殺虫

照明がつくと舞台の真ん中をはさんで二人の男がたっている。男たちは向かい合っているが、舞台中央の床の方を気にしている。

男A「俺はさ、明日の朝、早いんだ」

男B、腕を組んで大きくうなずく。

男A「それに、昨日、夜遅かったから眠いし」

男B、うなずく

男A「……もう、いいだろ?」

男B「駄目だ」

男A、うなだれる。

男A「……もう少しくらいならいいけど。でも、時間かけたって解決する問題じゃないだろ?」

男B「解決はしない。でも、償わせることはできる」

男Bは男Aをにらみつける。

男A、怒りの表情。

男A「俺じゃねぇって!!」

男B、冷ややかな表情。

男B「この部屋に住んでるのは俺とお前だけだ」

男B「それに、ちがうっていうなら、足の裏をみせてくれればそれでいい」

男A「それはできない!!」

男B「なんでだよ!!」

男二人、にらみあったまま沈黙。

男B「お前がやったんだ」

男A「ちがう!!」

男B「じゃあ、足の裏みせろ!!」

男A「いやだ!!」

男B、あきれて中空をみつめながら腰に手をやる。

男B「足の裏は見せない……、やたらと話しを終わらせたがる……。お前だろ!! お前が……。お前がハム助を踏み殺したんだ!!」

男A「ちがうって!!」

男B「じゃあなんで、足の裏みせねんだよ!!」

男A、ふー、とため息をつきつぶやく。「……からだよ」

男B「え?」

男A「俺が踏んだかもしれないからだよ!!」

男B「なにを開き直ってるんだ!! この人殺し!!」

男A「人じゃねぇ、だろが……。虫だろが!!」

男A「ハム助て……。ゴキブリにまぎらわしい名前つけてんじゃねぇよ!!」

男A「ていうか、ゴキブリ飼うんじゃねぇよ!!」

男B「南米の珍しいやつだろが!! それに命は平等だろが!!」

男A「あー、もう。もし俺が踏んでたとしたら足の裏にゴキブリのなにかしらねちゃねちゃがべったりってことじゃねぇかよぉー。気持ちわる!!」

男B「気持ち悪いゆーな!! う……。うう……。」

男A「え、お前。泣いてんの?」

男B「ハム助ぇ……。出会いは凍えるような寒い夜だった」

男B「バイト帰りでクタクタの俺が不良に絡まれてたとき、助けてくれたのがハム助だった」

男A「虫が?」 

男B「その日からハム助はいつも店の前にいて、俺のバイトが終わると後ろからついて来るようになった」

男A「虫が?」

男B「きっと俺がまた不良にからまれないか心配だったんだろう」

男B「それから、ハム助はウチの中にまで入ってくるようになった」

男B「はじめは遠慮がちだったハム助だったけど、次第に心を開いてくれて、お互いの将来を語り合うまでになった」

男A「虫が?」

男B「俺が一流の料理人になって自分の店をもったら、一番最初のお客さんはハム助だって約束してたんだ」

男A「虫と?」

男B「ハム助と初めてベッドを共にしたのは……」

男A「待てぃ!!」

男A「さっきから妄想がひどいぞ。こいつただの虫だからな!しかも南米産じゃねぇじゃねぇか!!地元民じゃん!!」

男B「おいおい。こんなカラフルでデカイんだから南米産にきまってんだろ」

男A「まあ、見慣れない虫ではあるけど」

男B「それに妄想ってなんだよ? ほら、これみてみろよ」

男Bが男Aにスマホを渡す。男Aは以降、スマホの写真をみながら話す。

男A「え、いや、これ」

男B「かわいいだろー。ちゃんと二足歩行で歩けるし、意外と大食いなんだ」

男A「サイズがおかしくないか。それに、この」

男B「ああ、さっき話しただろ。俺に絡んできた不良だよ。ハム助、意外と肉食なんだ」

男A「いや、いや……。つっ!」

男Bが背後にまわって、男Aの後頭部を殴る。

気絶する男A。

怪物の叫び。キシャー!!

男Bは舞台中央を見上げる。

「起きたか。ほら、食っちゃえ」



最後まで読んでくれてありがとー