歴史と経済70〜財産としての知識〜

知識は財産になる。
本当だろうか。
付け焼き刃の知識はもちろん、有用性は低いかもしれない。
身にも付かない。
忘却され、その習得にかけた時間が失われることになる。
そうならないように、何かに応用することで確実に身につけることが重要である。


知識を獲得しようと思えば、思考することが重要になる。
思考とは課題を解決するために自分で調べ、考えることである。
自分で考えるためには、問題意識を持つ必要がある。
テキストのある概念の説明に疑問を呈するのだ。
何度テキストの文章を行きつ戻りつしても納得がいかず、テキスト以外の情報を調べてみることになる。
そうすると、膨大な文献やインターネットの記事を読むことになることもあるだろう。
そして、その大量の情報が集約されて、シンプルな一言にまとめられたのがテキストの一文であることに最後は納得できるかもしれない。
もし、このテキストの記述はおかしいとなれば、これこそまさにクリティカルシンキング(批判的思考)が実を結んだことになるだろう。


テキストの作成者側は全体像を知った上で、初学者にも平易になるように心がけている。
そのため、微に入り細に入りよりも簡潔な文章を好むのは理解できる。
しかし、読む側にとっては人それぞれ興味・関心は異なり、「ここを詳しく知りたい」とか「何でこうなるの?」と思う箇所は必ず現れてくる。
そして、テキストには「簡素」な説明しかなされていないということは往々にしてあることだ。


ここで思い通りにならない状況を打破すべく、疑問を解消すべく調べることになる。
そうすると、客観中立な知識だけでは済まされない雑多な知識を知ることになるだろう。


このように、「ああでもない、こうでもない」と言いつつ自分の思うがままに調べた知識は簡単にはなくならない。
その後も活用でき、結果として獲得される知識となるだろう。
そして、ここまでに一定の時間がかかっていることを認識する。
そのかかった時間が有意義だったのか、無駄だったのか?


人生の時間は限られている一方で、知識や情報は日々増えている。
GoogleやAIと知識の「量」で勝負しても話にならない。
しかし、それならば知識は必要ないのであろうか。
知識よりも学び方や他者との協働が重視されている背景には、過去の詰め込み教育への反省があるのであろう。
暗記重視の学習バランスを整え、考え方を学び、主体性、積極性を獲得する。
ただし、これは知識が不要であるということではない。
知識も考え方も両方大切なのであり、偏りをなくそうという議論である。


特に、深い学びは知識が重要な役割を果たす。
といっても、暗記型の知識ではなく、広がりがあり、多面的な見方が可能な知識である。
これは重箱の隅を突くような知識でなくていい。
教科書の太字レベルの知識を色んな角度で思考していくと、それで十分に応用可能な知識が身につくはずだ。


ある時、ビザンツ帝国(東ローマ帝国)の起源を考えていたら、ゲルマン民族の大移動が思い起こされた。
しかし、どこか違う。
この時期のイタリア半島の地図で思い浮かんでくるのは、東ゴート王国やランゴバルト王国である。
と、ここまでは脳内の作業である。
一応、昔身につけた世界史の知識を引っ張り出してきて、精一杯考えてみたのだ。
それでも思い出せない。

そこで資料集を取り出して確認する。
そうすると、395年のローマ帝国の東西分裂にまで遡る必要があったことがわかる。
言うなれば、初歩の初歩で躓いていたわけだ。
やはり使わなければ錆びるのが知識であると痛感する一方で、思考に活用できるほどには残存する知識のありがたさを感じた。


少なくても、地中海交易の話が出てきたときに、インターネットという武器を持っていたとしても、何も知らずに聞く場合と、既に歴史の知識がある状態で聞く場合とでは想起できる内容には大きな隔たりがある。


その場で調べることはもちろん、重要である。
しかし、一度自分の思考の篩にかけられた知識とありあわせのその場限りの知識とでは学びの深まりやその後の活用度の点で大きな差が出てくるであろう。


だからこそ、知識は財産にもなり得る。
人間の限られた人生で知り得ることには限界があるにしろ、貪欲に思考するためには貪欲に知る必要がある。


時間をかけて知ることはインターネットですぐに手に入るという大義名分のもと、取り組む必要がない行為だとは言えないだろう。


深く学ぶことで、その知識が見方や考え方につながっていき、自分の認識が一新される。
時間をとって多面的に考えることは決して、無駄に終わらない。
誰かが答えを出しているからといって、考えずにその解答を覚えたらいいわけではない。
既に誰かが解答を出していたとしても、今の無知な自分に最適な答えを提供できるのは自分自身であり、そんな知識を身につけながら人生を豊かにしていきたい。

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