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行動カスプ Behavioral Cusps

Karen Pryor Academy ライブエピソード#32では、ヘスス・ロサレス・ルイス博士(Dr. Jesús Rosales-Ruiz)のお話をききました。ここではかれの研究の一つである「行動カスプ」をご紹介します。

ヘスス・ロサレス・ルイス博士

ノーステキサス大学行動分析学部の准教授。

1995年にカンザス大学で博士号を取得。行動分析学分野のパイオニアであるドナルド・M・ベアとオグデン・R・リンズリーの指導を受ける。ヘスス博士は、動物のトレーニングを理論と応用の両面から研究している世界でも数少ない科学者の一人です。彼は、弟子たちとともに、動物のトレーニングの科学と実践の理解に大きく貢献しています。

行動の先行制御、般化、行動カスプ、流暢性に基づく教育、自閉症の治療、学業行動の教育、規則に支配された行動、偶発的な行動についても研究を重ねています。Journal of Precision Teaching, the European Journal of Behavior Analysis, the International Journal of Psychology and Psychological Therapyなどの専門誌の編集委員を務めています。東部心理学会のフェロー、ケンブリッジ行動研究センターの評議員、国際行動分析学会のメンバーでもある。

カスプとは?

"カスプとは行動変化の特別な例であり、次に起こる可能性のある重要な変化である"

行動分析学者は、行動カスプを「特別な特徴や特殊な効果を持つ変化」と定義しています。行動カスプ(後述する例)を経験することで、学習者は新しい強化子、新しい強化環境、関係性にさらされ、「生成性」を生じます。言い換えれば、学習者は行動カスプを経験した後、より豊かな経験にアクセスすることができ、それ自体が楽しくなることもあれば、単にさらに多くの経験や環境にアクセスすることが可能になることもあるのです。

事例1

少年は、コミュニケーションに遅れがあり、運動能力も限られている学習者です。手を振っても、ジェスチャーをしても、「何を言っているのか」理解してもらえず、もどかしい思いをすることがありました。母親は、彼が何を必要としているのか、何を望んでいるのか、必死の形相で考え、彼が何時間も叫び続けるので、考えあぐね、結局、彼を強く抱いて揺さぶり、まだ理解できないまま、その日はもう頑張ることができないでいることがよくありました。

ある日、少年は指を伸ばして指さすことができるようになり、その時母親は少年が何を指したのかを正確に理解しました。彼女はすぐにそれを提供し、少年はリラックスして微笑みました。二人は一緒に部屋を歩き回り、母親は少年が指差したものの名前を言って喜びました。障壁が取り除かれたのです。少年は、物を指差すという行動のカスプが発生し、今では、はるかに少ないフラストレーションでコミュニケーションをとることができるようになったのです。そこから数カ月で、同じページの違う絵を指さすこともできるようになったのです。少年の母親は、少年が必要としているものを理解することに感動し、少年が何時間も泣き続けるということはほとんど起こらなくなりました。

事例2

ある保育士の経験です。彼女は、私立保育園の教室での行動管理に苦労していました。子どもたちは、少なくとも毎週、多いときには毎日、互いに殴り合ったり、噛み合ったりいざこざが絶えません。彼女の経営陣は、これらの行動に対して寛容な方針をとっていますが、彼女と教室の同僚たちは、どうすれば子どもたちを叱り続けることなく行動を止められるか毎日悩んでいました。

ある週末、ジーンはポジティブ・ペアレンティングのセミナーに参加しました。彼女は10代の息子にそのテクニックを使うつもりでしたが、「アテンション・ピボット」というテクニックが、子どもが教師の注意を引こうとするときに教室でも有効だと説明するのを聞いて、ヒントを得ました。翌日、彼女はそのテクニックを保育園で実践してみました。自分が話し始めるタイミングと子どもの方を向くタイミングを1つ変えるだけで、押す、泣きわめく、テーブルに登る、おもちゃを投げるといった日常の行動が減少したのです。

さらに、彼女にとって嬉しいことに、これらの行動は1時間足らずで減少し、彼女のクラスのヘルパーたちは、彼女がやり方を変わったことにすぐに気が付きました。以前は、おもちゃを持った生徒が他の生徒を見ているのを見ると、保育士は観察し、介入する必要があるまで(または生徒がおもちゃを引っ張り出そうとするのを止めるまで)待っていたのですが、今は、そのようなことはありません。以前、彼女は1日に何度も「ストップ!」「ダメ!シェアしなきゃ!」と声をかけていたそうです。彼女がタイミングを変えた後、彼女は今、子供が問題を起こす前に子どもに向きあい、その子が正し行動をしている所を確認するようにします。この変化に気づいた他の教師たちも、自分たちで試し始め、やがて、毎日あった叩きや噛みつきの回数が、月に数回とまれにしか起こらなくなったのです。

事例3

私は行動カスプを目の当たりにしたことがあります。

娘が1歳1ヶ月の時ことです。普通1歳前に歩き出すか、まだ歩かなくても伝い歩きをするものです。娘は明らかに歩けるだけのバランスを備えているのに、一向に立ち上がろうとせず、いつまでも這い続けるのです。どれだけ立って歩くように促しても、すぐに四つん這いになって這うのです。それもそのはず、二本足で歩くのはまだ安定が悪く、這う方がダントツ安定していて早く目的地まで移動できるからです。

ある日、私から少し離れておもちゃで遊んでいた娘が、両手におもちゃを持ったまま立っていました。私の顔をみたので「ママにそれちょうだい」と言ってみました。娘はちょっとためらったのですが・・・多分、移動にハイハイしたかったのでしょうが、両手が塞がっており、でもママにおもちゃを届けるためにおもちゃを放してしまうわけにもいかないと思ったのでしょう・・・よちよちと二本足で歩み、私におもちゃを手渡してくれました。

その時の娘の驚きと感嘆の顔を忘れません。そうか!二本足で歩けば手が使えるんだ!と理解した瞬間です。

「ありがとう!もっと持ってきてくれる?」とお願いすると、それからせっせと私とおもちゃが散らばっているところを二本足であるいて何度も往復しておもちゃを持ってきてくれました。

二本足で歩くことを覚えた娘には、その後全く違った世界が広がったことは言うまでもありません。

動物トレーニングでの事例

動物がクリッカー音を古典的条件付けされること、ハンドターゲットを学習し出来るようになることなどがあげられます。これらの動物トレーニングにおける基本行動は行動カスプに当たり、その後のトレーニングのあり方、行動に大きく影響してきます。

参考文献
"The Behavior Cusp: A special instance of behavior change"


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