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母から娘へ。「こうしてほしい 」介護ノート  『母のトリセツ』

どこの家庭でも突然始まるといわれる介護。
もし自分に介護が必要になった時、
言いかえれば、自分を自分で管理できなくなった時、
2人の娘たちはどう接してくれるのだろう……。

娘なら母の短所までよ〜く知っているだろうけれど、
このワタクシ、きっと取扱い要注意人物。一筋縄ではいかないはず。
そういう時、娘たちが困らないように、
「母はこう思うのよ」
「できたら、こうやってほしいねん」という思いを、
伝えておきたい。
そして、これまで多くの介護関係者に取材して得た情報もプラスして。
綴ります、『介護ノート「母のトリセツ」』。


<1>もし親が倒れてしまったら

(1)親の老いを認めて

 まず、聞いてね。父も母もすでに高齢者。若い頃と比べると、ずいぶん年を取ったよね。これまでは少し頑張れば、あなたたちと同じラインで進めたけれど、これからはきっと年々老いて、付いていけなくなるはず。
 速く歩けなくなったり、何度も同じことを話したり、言葉がとっさに出なくなったり、物忘れが多くなったり……。
 つまり、動きも、体力も、頭の回転も、考え方も少しずつ鈍っていく。そんな時に、「あんなお父さんやなかった」「お母さん、あんなことする人やなかったのに」と思わないで。「徐々に老いているんやから仕方ないや」と親の「老い」を受け入れてほしいねん。

 ついでに性格分析も。自分の口で言うのもなんだけど、母はなかなかの頑固者やと思う。「こうや!」と言うたら、人の話を聞かないものね。こういう性格なもんで、あまり否定的なことは言わないで。
「ちょっとボケてきたんちゃう?」「同じこと何回言うの!」「何、ごまかしてんの!」「さっき、こう言うたやん!」等など。
 そんな時、「なんか心配なことあるの?」「大丈夫やで、少々忘れても、私らがいてるから」なんて言ってもらうと、根が単純な母は、すごく嬉しくて頑張れると思うよ。


(2)病気について知って

 突然、親が倒れたり、重い病気になったら、2人共きっと混乱するよね。何より病状を心配してくれるはず。
 同時に、不安にかられると思う。細々とした入院の手続きに加え、残された父(あるいは母)のこと、明日の仕事のこと、家族の食事のことなど、考えなあかんことばかりやもん。

 でも、落ち着いて考えて。不安になるのは、目の前にある心配ごとの中身、つまり病気そのもが見えないから。中身の予測がつかないと、不安はよけいに膨らんでしまうもの。まず、病気について、インターネットや読みやすい本を利用して、さっとでも簡単で正しい知識を身につけてほしいの。

「緊急事態にそんな悠長なことできないよ」と思うかもしれないけれど、混乱しているときこそ、正しい知識や情報が適切な判断力につなげてくれるそう。
 そうすれば、医師から説明を受けても理解しやすくなるし、治療の選択を迫られても冷静に判断できるはず。
 逆に知識がないと、医師の言いなりになってしまいがち。「何かおかしい」と疑問に感じても質問もできない。その場の雰囲気に流されて、後で後悔することになりかねない。いくら専門家でも、常に正しい答えを示してくれる医師ばかりやないことも知っておいてね。

 もう一つ、気をつけてほしいのが、薬のこと。特に認知症と診断されて、安易に処方される抗認知症薬については要注意! 抗認知症薬は、普通の胃腸薬や風邪薬のように気軽に飲める薬ではないねんよ。

 人によって「合う・合わない」があるし、「適量」も違う。医師が出したものだからと、疑わずに飲んでしまうと、副作用が出てしまったり。言い換えれば、介護が大変になってしまうことも。
 それを防いでくれるのが、正しい知識や情報。その後の治療や介護の方針を決める大きな力になるし、少しでも前向きで明るい介護につながっていくはず。


<2>「親が認知症かも?」と感じたら

(1)信頼できる専門医を選んで!

