1話

昔々、古今東西生涯世界中を駆け巡り、森羅万象この世の全てを書に記した知の巨人ソロン
彼は「どうしたらおじさんみたいなりっぱながくしゃになれるの?」と子供に聞かれるたびこのように答えていたとされる
「いやそれが全然分からん、おじさんが聞きたいくらいだよ」


インディバ国、オリン村、旅館内
旅の青年ウノは揉めていた
ウ「だからウノだって。U、N、O。今日から2泊2名で予約の」
旅館の受付「ですから何度もお伝えしているように、ウノ様という名前でのご予約は承っておりません」
ウ「だめだ、全然分からん。助けてくれ」

?「ウノさん、表でやってる相撲大会賞金10万イェンだって」
外から聞こえる小さな声に反応し、即座に立ち直るウノ

ウ「なんだと。じゃあ一旦荷物だけ頼むわ。俺の名前はウノね。よろしく、ねーちゃん」
受付「ちょっっ…」
そういってウノは出て行ってしまった

?「予約なんてしてないです。ごめんなさい」
そういってその場を去る青年


旅館の表、相撲大会会場

ウノは敵なしだった

実況「初出場の挑戦者ウノ、10連勝。勢いが止まりません!!!」
ウノ「次こいやぁぁぁぁ」

そこにかなりの足音をたてる、明らかな大男入場してきた

実況「10連勝に到達したということで、チャンピオンであるカマタリ選手への挑戦権が与えられます。インディバ国南西部相撲大会もいよいよ大詰め。彼を倒すことができれば賞金10万イェン獲得です」

ヘラヘラと余裕の表情を見せるカマタリ

カ「自分より弱い人間を倒すだけで金がもらえる。お前みたいな小男5秒もあればじゅうぶ...」
ウ「小男じゃねぇぇ」
シンプルな突っ張りでカマタリは彼方へ、沸く観客、吠えるウノ

実況「なななんとウノ選手、チャンピオンであるカマタリを一撃!!」
?「(誰もツッコまないけど明らかにフライングだよな)」

そしていつの間にかあるお立ち台
実況「勝利した心境を聞いてみましょう。放送席、放送席、こちら新チャンピオンのウノ選手に来ていただきました。ウノ選手今どんな気分ですか?」
ウ「最高です」
実況「気になるのは賞金の使い道ですが、いったい何に使うつもりなんでしょう」
ウ「そうですね。土俵の上では敵として向かい合っていましたが、今となっては彼らもともに戦いあった戦友...。だから、今日の夜はみんなで宴じゃぁぁぁ」
客「ウォォォォォォ」

盛り上がりの輪から一歩引いたところで、賛辞を贈る男。ウノの同行者の一人であり、ウノに表で相撲大会が開催されていることを知らせた。名をイーモという
イ「(やっぱりそうなるよね笑)」


酒場

盛り上がる酒場、男たちに囲まれるウノとイーモ

ウノ「飲んでるかお前ら」
男たち「当たり前だ」
男A「しかしこんないい男に出会ったのは久しぶりだな」
男B「間違いない」
男C「強いし、豪快で面白い。なんでもできるな」

ウノ「いやいや、俺は何もできねえ。今日だってこいつが教えてくれたから賞金獲れたんだ。名前をイーモっていう、つまりは芋だ」
男たち「笑笑笑笑」
イ「(このやり取り何回目だよ)」

ため息をつく暇もなく、担がれるイーモ

男たち「イーモ、イーモ、紫、紫、メークイン、メークイン」

男たちによる天井スレスレの胴上げ

ウノ「おっちゃん、おかわりくれ」
酒場の店主「暴れるのは良いけど、天井は壊さないでくれよな」

店主がいるカウンター側に移動しているウノ

店主「ときに兄ちゃん、この辺のモンじゃねえだろ」
ウ「西の方のモンだな」
店主「だろうな。相撲大会の賞金をその日に使い切るヤツなんていねえ。うちも年一あるかないかの賑わいだ」
ウ「確かにこの店、酒は美味いけど飯はまずいもんな」
店主「余計なお世話だ」
男A「確かにこの店カレーがまずいもんな」
男B「逆に難易度高い」
男C「香辛料をはき違えてるよな」
店主「うるせえ。そういうこだわりだ」
ウノ&店主&男たち「笑笑笑笑笑」

