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家事動線とすすぎ

これは結構有名な話だけれど、イギリス人にはかなりの割合で食器を洗った後、すすがない人がいる。洗い方そのものも日本とは違っていて、たとえば日本だと「スポンジに洗剤をつけて洗い→お湯、ないしは水ですすぐ」のが普通の手順だと思うのだけれど、こちらでは基本的に「流しにお湯をためて洗剤を入れてその中で洗い→布巾で磨くように拭く、ないしは洗い物カゴで干す」が食器洗いの流れだ。

もちろん、それが機能するにはコツが必要で、食べ残しは全て綺麗にゴミ箱にスクレーパーで入れ、汚れの少ない、たとえば水のコップなどから洗い始め、どんどん油汚れのあるものへと移動していくことになる。

最近のイギリスの家事指南本を読むと「食器はすすぎましょう」とは書いてあるけれど、こちらの人と一緒にキッチンで作業をしていると、皿洗いのすすぎはおろか、食品でも本当に「さっとした水洗い」をしない人が多いことに気づき、結構びっくりする。

スーパーで買ってきたミニトマトなど、私だったら皿にのせる前にさっと水をくぐらせたいのだが、そのままざざっと、皿に移す人が結構いる。


ちなみにこういうことを書くと「だからイギリスの料理はまずいんだ」としたり顔に言う人がそれなりの人数でてくるのだけれど、食器をすすがない国は多分、イギリスだけではない。フランスでも「そういう家庭はある」というのを聞いたことがあるし、オランダにはかなりの割合でいる、などとネット上では議論になっているから、おそらく北西ヨーロッパにはそこそこある習慣なのだろう。ベラルーシ出身の友人は「信じられない!」と身震いしていたし、イタリア人の知人も「え・・・」と絶句していたから、東欧、南欧にたどり着く前のどこかで、習慣が変わるのだろうと思う。

「すすいでしまうと水の跡が残るけれど、石鹸水だったら跡が残らずにピカピカに乾く」などという説もまことしやかに言われていて、なんというか、まあそれはそれで何かの整合性はあったのだろう。昔は。

そういうわけで、水洗いをあまりしない文化のキッチンは、私には非常に使いづらい。具体的には「洗う」→「切る」→「調理する」の作業動線が一本になるように設計されていない台所が多いのだ。

どうやら、イギリスの台所で最も重要なのは「流しが窓の前にあること」であるらしく、たとえば我が家の流しは窓の前にあり、流しとコンロの間には全く作業スペースがない。(そこにボイラーがどん!と鎮座している。)

作業は流しと反対側の壁側にあるワークトップですることになるのだけれど、確かにこの作業動線だと水洗いをしたくなくなるな、としみじみ思う。ちょっと洗ったトマトの水滴も、ちょっと洗ったボウルの水滴も、すぐに綺麗に拭かない限り床にポタポタ落ちる。

一体なぜ、そこまで流しを窓の前に持ってくることにこだわるのかは私には全くもって不可解なのだが、おそらく食器洗いが重労働だった頃の名残ではあるのだろう。「だって、お皿洗いをしている間ぐらい外を眺めていたいじゃない」と言う人が多く、へええ、という気分にはなる。


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