 認知症って、突然なるものと思ってない?
 年を取ると体全体の機能がだんだん落ちていくように、脳だって自然に働きが鈍くなる。それで物忘れが多くなったり、名前を忘れたり、約束の日や時間を間違えたり、さっきまで使っていたメガネの置き場所を忘れたり……。

 でも、これらは当たり前のことだそう。映画や食事に行ったこと自体を忘れるなど、一つの出来事そのもを忘れたり(エピソード記憶)、もの忘れの自覚がなかったりしたら、認知症の可能性があるそうよ。

 母(私)の場合は、この時点で認知症の専門医(もの忘れ外来など)に診てもらいたい! しかし、ここが一番のポイント! どの専門医でもいいわけじゃない。
 ①薬について正しい知識を持つ医師。
 ②認知症の治療についてだけでなく、今後どんな生活を送ったらいいか、家族は本人にどう接したらいいかまで教えてくれる医師。
 たとえば、私が信頼する松本診療所「ものわすれクリニック」(大阪市旭区)の精神科医・松本一生先生のような医師。
(注意したいのは、専門医といわれる医師の中でも、認知症っぽいとなると、すぐにアリセプトなどの抗認知症薬を簡単に処方してしまう医師がいること)


(2)大切なのは「最初の対応」

 この松本先生から認知症治療でもっとも大事なことと教えてもらったのが、「初期対応」。
 初期対応というと、ちょっと小難しく感じるけれど、診断を受けて3ヶ月ぐらいの間に、安心できる医師や介護関係者を見つけて、介護できる「チーム」を組んでもらうこと。
 そんな時期って、家族がいちばん不安で動揺する大変な時やけど、そこを押さえておくのと、そうやらないのとでは後で大きな差が出てくるそう。

 そのポイントが3点。
①信頼できる医師を探すこと。
②本人のプライドを損なわないように専門病院へ誘って、きちんと診察を受けること。
③医師を中心に、訪問看護師や介護職のチームを整えてもらうこと。
(医師の関係者を紹介してもらおう)

 その理由は、
 認知症のケアでもっとも大事なのが、認知症の人の「生活や気持ちが安定」していることだから。
・介護する態勢が整えば、介護する家族も本人も安心できる。
・本人が安定すると進行の予防につながる。

 こうして初期対応ができれば、混乱しながら認知症と向き合う人と比べて、少なくとも5~7年は進行が後倒しできるそう。
 逆に、態勢が整わないまま家族が右往左往していると、不安定な状況が続いて進行も早まりがちだと聞いたの。
 もし医師や介護職を探すのに困ったら、つどい場や家族会に参加して経験者から情報を得るのが早道。
 

(3)初期は本人がもっとも不安なとき

 母(おばあちゃん)が86歳で旅立ってもう20年。80歳を過ぎたころ、久しぶりに電話をしたら、ポツリとつぶやいたことがあるの。それも、笑ってごまかすかのように。「お母さん、この頃、バカになったような気がするんよ」って。 
 今から考えると、母が認知症になりかけで、まだ身近な家族も気づいていない頃。それなのに娘の私は何の知識もなく、「何言うてんの。年やからって考えすぎやわ。大丈夫!」と簡単に片づけてしまってた(涙)。

 介護者の取材をするようになって、この時期の母の不安を思うとゾッとするの。実際に認知症になって、自分のことを語ることができる当事者から聞くのが、
「人と約束したことを忘れてしまう」
「時間の感覚がわかりにくくなる」
「朝食べたものを忘れる」
 ……など。
 日常は同じように続いていても、自分の頭の中のどこかが変わっていってるような、「何か、おかしい!」「どこか変!」といった感覚に苛まれるそう。だけど、多くの人は、その気持ちを身近な人にも言えないまま過ごされている。母もそうだったのだろうと思うと後悔。

 実際に 前出の松本一生先生によれば、ご自分の症患者さんを調査して、「病識(自分が病気であるという自覚)がある人が72%も。つまり認知症の人の7割以上が、自分の変化を感じて不安やもどかしい思いを抱えておられるわけ。
 それなのに、いまだに『認知症はどうせもの忘れして、わからなくなる病気なんだから気にしなくていい』と考える人が多いのは辛いね。

 認知症専門医の第一人者で、認知症診断の検査をする「長谷川スケール」を開発した長谷川和夫さん。
 ご自身が認知症になられ、出版された著書『ボクはやっと認知症のことがわかった』では、そうした不安を「認知症になった当初は、確かさが揺らいでくる」と綴られている。
『外出しても玄関の鍵をかけたかどうか不安になって、確認しに戻っても、またすぐにあやふやになる。今日が何月何日何曜日と分からなくなって確認しても、すぐに分からなくなる』と。
 だからこそ、
『本人は悲しく、苦しく、もどかしい思いを抱えて生きているので、接し方を知っておいてほしい」。
 そして、そんな時に「大丈夫ですよ。私たちがそばにいるから安心してください」と言われたら、どんなに勇気づけられるか」とも。
 母も本当にそうであってほしいな。


