第3話

ソパーンの自宅、子供部屋、夕方
息子が帰宅
母(ソパーンの妻)「ちゃんと手洗いなさい」
子「分かってるよ。今日のご飯なに」
母「ハンバーグよ」
子「やったー」

子「あとママに聞きたいんだけどさ、僕の髪ってなんでこんな色なの?」
母「どういう意味?」
子「今日友達と遊んでたらさ、変な頭したお兄ちゃんに会ったんだ」
母「変な頭?」
子「紫色の髪の毛でね。からかったけどちょっとカッコ良いなって」

急に子を抱き寄せる母
子「ママどうしたの」
ビックリする息子
母「なにもされなかった?」
子「うん、それどころかからかってやったんだぜ」
母「そう」
母はもう一度子を強く抱きしめた。


同刻、噴水近くの喫茶店

ウノ「さすがのチノムでも1時間は無理でしょ」
イーモ「そうですよ慎重に作戦立てましょう」
チノム「そうね私も慎重に作戦立てて、完璧にミッションをこなしたいわ。でもねなぜだろう。急ぐ必要があるんだよね。誰のせいだっけ?ねぇ誰のせいだっけ」
黙る二人


イーモ「そ、それで作戦のほうは」
チノム「そうねあんたらから聞いた情報を総合して、大体の作戦はできたわ」
ウノ「さすがだな」
そうしてチノムは作戦を2人に伝えた


チノム「じゃあ作戦を説明するわ」

作戦その1:市長秘書を遠ざけよ

チノム「まずはイーモあんたの出番よ。市役所の市長室の前のデスクに座っている女性、彼女が市長秘書よ。そして彼女をハイセンスで隠してほしい」
ウノ「いきなり秘書を誘拐するのか。やるな」
チノム「誘拐じゃないわ。一時的に私が入れ替わるだけよ」

作戦その2:市長秘書と入れ替わり、バレずに市長に近づけ
チノム「秘書が完全にいなくなってしまったらそれは異常になってしまう。できる限り違和感をなくすことがポイントよ」
ウノ「俺はそんなことできんぞ」
チノム「やるのアンタじゃないわよ」
イーモ「その間僕が秘書さんに異常だと感じさせないようにしないといけないわけですね」
チノム「その通り」
ウノ「なるほどな」
ウノが何も分かっていないことを二人は分かっている

作戦その3:市長を眠らせよ

チノム「次に私が市長を眠らせるわ」
ウノ「なるほど、眠らせてその隙に重要な資料盗み出すんだな」
チノム「違うわ」
イーモはスルー

作戦その4:市長室に侵入し市長の感覚を移動させよ
ウノ「なるほどそこで俺の出番ってわけだな」
チノム「そうよ、なるべく私たちでサポートするけど、目立たないように来てね」

作戦その5:場を元に戻してから、順番を間違えずに撤退せよ
チノム「単純な話だけど大事よ。秘書が二人なんてなってもダメだし。市長室に見知らぬ大男なんて状況想像しただけでクラクラするわ」
ウノ「分かった」
疑いの目を向ける二人。微笑むウノ
チノム「とにかくいかに何もなかったを演出するかがポイントよ」


イーモ「一つ聞きたいんですけど、もしチノムさんが秘書の仕事を完璧にこなせるとしても、誰がどこからどう見たってチノムさんですから秘書じゃないってバレますよ」
チノム「そうね。そこで私はこのコーディネートを応用して使うわ。センスの良い店員さんに安くしてもらったの、改良のヒントももらったわ」
少し心配になる二人

申し訳なさそうに手を上げるウノ、発言を許すチノム
ウノ「今更だけど、移動した感覚さすがに覚えてられないぞ」
チノム「そんな事期待してないわ。ここで使うのがビジュアル。あなたが移動した感覚をビジュアルで記録する。使い方は聞いてきたわよね」
ウノ「なんとなくね」
期待していないの額面に少し傷つくウノ

チノム「その上で市長の記憶を元の場所に戻し、私とウノはその場を離れ、イーモは秘書を元の場所に戻す。そうすれば特に何もなく戻れる。市役所は普通の日常。市長は疲れて軽く眠ってしまったくらいにしか思わないはずだわ」

イーモ「なるほど。うまくいけば誰も傷つけずしかも誰にもバレずにミッション遂行することができそうですね」

ウノ「だけどその作戦だとお前にかなりの負担がかからないか?」
チノム「そうね、出たとこ勝負よ」
ウノ「さすがだな」

そうして3人は市役所へと向かった


市役所
ここ市役所はウユジーン街の情報が全て集まるところである。経済の動きもキューブの出土情報や生産量の変化などもこの場所に集まってくる。この街の脳の部分である。

それら情報はすべて私が参加する会議で共有される。ちなみに私は無能な市長などではない、勤勉で革新的な政策を打ち出してきた。そうでなければ街一番の大商人などと呼ばれることもないだろう。露骨に私の会社を贔屓するような政策も出しはしない。自分の会社のCMには自分で出る。それが私の流儀である

イーモ「なに読んでるんですか」
ウノ「ソパーン著、私の旅路ってやつ。店員のおっちゃんがくれた」

チノム「彼が勤勉であることは事実よ。だから彼の頭の中は私たちにとって宝の山になるわけ」
ウノ「でもこいつが言いたいのってそこじゃないよな」
イーモ「どういう意味です?」
ウノ「うまくは表現できないんだけど、前に行く感じだよな」
チノム「なにそれ」