天井に鼻で突き刺さるイーモ
夜も更け、全体的に泥酔、イーモ含め数人脱落していた

店主「お前らちゃんと帰れよ」
男たち「うるせえ、まだまだこれからだ」
男B「それでよ、俺が聞きてえのはなんであんたみたいな人がここにいるのかってことだ」
男D「たしかに、気になるな」
一呼吸おいて事の経緯を話し出すウノ

ウ「それがよ、この前、とある要人が命を狙われているって情報が入ってな。俺含め3人で調査、必要とあれば警護を頼まれたんだよ」
静かに耳を傾ける男たち
ウ「それでいろいろ調査してたら、どうやらその情報が本物らしいってなってな。そこからさらに調べてついに犯人を突き止めたんだ」
男たち「ほうほう」
ウ「犯人のアジトを突きとめて隙を窺う」
自然と体が乗り出す
ウ「そしていざ対決...ってところで目が覚めたね」
男B「夢じゃねえか笑」
男たちにどつかれ、場は笑いにつつまれた
ウノが本当のことを話さないのには理由があった


回想、?
?(女性)「あんたら、旅の目的かれてもまじめに説明しないでよ」
ウノ「ギャグを入れ込めばいいってことか」
イーモ「(確かにそっちの方が面白そう)」
?「同じことを繰り返すなって言ってんだけど分かる」
語気を強める?と、恐れおののくウノとイーモ

?「特にアンタちゃんと止めてよ」
イーモ「(僕がですか)」
?「当たり前でしょ、アンタ以外だれがいるのよ」
ウノ「そうだそうだ」
?「それとも私の代わりができるの、無理でしょ」
ウノ「せやせや」
?「とにかく任せたからね」
ウノ「ぜひとも止めてくれたまえ」
イーモ「(えぇぇ)」
?に殴られるウノ、ドン引きのイーモ
結局全員そのまま酒場で夜を明かした


明け方
ウノを揺らして必死に起こそうとするイーモ。酒が残っているのかなかなか起きない。男たちも徐々に起きだしていた
ここで気が緩んだのか、ウノが大きなミスを犯す

ウノ「そうかキューブは見つかったか。よくやった」
ハッとするイーモ。目が覚めるウノ。勘づく男たち
男B「そうかお前たちはキューブを探しにこの国へ来たんだな」

場に一気に緊張が走る

キューブ、それは文字通り立方体の形をした物体のことである。このキューブはインディバ国で産出、加工、発明が行われているテクノロジーであり、それを武器に外交を展開している。インディバ国民が幼少期から触れる技術であり、アイデンティティを形成する大きな要素の一つだ。インディバ国民はキューブとともにある

インディバ政府によるキューブの管理は当然徹底されている。それゆえ”正規”ルートで、インディバ国内のキューブを他国の人間が探しに来ることなどありえないのだ。
男C「ただの旅行者じゃなかったってことだな」

男たちと店主はアイコンタクトを取り、今にも暴れだしそうな勢いだ。ウノとイーモもそれに合わせてかまえた
男A「さっさと行ってくれ」
ウノ「え」
男B「あんたのことは嫌いじゃない」
男C「むしろ好きだ」
全員がそれに頷いているように見える
店主「だけど俺はこの店をたたむことはできない」
男D「俺もこの村を離れるつもりはない」
男A「俺は自分で選んであんたと仲良くした。そして今、何もしないことにする」
イーモは深くお辞儀をした。ウノは一言
ウノ「お前らまた相撲しようぜ」
そう言うと金を置き、店を出ていった


ウノが去った後
腰が抜ける男たち、皆がその場を動けないでいた
男C「正直相撲はもう勘弁だな」
男D「たしかに」
男B「法律破って相撲大会か」
男A「とんでもねえ」
男たちはウノがかまえた瞬間に発した圧力の大きさとウノという男を感じ笑っていた
店主「それにしてもなんとも身軽な旅団だったな」


リケイン湾沿岸部、警備隊駐屯所

ここはリケイン湾、インディバ国最南端に位置するこの入り江に小船が一艘乗り捨てられていた。このリケイン湾はいわば、インディバ国南の玄関口であり、入港には当然許可がいる。乗り捨てられた小船が意味する事実は一つである