(4)認知症の薬は「さじ加減」が大事

 認知症になったら「薬がある」と思ってる人も。でも、認知症を治す薬はないねんよ。
 今、出ている認知症の薬(抗認知症薬)は、①アリセプト、②レミニール、③メマリー、④イクセロンパッチ・リバスタッチパッチの4種類。物忘れの改善や進行を遅らせる効果があるといわれてるけれど、治すことはできないの。

 しかも、人によって「合う・合わない」があって、人によって「適量」も違うこと。また「薬が必要な人でも、その『さじ加減』が大切」ということを覚えておいてね。

 ちなみに、薬を使わないほうがいい人もいるというのが、前出の松本一生先生。先生の診療所でもの通院患者さんの「4分の1」は「薬は必要なし」との診断。こういう医師こそが本物やよ。

 さらに、認知症の薬でややこしいのが、一時期「増量規定」というシステムが設けられていたこと。たとえば、アリセプトは、最初3mgから処方され、2週間後には5mg、その後も症状に合わせ8mg、10mgと増やすと決まっていたの。

 その結果、効きすぎて、イライラ感が出て怒りっぽくなったり、足元がふらついたりなど不安定に。薬によってはめまいや失禁などの副作用も起こるそう。
 そこで、2016年6月からは少量での投与が認められるようになったけれど、それを知らずに(不勉強)今も増量する医師が多いのも現実やねん。

 さらに怖いのは、この抗認知症薬は専門医でなくても処方できるので、アリセプトを飲んで怒りっぽくなったりすると、静かにさせようと抗不安剤を併用させる医師もいること。

 母の知人で、認知症の夫を施設に短期間預かってもらおう(ショートステイ)としたら、事前に精神科を受診して精神安定剤を飲むことを条件にされたことがあったの。
 それは、施設で世話がしやすいように大人しくしていてほしいから。彼女は以前に無断で安定剤を使われて、夫が歩けなくなった、意思表示もできなくなった、声をかけてもボーっとして視線が合わなくなったという経験があって、断固として拒否したそう。

 薬を飲んで副作用が出たり、おかしいなと感じたら、医療者にきちんと伝えることも家族の大切な役割。介護される本人は自分では言えないし、本人を守れるのは家族だけやから。


(5)こう接してほしいな

 信頼する高齢者専門の精神科医・上田論医師が、2014年に『治さなくていい認知症』という本を出された時は、「母はこれだ!」と思ったよ。
 認知症は治らないと分かってるのに、製薬会社はどんどん抗認知症薬を販売するし、「ハイハイ」とすぐに処方する医師も多かったから。

 上田先生が提唱するのは、「指摘しない、議論しない、怒らない」という三原則。「認知症は治らないものだから、それを認めて治そうとはせず、忘れても元気に楽しく生活していけるように周りが上手にサポートしよう」というもの。
 つまり、「治そうとしないで、できる役割をつくってあげよう」と。

 だって社会ではいまだに「認知症はみじめな病気」「認知症にだけはなりたくない」「認知症の介護は大変」といった否定的なイメージばかり。それが、認知症本人や介護者を苦しめてきたんやもん。でも、長生きすれば誰でもがなり得る病やもん。「治そうとせず、むしろ肯定し受け入れよう」は正しいよね。

 上田医師曰く、
「認知症になっても心は正常です。記憶障害などで段々できないことが増えていくと、本人は不安につつまれていく。その不安な中で、家族から『なんで同じことばかり言うの』『なぜこれができないの』と指摘、否定されると、心は一層乱れて孤立して、居場所をなくし、プライドを傷つけられます」
 その結果、取り繕いをしたり、妙に意固地になってしまったり。そうした誤った対応が興奮や徘徊などの周辺症状につながっていきかねないねん。

 もし、母が認知症になった時、「治らなくていいよ。物忘れしても仕方がない。できないことがあれば協力するからね」と家族に言ってもらえたら、どんなに気持ちがラクになれることか。治そうとせず、できる役割をつくってあげる。そうあってほしいな。


