インタビュー

明転。

向かい合った二つのパイプ椅子に記者と映画監督が座っている。

記者:  今年で監督歴30年となられますが、これまでのご経歴を振り返っていかがでしょうか?
監督:   ……。
記者:   あの、監督……?
監督:   いや、おかしな質問だな、と思ってね。
記者:   え、あの、それはどういう……?
監督:   監督になった、というのがいつかは明確にはできないよ。
いうなれば、作品の構想などは幼少期からあったわけだしね。
記者:   (小声で)うわー、そういうタイプかー。

記者、椅子から腰を少し浮かせて居住まいを正す。

記者:   失礼しました。それでは質問を変えます。監督はこれまで
多くの作品を手掛けてこられましたが、今まで特に思い入れの
ある作品はどれでしょうか?

監督、不機嫌そうに咳払いをして、ゆっくりと首を回す。
記者、監督の挙動にびくびくしている。

監督:   特に思い入れ、……ねえ。
記者:   はい。
監督:   キミぃ、作品ってのはねぇ、いうなれば我が子のようなものだよ。
記者:   はい。
監督:   それに対してだよ?順位をつけるようなことするってぇのは、これ、どうなの?
記者:   あの、でも……。

監督、眉毛を吊り上げる。記者、萎縮する。

記者:   す、すみません。
監督:   いや、いや。こちらこそすまない。キミの意見もあるだろう。
聞かせてもらおうじゃないか。僕の子供たちに不愉快な順位づけをすることでどんな素晴らしいことが起こるのかをね。
記者:   ……。すみませんでした。質問を変えます。

監督、ゆっくりとうなずく。

記者:   それでは……。ずばり、監督にとって映画とはなんでしょうか?
監督:   (おおげさにため息をつく)ハァ……。

記者、プルプルと肩が震えている。

記者:   あの、監督?恐れ多くも、これはインタビューなんですから……。
監督:   いや、失礼。あまりにも質問が愚劣なものでね。

記者、勢いよく椅子から立ち上がり、自分のパイプ椅子を蹴っ飛ばす。

記者:   ああ!?調子にのるなよチョビ髭ハゲ野郎!コラァ!

記者、監督に詰め寄る。監督、狼狽している様子。

監督:   ちょ、ちょっと。落ち着きたまえよ。キミ……。僕は髭でもハゲでもないじゃないか。それに……キミは勘違いしてるんだ。
記者:   意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!!!

真の映画監督、下手から登場。

真監督:   インタビュー会場はここかね?

監督、さっと顔を伏せる。
記者、驚愕の表情。

記者:   誰だ!お前!



最後まで読んでくれてありがとー