市役所に到着し、最終確認をする一行
チノム「公務から帰ってきて、秘書と一度接触した後が開始のタイミングよ。あんたは目立つから外で待ってて」
ウ、イ「了解」

市役所内で待機するイーモとチノム、外で寂しそうに待つウノ

数刻後
公務が終わり戻ってきてもいい時間になっているのになかなか市長の車が見えない。この次の会議までそれほど時間は残されていない。もともと戻ってきてから会議までの刹那のタイミングを狙ったギリギリの計画であったのだ。市役所内も騒がしくなり始める。当然このような時は最悪の想定をして動くからだ

市役所内が混乱状態なら作戦どころの話ではない。そもそもいつ密入国者とそのお供という状態がばれてもおかしくないのである。続行か断念か、チノムは選択を迫られていた。
イーモ「引きましょう、チノムさん」
イーモの進言は当然である。しかし次同じことができる保証はない。そもそも次があるかも分からない。大した成果もあげられず逃げるように自国へ帰るのか

そこへ、ものすごいスピードでこちらへ向かってくるウノ
チノム「なにやってるの。あなたは目立つからギリギリまで外にいなさいって」
ウノ「ここじゃない」
そういうとウノは二人を外まで引っ張っていった

市役所外
ウノ「こっちだ」
チノム「どういうこと」
イーモ「訳が分かりませんよ」

ウノ「最初から違和感を感じてたんだ」
チノム「いつからよ」
ウノ「CMを見たときからだ。そもそも大商人と市長の二足のわらじなんてアンバランスだと思わないか?履き心地も全く違う左右別の靴だ」
イーモ「たしかに」
ウノ「市長と商人を両立できる人もいるだろう。でも彼には無理だ」
チノム「なんでそう言い切れるのよ」
ウノ「直感だ」
イーモ「直感ですかw」
ウノ「あと強いて言うなら...あの奇妙なCM、あれはおそらくソパーンの実体験だ」
イーモ「なるほど」
チノム「てことは」
ウノ「ああ」
イーモ「今から向かうのは」
ウノ「ソパーンのオフィスだ」

ソパーンコーポ

ここでも受付と話を弾ませるウノ。その隙にチノムとイーモはオフィス内へと潜り込む。ゲスト用の社員証を手に入れる。堂々と中へ入りそのままエレベーターで社長室のある30階へ。ソパーンコーポはウユジーン街で最も高い建物である。社長室のある階にゲストの社員証をさげる大男がいれば、普通は不自然極まりないのだが、ウノの場合は全く問題ない。なぜならお茶くみの女性陣とも井戸端会議に花を咲かせることができるからだ

ウノ「そこでビビっと来たわけよ。あのCMは社長の実体験だってね」
事務員A「本当ですか笑」

その隙に秘書Aへの変装を済ませるチノム。同時にイーモは本物の秘書Aに
イーモ「すみません、僕ゲストで来てるものなんですけど、ここまで迷ってきちゃって。道を教えてもらえませんか」
と言い社長室から遠ざけることに成功した。あとはハイセンスをかければ作戦スタートである。ちなみに社員証はウノからもらった。ウノは社員証なしで溶け込んでいるのである

イーモがハイセンスをかけ作戦がスタートした

回想
ウノ「ソパーンコーポはソパーンのクリエイティブに対応しているはずだ。予想外のことが起きても冷静に対応しなければいけない、と俺の勘が言っている。あとよろしく頼む」
チノム「基本の作戦は市役所の時と同じよ。いくつか誤算もあるわ。まず一つ目はウノが目立ってしまうということ。市役所よりも避けられないことだわ。そして二つ目が秘書が一人ではないことよ」

秘書室
秘書Aとして席で業務や情報をある程度観察した後、社長室へ向かおうとするチノム
秘書B「どこへ行かれるのです」
秘書A(チノム)「社長に確認したいことがありまして」
B「私が行きましょうか、あなた今忙しいでしょう。先ほどゲストの対応もしていましたし」
A「ご心配には及びません」
B「そうですか」
足早に秘書室を出て社長室へと向かう。秘書室長とすれ違い会釈をする。ウノはその場を離れる準備をしていた。

社長室

ノックをし一人社長室に入るチノム
チ「失礼します。お茶の替えを持ってきました」
ソ「お茶は先ほどもらったばかりだが」
チ「先ほど持ってきた新人に確認したところ社長の好みを把握していないようでしたので」
ソ「そうだったのか。お気遣いありがとう。君はうちに入ってくれて何年だっけ」
チ「次の4月で5年目になります」
ソパーンは静かにお茶を手に取り、眠りについた

ゴーサインを出すチノム、素早く社長室に入り、ソパーンに向けて両手をかざし、目をつぶるウノ。前と同じフォームでソパーンの感覚を引き出す

フィルトランスファ、ウノはこの形をとることで対象の感覚を移動させる力に長けていた

無事に引き出しビジュアルを使おうとしたまさにその時
「ビビビビビ」
と大きな音が鳴った

ソ「うぅ」
そしてなんとこの音でソパーンは目覚めてしまったのである

最後まで読んでくれてありがとうございます 1000年後くらいまでには誰かに届くといいな