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<3>介護の準備はゆったりと

(1)在宅介護に向けて

 病気の治療が終わって退院となると、問題はその後の療養や介護はどうするのか。
 大きい病院には地域医療連携室があって、細かい手配をしてもらえるみたい。もし在宅での療養が必要なら通院する診療所を、介護が必要なら在宅医や訪問看護師、ケアマネジャーなども紹介してもらえるはず。そして、介護保険制度を利用することになるので、近くの地域包括支援センターでの手続きが必要になると思うよ。
 認知症の場合も在宅での介護は、地域包括支援センターで在宅医やケアマネジャー、訪問看護師などのケアチームを紹介してもらえる。でも、やはり当たりはずれはあるよね。信頼できる在宅医などは、さくらちゃんのような情報の多いつどい場で紹介してもらうのがいいかも。

(2)「人に頼る介護」にしよう!
 
 「介護」というと重いイメージがつきものだけど、もっとラクに考えてね。
 というのも、ひと昔前まで介護は女性、嫁がするのが当たり前って時代があって、地域によっては今も残ってる。
 介護殺人の報道があったりすると、「村一番の自慢のお嫁さんが、なぜ寝たきりのお母さんに手をあげてしまったのか」なんて見出しが出たりするけれど、答えは決まってる。一人で何もかも背負ってしまうと、肉体的、精神的にも追い詰められて、とんでもない行動に出てしまったりするもの。そんな介護はできっこないよね。

 介護はたとえ親でも、何らかの病をかかえた一人の大人の暮らしそのものを全面サポートするもの。介護の方法を、学校で習ってるわけじゃないし、突然始まるものやから大変に決まってる。

 でも、幸い今は介護保険がある。何度も改定があって、多々問題もあるけれど、いろいろなサービスを上手に利用してね。少し勉強してサービスの種類を知って、プロの手を借りればいいのよ。周りの人や近所の人にも「今、〇〇を介護中なんです。いい情報があったら教えてください」と声かけして、困ったらどんどんSOSを出そう。

 母の知人(50代女性)に、フルタイムで働きながら80代の母親を介護している人がいるの。
 平日は近所の介護施設の「デイサービスを毎日利用」。
 夕方には施設のスタッフに家まで送ってもらう(好意によるもの)。
 夜と土日は自宅で母親の世話をする。
 というサイクルでもう10年以上介護中。
 介護保険で、週に1回の「在宅医の訪問診療」と、同じく週数回の「訪問看護師の訪問看護」を利用。
 少し疲れたと思う時には、施設に数日預かってもらう「ショートステイ」を利用するといったカタチで。いろんな人に頼って、仕事も介護も継続できているケース。
 何より大切なのは、介護は「家族だけで抱え込まない」こと! そして、サポートしてもらう周りの人に感謝すること!
 
 それと、介護される立場からのお願い。
 介護をしている家族会などに行くと、みなさん、介護の大変さを涙ながら訴えられる。「自分の時間がなくなってストレスばかり溜まる!」「仕事に支障が出ている」「夜も眠れなくて辛いです」「体力の限界です」等など。 
 もちろん事実だろうし、大変なことに違いないと思う。でも、それは介護する側からの発言。
 介護される人はどうなのか。迷惑をかけていることが分かっているので、何も言えないのが現実やねん。でも、「自分がこれからどうなるのか」などと、介護者以上に不安なはず。人(娘)に介護してもらって、「迷惑をかけている」「子どもの負担になっている」「世話になるのは辛い」といった罪悪感もあるかもしれない。時々は、自分の立場だけでなく、介護される人(親)の立場で、考えてみたりしてほしいなと思うの。

(3)具体的な介護の準備は?

まず必要なのが、介護保険の申請。

 親に介護が必要になって、利用することになるのが介護保険。
 ちょっと面倒なのが介護保険の手続き。市役所(介護保険課など)での申請になるけれど、その前に「地域包括支援センター」という機関に行くほうが楽かも。必要な申請方法などを教えてもらえるからう。
「ちいき・ほうかつ・しえん・センター」なんて、下を噛みそうな名前だけど、社会福祉士や保健師、ケアマネジャーなどの専門家が常駐してて、介護全般について何でも相談できる総合窓口。中学校区に必ず1軒あって、申請の代行をしてくれるところも。地域ごとにわかりやすい名称にしている場合もあるよ。

認定されたら、ケアプラン作りへ。

 介護保険を申請したら約30日で、「要支援1、2」、あるいは「要介護1~5」と、7段階で認定されるの(非該当の場合は「自立」)。その介護度で使えるサービスが違ってくる仕組みに。
 もし入院していて退院が決まり、明日から在宅介護がスタートとかの場合は、認定結果を待たなくても、前倒しでサービスを受けられるの。

 介護度が決まったら、次は介護のプラン作りへ。その介護プランを「ケアプラン」といって、それを作成してくれる人が「ケアマネジャー」。居宅介護支援事業所(地域包括センターなどでリストをもらう)でも紹介してもらえるよ。
 
ケアマネジャーとは?

