闇雲


<○:編集点、1秒間以上間を空ける>

以下、朗読

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朝、少年は、
目覚めると同時に、ため息をついた。

またか、、、

少年はそう呟き、空中に浮かぶ
黒い雲のようなモヤモヤを見つめる。

ベッドで仰向けに寝ている少年と、天井との間、
その丁度、中間あたりに、
それはあった。

色は黒い。真っ黒だ。
形は、、、
雲のような霧のような、、、
一定の形をもたず、モヤモヤと空中に存在している。
大きさは、バスケットボールくらいだろうか。

こいつは、
いつからか少年にまとわりついている。
少年は、うるさそうに、
手で振り払ったり、団扇(うちわ)であおいだりしてみたが、
なんの効果もなかった。

いつも少年の周りで、
何かいいたげに、
でも、何も行動を示さず、
ただただ付きまとってくる。

もういい。
こんなものは無視だ無視。

少年は、
朝食を食べるために、一階へ降りる。
その足取りは重い。

○なるべく、母の顔を見たくなかったから、
朝食の間、少年は、ずっと俯いていた。
母は、今朝の天気や、
学校の行事について話しているが、
少年は、何の反応も示さない。

でも、朝食を食べ終えて席を立つときに、
少年は、真っ直ぐに母の姿を見た。
母が昨日と変わりないことを確認したのだ。

母の全身は、黒い雲で覆われていて、
顔が見えない。
手足も見えない。
どこも見えない。
それなのに、いつものようにふるまう母が恐ろしい。
まるで、黒い雲なんて存在しないかのように、
いつも通りにふるまう母が、
恐ろしい。

二階に戻った少年は、再びベッドに寝転ぶ。
学校に行ったって意味がない。
どうせ、黒い雲に覆われていて、
誰が誰だかわからない。

少年は考える。
なにがいけなかったのだろうか。
寝返りをうって、うつ伏せの姿勢になる。
高反発のマットレスに顔を押しつけ、音を出さずに叫ぶ。
なにが起きているんだ。
そのままの姿勢で、両手両足を伸ばす。
これからどうすればいいんだろう。
ベッドと胸の間に両手を入れて、
勢いよく体をつっぱね、起き上がる。

少年は、突然に閃いた。
自分は何を悩んでいるのかと、
冷笑家めいた微笑みを、口元に浮かべる。
なにも頭を悩ますことなんてない。
わかりきったことじゃないか。

ベッドから抜け出し、窓をあけ、
街の中央にある真っ黒な山をにらむ。

一目見ただけではわからない。
山は綺麗な円錐の形に見えたが、
実は、山の輪郭は常にゆらいでいる。
黒い雲が蠢いているのだ。
おびただしい数の黒い雲が集まって、
巨大な山のように見えるのだ。

少年は、窓を閉めて、身支度を整える。
卸したての下着をつけ、上着をはおり、靴下を履く。
一応、ランドセルを背負う。
カモフラージュのためだ。
中身は教科書などではない。
冒険のための食料と水だ。

玄関へ向かいながら、
少年は、またしても、口元がゆるませた。
しかし、今回は冷笑家のそれではなく、
無邪気な子供らしい笑顔と言えた。

少年は、心地よい高揚感に包まれていた。
身体が軽い。
なにせ、全身全霊をもって 未知の存在に挑むのだ。
精神も肉体も、興奮でみなぎっている。


山のふもとへ着けば、きっと仲間がいるだろう。
少年と同じく、勇敢で清い心をもった同志だ。
家から飛び出した少年は、熱狂をそのままに駆け出した。

そして、少年の後ろから、黒い雲がついていく。
黒い雲は、さっきよりも、ずいぶんと大きくなっていた。

最後まで読んでくれてありがとー