?「痕跡をさがせ」
命令するはこの駐屯所の長であるムギ

ム「何か出たか?」
兵A「密入国者の頭髪と思われるものが見つかりました」
ム「むむ、よし見せてみろ」

奪うように証拠を手に取るムギ

兵A「それは私の頭髪です」
ムギ「紛らわしいな」

部下の頭髪を投げ捨て証拠品を見つめるムギ

ムギ「いたって普通の黒髪だ。これでは絞り切れん」

部下B「また別の頭髪が見つかりました」

急いで確認し、何かを確信するムギ
ムギ「これは...」


駐屯所内、会議室

ムギ「密入国者とはいえ、インディバ国内の人間を取り込むのはそうたやすくはないだろう。人の目もある。まだ近くに潜伏しているはずだ。やつらの足取りさえつかめれば、我らの機動力が上を行く。各班進捗は?」
部下A「A班です。入り江から伸びる足跡を追ってみましたが、ンジコ川の下流に差し掛かったところで消えました。途中偽装の後もあり、追跡できないよう動いていた模様です」
ムギ「なかなかに周到なやつらだな。B班は?」
部下B「乗り捨てられていた船を調べなおしたところ、何やら布のようなものと足跡が見つかりました。サイズは30センチ越え。ほかにも何点か焦りの跡が見られます」
ムギ「なるほど、まだ何か見つかる可能性が高いな。引き続き頼む。次」
部下C「C班です。周辺住民による情報を総合すると、やつらは二人組の男で何やら騒いでいたと。また入り江の最も近くに住む老人が唯一彼らの顔を見たそうです」
ムギ「むむ、それで特徴は?」
乗り出すムギ
部下C「いえ、とてもイケメンだったとしか」
ムギ「そ、そうか。 ......一応聞いとくけどD班」
肩を落としながら、めんどくさそうに聞くムギ。それもそのはずでD班班長(D班は一人しかいない)は怠惰も怠惰、中央の窓際からやってきてここでも窓際をやっているような男なのである。この会議に参加しているのも奇跡、期待のしようがない

部下D「よくぞ聞いてくれました大先生。あのー昨日の昼過ぎじいちゃんとポートボールでホールインワン競争してた時の話なんだけど、そういえばオリン村の方で相撲大会あるの忘れてたわって後悔してたのよ。」
ムギ「長くなりそうだからお前らは解散。あと大先生って呼ぶな」
A~C班を解散させるムギ

部下D「そしたらね港の方からすごい勢いで男二人組が走ってきたんだ。ここらではあまり見ない顔だなと思ってたら目が合ってね、それでこっちの方まで来てくれて」

回想
ウノ「あんたあんな遠くから俺見つけられるのすげえな」
イーモ「ウノさん、いきなり話しかけるのはまずいよ。(密入国の瞬間も多分見られてるし)」
D「生まれつき目が良いんだ」
イーモ「(普通に始まっちゃった)」
ウノ「あんたその服いいな」
D「じいちゃんがくれたんだ。君のも特徴的だけどいいね、端がちぎれちゃってるのだけ残念だけど」
ウノ「ああマントだぜ、ぽいだろ。さっき船に引っ掛けちまってな」
D「たしかに、めちゃくちゃぽいね」

駐屯所、会議室
部下D「大きい方がすごい気さくなやつで、小さい方はなんか慌てていたな。二人ともとてもかっこよかった。一緒に写真も撮ってね。紫の彼はシャイでかたくなに写りたがらなかったんだ。だからカメラマンになってもらったよ。じいちゃんと3人いい写真だ」

ムギはげんこつ1発かました。強く殴りすぎたか自分のこぶしも痛めるムギ

ムギ「めちゃめちゃそいつらじゃねえか。撮った写真見せろ」
部下D「やっぱり?、でもいい写真だよ」

写真に写るウノは目から上がマントで隠れ、画質も個人を特定するのは難しいレベルだった。またげんこつ一発。こぶしを痛める
ムギ「ばかやろう、これじゃ分からねえじゃねえか。こいつらのその後の足取りは聞かなかったのか?」
部下D「ンジコ川を北上したいって言ってたな。だから教えてあげた。写真のお礼にね」
げんこつ一発。こぶしを...