 ケアマネジャー、略して「ケアマネ」は、本人や家族の病状や要望、悩みなどを細かく聞いて、介護の方針となるケアプランを作成する人。介護される本人一人ひとりに付くことになってるの。
 具体的には、本人の身体状況を把握して、「どんな暮らしがしたいか」「何が必要か」などを本人や家族から聞き取って、それに合わせたサービスを決めていく。
 つまり、「家族が安心して、納得のいく介護ができるかどうか」は、ケアプランの立て方にかかってくるわけ。
 しかも、ケアマネは毎月1回翌月のプランを考えて、家庭を訪問することになっていて、家族はサービスの変更を頼んだりすることもできる。それだけに「信頼関係」が大切に。
 また、いろんなサービスを提供する事業者とのパイプ役にもなる人。だから、いろんな提案ができる多くの情報を持っている人が有能なケアマネで、介護が始まったら、もっとも身近でもっとも重要な存在となるのよ。
 それだけに、こちらから気になる事や希望したいことは、きちんと伝えること。もし「話しづらい」、「相性が悪い」と感じた時などは、交代してもらうこともできるよ。
 

(4)だれが介護する?

 あなたたちは姉妹2人。もし親に介護が必要になったら、「協力して2人でやったらええやん?」となるのではないかな。我が家では、「何事もお互いに助け合って」とやってきたものね。
 でも、介護に関してはちょっと違う。
 母(私)も取材で学んだことだけれど、介護をスムーズに行うには、いきなり分担するのではなく、まずきょうだいや家族でよく話し合い、「主たる介護者」、つまり中心となって介護する人を、一人決めたほうがいいよう。

 多くの人にとって「介護は辛くてしんどいもの」というイメージが強いせいか、「自分だけが辛い介護を引き受けるのは損」という発想から、特にきょうだいが多い場合は、「分担しあって、同じように介護すべき」と考える人が多いそう。
 しかし、きょうだいで介護を分担すると、お互いを比較して不平や不満が出る結果に。
 また、中には平等に介護すべきと、期限を決めて介護される本人(親)を「たらい回し介護(言葉は悪いけれど)」にするケースも。特に認知症だと、生活環境が変わることで症状が進行したり、体力が弱ったりの悪影響も。
 さらに、突然、介護が必要になったからと、学校や仕事を中断して場当たり的に介護を分担して、後で後悔することになったケースも多いよ。

 主たる介護者を決めるというのは、介護を一人に任せるという意味ではないの。介護の「一本化」。ケアマネや医師、介護職とのやりとりの窓口は1つのほうが効率的で、その内容をきょうだいや家族に伝えて、相談していけばいいそう。 そのほうが余計なゴタゴタがなくなって、介護される側も落ち着けるんだって。
 現実には、本人の希望や相性などを考慮して、話し合いで決めるのがベスト。




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<4>家か、施設か、で迷ったら?

(1)暮らし慣れた自宅が一番! 

 今は、親の介護が必要になると、「はい、施設!」と思っている子世代は、かなり多いそう。でも、内閣府の調査では、家で介護を受けたいと思う高齢者は半数近くいて、子どもにはなかなか言えないのが現実なのよね。
 母は迷わず言います。家がいいに決まってる。今は一人暮らしでも家で在宅介護ができる時代だから。

 家がいい理由は、とにかく自由がある。好きな時にパソコンに向かえて、好きな時にコーヒー(?)が飲める。施設は、専門家にサポートしてもらえる安心感はあっても、起きる時間から、寝る時間、薬の時間、食事の時間、散歩の時間など、日課はすべて決められている。しかも、いつもつきまとう周囲の視線。さらに、年々、施設での管理化が進んでいて、高齢者は窮屈な思いをしてはるのよ。

 子世代からすると、「仕事があるから介護までは無理!」となるかもしれないけれど、今は、介護保険のサービスを上手に利用すれば、「おひとりさま」の在宅介護・看取りができる時代。

