見出し画像

My little sweet

「陽太、これからはちゃんと、お菓子は1日分だけ食べようね」
歯医者からの帰り道、泣きじゃくる陽太の手を引いて、諭しながら歩く。
「1日ぶんって、どのくらい?」
腫れた頬にもう片方の手を添えて、陽太が尋ねる。
「うーん」
私はしゃがみこんで陽太の胸ポケットをちょん、と指さす。
「ポケットに入るくらいかな」
陽太が大きくしゃっくりをして、涙がぽろり、こぼれおちた。
「ほら、帰ったらお薬のんで痛いのバイバイしよ。ばぁばが陽太の好きなハンバーグ作ってくれてるんだって」
うん、だか、むん、みたいな声を返される。
本当にくいしんぼうさんね、パパに似たのかしら。
しゃくりあげる陽太のふくふくした手を握りながら、呆れつつも微笑んだ。

薬が効いて、お義母さんお手製のハンバーグを食べると、陽太はすっかりご機嫌になった。
いつも以上に念入りに磨かなくては、と歯磨き粉をたっぷり練りだしていると、困り顔をしたお義母さんに呼び止められた。
「由紀さん、お父さんの薬入れ知らない?壁にかけてたのが・・・」
「え?私は知らな・・・あっ」
いやな予感。あわてて陽太の部屋に走る。
ドアを開けると、お義父さんのウォールポケット、そのひとつひとつに目いっぱいお菓子を詰め込む陽太と目が合った。
「これ、ぼくの1日ぶん!」
両手を広げ、にかっと笑う陽太の銀歯がきらり、瞬いた。


【作品後記】
たらはかにさんの毎週ショートショートnoteのお題「ポケット大増殖」に参加させていただきました。

薬入れだったり封筒入れだったり・・・ウォールポケットっていうんですね。
主題と関係ないですが1週間分のお菓子を1日で食べてしまいがちなので、陽太くんの気持ちはよくわかります。
あと、やっと短めの文章にまとめることができて、個人的に書けたことがかなりうれしい作品です。