ムギ「全員に集合をかける。そのタイミングならもう間に合わない」
A~C班に集合をかけようとするムギ

部下D「だけど彼らそのあと相撲大会出たっぽいよ。盛り上がりが聞こえたんだ」
ムギ「それを早く言え」
げんこつを入れようとするもためらうムギ。ムギはA~C班に集合をかけた
部下D「痛いな」
頭を押さえるD

ンジコ川中流

酒場を後にしたウノとイーモはンジコ川まで戻ってきていた。

ウノ「ここでは良い出会いばかりだ」
イーモ「そうですね」
ウノ「すまなかったな」

静かに首を振るイーモ
イーモ「ウノさんこそ大丈夫ですか?」
ウノ「ああ」

ウノ「さぁ」
イーモ「よっ...」

ウノ「珍しいな。先言っていいぞ」
イーモ「すみません。予定より半日は遅れていますから急ぎましょう」
ウノ「そうだな。さぁ、レッツゴー」
イーモ「(それ言いたかったんだ)」
ウノ「左だな」

回想、出発前

?「入港したらンジコ川をひたすら北上すること。分かった?」
ウノ「了解した」
?「一応地図渡しておくけど、分岐する道なんてないから」
ウノ「おお」
?「万が一にも逆行くようなことあったらあんたが止めてね」
イーモ「(まあ地図があるなら)大丈夫だと思う」

不安げな顔をする?

?「予定ずらさないでよね」

ンジコ川中流

ウノとイーモは当然のように道を間違えていた

ウノ「何オコか予想しようぜ」
イーモ「間に合わないでしょうから、2は固いかと」
ウノ「甘いな。俺は3行くと思うな」
2人でくすくすと笑いあう


イーモ「人の声が増えてきましたね」
ウノ「そうか?何も見えないけど」
イーモ「嫌な予感がします。地図ありますか」
ウノ「おお、あるぞ」
肩にかけたバックを下ろそうとするウノ、しかしそこには何もない。そもそもバックを持っていない

ウノ「あ」
イーモ「どうしました?」
ウノ「バック忘れた。旅館のねーちゃんに預けたままだわ」
イーモ「...。どうしますか?」
ウノ「取りに戻るしかないな」
イーモ「...」

沈黙が流れる
イーモ「最悪ですね笑」
ウノ「最悪だな笑」
ジワジワ来る2人
イーモ「さすがにまずいので走っていきましょう」
反転し来た道を戻ろうとするイーモ

ウノ「ちょっと待て」
制止するウノ。なにやら遠くを眺めているウノ
イーモ「なにか見えますか?」
ウノ「あそこは...」


オリン村、広場

酒場で店主と男たちが揉めていた

店主「お前たち酷い二日酔いだな。今日は帰って家で寝てろ」
男A「うるせえ、俺がどこにいようと勝手だろ」
店主「死ぬときは戦場で死にてえと常々思ってきたもんだが、荷物つきじゃ後味がわりい」
男B「誰が荷物だ」
店主「今日の仕込みもあるんだ。本当に邪魔だから出ていけ」

そういって店主は男たちを店の外に追いやった
男C「なにが仕込みだ」
男D「クソまずいカレー出すくせによ」

男たちは何か口約束のようなものをしてその場を後にした

数刻後

ムギ「私はムギ、南部沿岸の守備を任されているものである。」
ムギとその部下たちはオリン村に到着していた。今まさに住民たちに向けて注意喚起と聞き込みを行うところであった
ムギ「本日明朝、入り江の端にこのインディバへの入港許可のない船が一艘見つかった。目的は定かではないがおそらくキューブに関わることと推察する。そしてそこに乗っていたであろうやつらがこの村を通過したことはすでに調べがついている。やつらは二人組。片方が足のサイズから見てかなりの大男、もう一方が紫色の髪の青年だ」
住民たち「紫色!!!」
不安と驚きの顔を見せる住人たち

ムギ「言いたいことは一つだ。密入国者の足取りあるいは居所を知っている者はいないか?」
事態の深刻さを察し、おびえる住民たち。誰一人手を上げる様子はない
ムギ「知ってのとおりキューブはこの国固有の技術だ。彼らの目的を知ったうえで匿っていたとなれば重罪である。そして私には疑わしきものをその場で断罪する権限がある。もちろんただの旅人を受け入れてはいけないとは言っていない。何か知っているものは?」


全体を見渡すムギ、一人の男が手を挙げた
男D「私が見たのは昨日の昼過ぎごろです。まさに今聞いたような特徴の二人組が武器工場の方へ向かっていくのを見ました」
ムギ「武器工場! 興味深い。裏でもう少し話を聞かせてくれ」
A班に武器工場を見に行く(フリをする)よう伝え、男Dを裏へ連れて行くムギ


ムギ「奴らがその時間帯、相撲大会に出ていたことは調べがついている。旅人が相撲大会に出ていた、ただそれだけのことだ。俺が気になるのはただそれだけの事をお前がなぜ隠したかということだ」
男B「さあ、見間違えだったのかもな」
ムギ「苦しいな。こいつは拘束しておけ、何か知っているかもしれない」