 理論だけでなく、それを実践しているのが長尾和宏医師。
長尾先生の「仕事をしながらの在宅介護アドバイス」を記します。

①遠慮せずに話し合えるケアマネを探そう。

②生活を見てくれる主治医を探そう。

③相性のいいデイサービス施設を探そう。

④疲れたら数日預かってもらえるショートステイ施設を見つけておこう。

⑤※小規模多機能の介護施設と家を行ったり来たりという介護スタイルもあり。

⑥本人はどんな医療やケアを望んでいるか、信頼する人たちと話し合っておこう
(「人生会議」=ACPアドバンス・ケア・プランニング)。

⑦一番お世話になるのは訪問看護師さん。(電話相談ができるのも、駆けつけて手当てしてくれるのも)。ケアプランに24時間対応の訪問看護師を組み込んでおこう。

 長尾医師によれば、「おひとりさまの在宅介護」も、「おひとりさまの看取り」も可能だそう。現実に、多くの独居在宅介護を実践されてます。

※小規模多機能
「小規模多機能施設」=在宅生活をしながら「デイサービス(通い)」を初め、「ホームヘルプ(訪問)」、「ショートステイ(泊まり)」のサービスが受けられる施設。登録制。特におひとりさま介護など最適。


(2)でも、家で支えきれなくなったら?

①施設選びは、本人のことを第一に

 いくら自分の家がいいとはいえ、家での介護が無理になるケースも。そういう時は、スタッフが笑顔で風通しが良さそうな雰囲気の施設を探してね。
 高齢者施設はどこも同じに見えるけれど、本当にたくさんの種類があるの。

・まず、介護保険制度(つまり公的)の施設が、次の3種類。
❶介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム=特養) 
 入浴や排泄、食事など、日常生活の世話から機能訓練や健康管理まで受けられる。比較的費用が安いので人気。看取りが可能な所も。介護が必要な65歳以上の高齢者(要介護3以上)が対象。費用は月額10~15万円。(21年9月)

❷介護老人保健施設(老健)   
 家庭への復帰を目指して、リハビリを中心に日常的な看護・介護サービスが受けられる。入所期間は3ヶ月から6ヶ月くらいまで。専門的なリハビリが必要な高齢者(要介護1以上)が対象だけど、長期に入れる施設を探せるまでのつなぎに使うケースも多い。費用は月額10~15万円。

❸介護医療院
 長期療養を必要とする高齢者(要介護1以上)が対象で、医学的管理のもとで介 護や医療が受けられる。費用は月額5~25万円。


・民間で代表的なのが次の4種類。
❶有料老人ホーム(有料ホーム) 
 60歳以上が対象。かつては入居金が高額の所が多かったけれど、今は数千万円からゼロ円まで、毎月の支払いは数十万円から生活保護費で払える額までと、二極化しているらしい。金額的には特養の方が安心やね。
 介護サービスが付きの「介護付」、自宅と同じ感覚の「住宅型」(介護が必要になったら、外部の訪問介護などに依頼)、健康な人向けの「健康型」(介護が必要になったら退去)の3種類がある。
 
❷サービス付き高齢者住宅(サ高住)
 60歳以上が対象。自立できなくなった時、住み慣れた地域で、「安否確認」と「生活相談」のサービスを受けて暮らせる、民間の高齢者向け賃貸住宅。身体介助などの介護サービスは外部事業者と別契約。
 末期がんなどの終末期に自由に暮らせる「ファミリーホスピス」機能のあるサ高住も。初期費用が数10万円から。月額10~40万円。    

❸認知症対応型共同生活介護(グループホーム)  
 家での生活が困難になった認知症の人が対象(要支援2以上)。5~9人程度で家庭に近い環境で、介護職員のサポートを受けながら生活できる施設。費用は入居金ゼロ~数百万円。月額10~30万円。
 
❹ケアハウスなどの「経費老人ホーム」も。
 60歳以上が対象の低額の賃貸住宅。給食付きの「A型」、自炊式の「B型」、給食と介護が付く「ケアハウス」とある。費用は月額6~20万円。

 介護施設の種類は本当に多くて、分類もかなり複雑。母の取材でも、苦労してここはと思う施設を選んでも、本人が馴染めなかったり、介護者が施設に不信感を持ったりと問題が絶えないケースが多かったのも事実です。


