漫才

舞台中央に芸人A、芸人Bが漫才用のスタンドマイクを挟んでスタンバイしている。芸人Bは車椅子で点滴を打ちグッタリしている。

芸人A「どもー。ドンガラドンですー」
芸人A「ドン!ガラ!ドン!」

芸人A、激しくヘッドバンキングしながらツカミのギャグをする。芸人Bも同じことをしようとしてるが、瀕死の状態なのでほとんど動けていない。

芸人A「さー。よろしくお願いします。と、いうことでね、最近は雨の日が続いてますけどねー」
芸人B「……ゲホッ!ゲホッ!」
芸人A「いやいや、相槌おかしいわ!なにそれ」
芸人A、かなり遠慮がちに芸人Bの頭をそーっと叩く。
芸人A「いやー、洗濯物が乾かんからねー。これは困っちゃうよねー」
芸人B「ゲッホッホ!ゴボ!ガー!」
芸人A「いやいや、相槌!どうなっとんねん!」
芸人B「ゲッホー!ゴホ!」
芸術A、真剣な顔で芸人Bをみる。芸人B、虫の息。
芸人A「いい加減にしろ!」
芸人A、芸人Bの肩をトンと叩き、頭を下げる。
芸人A「どうも、ありが……」
芸人B、芸人Aの服を掴み、漫才をシメようとしているのを止める。
芸人B「……まだ……ハァハァ…終わって……ないやろ」
芸人B、虫の息。
芸人A「いや、でもお前……」
芸人B「俺のワガママやいうのはわかってる。お客さんも俺のこのナリじゃ笑いづらいやろ。でもな、俺は、死ぬまで漫才師でおりたいんや……」

芸人A、涙をこらえる。
少し間をおく。

芸人A「しっかし、お前もしぶといよなー。なんの病気やったっけ?」
芸人B「肺……、以外が全部ガン」
芸人A、お客さんの方を向く。以降、涙をこらえながらの漫才。
芸人A「ありえます?こいつめっちゃヘビースモーカーなんですよ?」
芸人A「それやのに肺はピンクでピカッピカ!それ以外はズタボロですやん!」
芸人B「肺は丈夫なのよ」
芸人A「ホンマ肺だけな!肺以外全部虚弱ってなんやねん。意味ないわ!」
芸人A、少し涙が出てしまう。袖で拭う。
芸人B「ホンマやな」
少し間をおく。
芸人A「それにしてもな、お前もようやるわ。医者に余命宣告されたやろ?余命3ヶ月や言われてな」
芸人B「4ヶ月前にな」
芸人A「ね!ヤバない?計算上もう死んどるやん!人生のロスタイムはいっとるわ!」
芸人B、笑う。
芸人B「うまいこと言うやん」
芸人A「呑気か!……お前は……ホンマに……」
芸人B「いやね、僕、ホンマに思うんですよ。漫才やってて良かったて」
芸人B「こうやって、お客さんの前でくっちゃべってるだけでコレがもらえるんですから」
芸人B、お金のジェスチャー。
芸人A「やらしい手つきやめぃ!しかも手が痙攣してブレブレやんけ」
芸人B「ホンマにね。好きなこと好きにやってるだけなのにな。お前と漫才できたら、俺は、それで……」

芸人B、咳き込む。

芸人A「ゴホゴホ言うてて、何言うとるかわからんわ……。アホやな……お前は……」
芸人B「オチで死ぬってのが理想なんですけどね。なかなかそうもいかんやろね」
芸人A「お客さんの気にもなれ!寝覚め悪いわ!」

芸人B、声を発しようとするが、呼吸が浅くて出せない。
芸人A、フォローする。

芸人A「ほんま、死ぬなよ!俺もお客さんも一生もんのトラウマ抱えてまうわ!」
芸人B「……もう、ええで」
芸人A「なんや偉そうに! いい加減にしろ!」
芸人A、芸人Bの肩を軽く叩く。
芸人AB「どうも、ありがとうございました!」

暗転




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