部下に取り調べを続けさせ、聞き込みに戻るムギ


広場
住民A「昨日の相撲大会は近年まれにみる盛り上がりだったな。カマタリが負けたんだ」
住民B「そうそう。カマタリと比べたら小さいけどあいつもよく見ると大きかったな」
住民C「俺はこの近くに住んでるんだが、夜通しうるさかったぞ」
住民D(男A)「俺はンジコ川の下流の方へ向かうって聞いたな」
住民D(男A)の発言に違和感を感じたムギは、詳しく話を聞くというスタンスでまた裏へと連れて行った

男たちの情報攪乱は部分的にだったが成功していた。ムギからすれば密入国者がまず相撲大会に出ている時点で意味不明である。密入国者ならこうするはずという思い込みと実際のウノたちの行動があまりにもかけ離れていたため、男たちが混ぜた噓の情報と事実の見分けがつきにくかったのだ。これはそれだけウノたちが北上する時間を生んだことを意味する

しかしムギたちもバカではない。ウノたちが目的を漏らしてしまった酒場にたどり着くのは時間の問題だった。酒場の店主は近くにいるのに意外とたどり着かない事実にむしろ驚いていた

店主「あいつら何かやってるな」
男たちの身を案じる店主

同刻、旅館内

なぜか受付と話がはずんでいるウノ

ウノ「いやーそれでね。目的地向かうぞって二人で張り切ってたのよ。川に沿って北上するぞって。そしたらさ目の前に見覚えのあるポートボール場があんのwww」
受付「ウノさんって抜けてるところありますよね」
ウノ「離れてると思ったら近づいてて、無いと思ったらあった。そういうことってよくあるよね。ウノヲ」
受付「道間違えただけですよねwww」

イーモ「ウノさん、そろそろ行かないと。隠しても僕たちはここにいるので。さすがにそろそろ見つかります」

こんなに近くにいるのに見つからないのには2つの理由があった。一つはイーモの技である。イーモは今自分含め3人の実体を除き、五感情報を隠している。「ハイセンス」この技はイーモの右手が空いているときに発動可能である。とても強力に感じるかもしれないが、これはあくまで隠す技である。実体を記憶から消すわけではない。隠すということは探す人が出てくるということだ。今回の場合で言えば受付がいないことに気づいた旅館の人間、あるいは自分の感覚が外に伝わらないことに気づいた受付本人、が”探し出す”ことによってほころびが生まれる

もう一つの理由が、受付を除き今この村にいる誰もが、こんなところに密入国者がいると思っていないことである。ムギはおろか店主や男たちもそんなことは知らない。何のための時間稼ぎだろう。木を隠すなら森の中(偶然)というやつだ

酒場前

戸を叩き呼び掛けるムギ

ムギ「出てこい。昨夜遅くまで密入国者がこの店にいたことは調べがついている」

戸を開け呼びかけに応じる店主
店主「普段守ってくれてるのはとてもありがたいことだが、その口のきき方はどうなんだ」
一歩も引かない店主。構わず続けるムギ
ムギ「怪しい住民を何人か取り調べさせてもらった。彼らの証言に一貫性はなかったが共通点があった。この店の常連だということだ」
店主「この村の住民がうちの常連だと何かまずいのか」
ムギ「いやそれ自体には何の問題もない。昨日密入国者がこの店にいた。怪しい住民はみなこの店の常連だ。そして全員が支離滅裂な証言をしている。これらの事実を総合すると何か匂ってこないか」
店主「さあね。うまれてこのかた鼻が悪いもんで。俺にはよく分からないからこれ以上ようがないなら帰ってくれ」

戸を閉め店へと戻る店主。戸を無理やり開け、怒りをあらわにするムギ。
ムギ「調子に乗るなよ。この国の法律は知っているな」
圧を上げる
ムギ「彼らがただの旅人なら匿う理由も、情報をかく乱する理由もない」
店主「昨日来た常連のやつらはみんな”二日酔い”なんだよ。浴びるように飲んでいたからな。だからその密入国者?から何か聞いていたとしても何も覚えていないさ。解放してやってくれ」
ムギ「あんたもか」
店主「さあね。俺の仕事は泥酔した人間にもう一杯の酒を出すことだ」

