しい。
そしてまた見てくれたら、飛び上がるほど嬉しい。
直接の手助けにならなくても、
この小さなカフェの物語は、ショウの物語は、
何か、本当に些細で小さなことかもしれないけれど
きっと気付きをもたらしてくれると信じている。
各話みんなの言葉はそれくらいの強さがある。
その言葉には映像に映っていないスタッフの魂ものっている。
「ゆれるせいかつ」はここに僕らが存在したという一つの証だ。
僕はこの作品を作り上げることができた事を誇りに思っている。
そして時間を共にしてくれたキャスト、スタッフのみんなに心の底からの尊敬の念を持っている。
そして何より、最後までいや1話でも見てくれたあなた方に、大きな感謝を伝えたい。
またどこかでショウとお会いしましょう。
寂しくなったら、「ゆれるせいかつ」に会いに来てね。
本当に、ありがとうございました。
籾木芳仁
作品リンク「ゆれるせいかつ」
P.S.
あーあ。6000字越えちゃったよ。
こんなに書いて読んでくれるのかな。
知ーらねっ。にひっ。
↑てんちょーと共に
籾木の作品読んでくださってありがとうございます。次の作品のための制作費、取材費、そして僕の心の支えになります。サポート本当に嬉しいです。頑張ります。