(3)失敗しない施設の選び方 

 施設選びは大変だけど、在宅介護が難しくなったら、やはり頼らざるを得ないよね。その選び方を、信頼できる専門家に教えてもらった。

 つどい場さくらちゃんのまるちゃんが、常に声を大にして語るのが……、
・洒落た外観や豪華な食事、立派なパンフレットに惑わされない。
・まず「人」を見ること!「入所者がニコニコと穏やかで、いい表情をしているか」「スタッフが感じいいか」を自分の目で確かめる。
・数カ所見学して、ここぞと思う所が見つかったら、詳しく話を聴きに行く。できればアポなしで、朝や昼間など時間を変えて。
・よい施設ほど、スタッフの在職期間も長い。(「ここに来て長いんです」という介護スタッフが多いほど、いい雰囲気の施設)。
・できれば本人も同行して見てもらう。

「う~ん、なるほど」とうなずけることばかり。
 まるちゃんの紹介で介護界のリーダー的な方のお話も聞いたけれど、やはり同じ。
・いい施設の条件は、建物がきれいとか、スタッフの言葉遣いがていねいとかじゃない。
・大切なのは、本人のことを第一に考え、言いたいことが言える風通しのよさ。
・「本人が幸せになるにはどうしたらいいか」を、介護職も家族も一緒に考えられる場になってるか。

 入所者本人のことを第一に考える運営者は、何か迷うことがあったら「こんな時、自分の親だったらどうするか」と考えるそう。家族にはいつも、「家族にしかない愛情がある。できるだけ施設の外に連れ出して、一緒に過ごす時間を大切にしてほしい」と伝えているそう。

①大切なのは、介護職との良い人間関係づくり。
  せっかく施設に入っても、介護職の人たちに不信感を持つ家族が多いみたい。「お金を払ってるのだから、何でもやってもらって当たり前」と施設に任せっきりにするケースが多いのも事実のよう。
 でも、せっかく入れた施設なら、うまくやっていきたいよね。
 そこは考え方次第。『大切な家族を自分に代わって世話をしてくれてる人』と思うと接し方も変わっていく。自然に打ち解けていけるはずよ。
 「あれをしてくれない/これをしてくれない」と目くじらを立てるだけじゃ、溝は深まるばかり。職員も「またうるさい人が来た」という関係になってしまうそう。

 介護職の大御所に言わせると、
「入所はほとんどが介護する家族の都合。お年寄りは、その人なりに何とか折り合いをつけて施設で暮らしていこうと、悲しいまでに順応しようとされる」のだと。
その方も、家族と施設スタッフとの「コミュニケーション不足」を指摘されてる。
・介護職も、家族からの意見をすぐにクレームと受け取ってしまいがち。
・逆に家族も、被害者的なクレームを出しがち。

 そうならないために……。
・家族も施設側も互いに歩み寄って、お互いに譲り合い、上手に相手の話を聞く。
・本人がどうあるべきかを「共に考える」。
・相手に何かを伝えたい時には、きちんと説明して、相手に伝わるようにする。


②「心のケア」は家族にしかできない

 まるちゃんに教えてもらったのが、やはり大事なのは家族ができるだけ本人に会いに行くこと。「心のケア」は家族にしかできないの。
 顔を見せて、
「会えない時もいつも〇〇さんのことを考えてるよ」
「次は×日に必ず来るから、待っててね」
「孫たちがいつもお〇〇ちゃんのことを話してるよ」
 ……などの、ちょっとした言葉かけが大切やねんて。
「自分は忘れられていないんだ」という安心感が、心の安定につながっていくんだって。

③家か施設かの二択けじゃないよ。

 普通の人は、介護となると「家か、施設か」になりがち。でも、どちらかに限定してしまわないで、「行ったり来たりする」方法もあるの。
 数年間、夫を施設で介護し、最期は在宅で看取った女性の例。
 夫が施設だけの生活では味気ないだろうからと、「時々、自宅に連れて帰ろう」と、施設から自宅に通ったり、自宅に泊まったり。つまり、「逆デイサービス」を月に1~2回、「逆ショートステイ」を月に1回2~4泊されてたの。在宅介護と施設介護、両方の“いいとこどり“というわけ。
 長尾先生も、
「施設か自宅かどちらかに限定する必要はなく、『どちらも』という選択肢があっていい。1ヵ月の半分を家で過ごし、半分を施設のショートステイを利用するという方法も」と。
 そうして大らかに考えれば、本人も介護者も気持ちに余裕ができるのだそうよ。



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