ムギ「あくまで庇うというのか」
店主「なんのことだか」

ムギは店主に銃口を向けた。
店主「クソまずいって言われてるカレーも作るのには時間がかかるんだ。俺の中で試行錯誤を繰り返し、作り上げてきた秘伝のレシピがある。他人がどう感じるかなんてどうでもいい。見ず知らずの人間にそれを知られるわけにはいかねえ...」
ムギ「何か言いたいことは?」
店主「ただ今準備中です。営業前の来店はご遠慮願います」
ムギが店内に入っていた右足を一歩引き、引き金に指をかけたまさにその刹那。外で大きな声が聞こえた

旅館前

ウノ「なにやってんのよ。バレるじゃないか」

慌てふためく二人の男。大きい方の男が小さい方の頭をワシャワシャとなでている。紫色の髪だ

イーモ「ウノさんがいきなり渡すからでしょ。集中してるときはだめだって」
イーモの右手には地図が握られていた。あっけにとられる住民とムギたち。様子をうかがう二人
イーモ「声を聞くに店主が危険だったみたいです」
ウノ「そうか」


何を思ったか蛇行しながら走るウノ
イーモ「なにしてるんですか」
ウノ「いいから合わせろ」

ウノ「なんかおっかないやつがこっちを睨んでるぞー。急いで逃げないとつかまりそうだ。大変だ大変だ」
イーモ「ほ、ほんとにそうだね。逃げないと危ないぞー」

ムギは銃を下した。目標が今まさに目の前に現れたから、それも明らかにふざけている。

ウノ「よし食いついた」

追うムギ、逃げるウノ
ムギ「お前が密入国者だな」
ウノ「そういえばさっき怪しいやつとすれ違ったな。な」
イーモ「武器工場の方に向かっていきました」
逃げながらごまかす二人

ムギ「やかましい。お前ら二人が昨日正午ごろ密入国し、この村で一泊したことは調べがついている」
イーモ「(めちゃめちゃバレてるよ)」
ウノ「そういえば、ちゃんとお礼言えてなかったな」
そういうと振り返って街に向かい

ウノ「ありがとなお前ら」
と大声で叫んだ
ムギ「全く隠す気がなさそうだな」

のちのインタビューで男たちはこう語ったとされる

「もう少し悪びれろよ」

そして店主はこう語ったとされる

「あとちょっとカッコつけさせろよ」


ンジコ川に向かう道で

ウノたちの逃げ足は速かった。地の利を生かせるはずのムギたちが距離を詰めるどころか離されるくらいであった

ウノ「あんたらも真面目に仕事してるんだな」
ムギ「それがなんだ」
ウノ「いや別に」

ウノ「俺が逃げればアンタの首が飛ぶのか」
ムギ「さあな。というか逃がすわけがないだろう」


ウノ「ひとつ聞くがあんたの”範囲”はどれほどだ」
ムギ「なんのことだ」
ウノ「そうか...」

なにかを確認し終えたのか、ウノとイーモは速度を上げた。さすがにもう追えないかとムギがあきらめかけたところで、ウノの前方に一人の男

ムギ「お前、やつらを止めろ」
D「イェッサー、大先生」
現れたのは怠惰なD班班長だった

D「すまないね、これが仕事みたいだ」
ウノ「おお、今日もいい服着てるな」

Dは微笑むと、両手を地面にたたきつけた
D「僕の範囲は...この街全体だ」
そういうとDの両手付近から地面はさいの目状に割れ、波のようなものがウノとイーモを襲った。正面から来る波を飛び越えて避けるウノとイーモ。波はそのままムギを襲った
ムギ「おい」
避けきれず負傷するムギ

D「あちゃー。やらかした」
ウノ「やるな」
D「笑い事じゃないよ。上司攻撃してんだから」
笑いが止まらないウノ
D「あら?」
波はムギたちを襲った後も止まらない。まっすぐオリン村に向かっていた

ウノ「ここは俺に任せろ」
そういうとウノは両手を村に向かってかざし、目を閉じた。すると巨大な立方体が現れ、一瞬にしてオリン村は消えてしまった。波はリケイン湾沿岸部まで続いたが奇跡的に被害者は一人も出なかった

D「あの質問はそういう意味かと」
ウノ「そうだな。またな」

ウノとイーモは走り去っていった

D「取り逃がしちゃったな」
そういってムギに謝りに行くのだった

D班班長、名をノロンという。彼とウノはこれからもたびたび相まみえることになるのだが、それはまだ先のお話。

最後まで読んでくれてありがとうございます 1000年後くらいまでには誰かに届くといいな