アイドリング基礎論


名古屋大学ジャグリングサークルRefleX UNO, 星乃ユキ

目次

1.     はじめに
2.     デビルスティックの基本要素
3.     アイドリングのポイント
4.     よくあるミスと改善方法
5.     最後に

以下, センタースティックをCS, ハンドスティックをHSと表記する.

本記事では, アイドリングの理想的な動きを「CSの中心を動かさずに, 平面内で回転の加速・減速を繰り返す動き」と定義します. ハーフフリップとの違いは?とか突っ込まないでください.


1.    はじめに

 突然ですが, 皆さんはアイドリングをどのように教わりましたか?筆者はアイドリングを見せられ, 「こうやる!」と教わりました. なんとも感覚的ですよね. デビルスティックをある程度やっている人間からすると, アイドリングは感覚的にできてしまうため, 仕方ないのかもしれません. しかし, アイドリングの理論はデビルスティックの多くの技に応用が利き, 技を習得するうえでも重要です. 本記事では, アイドリングの基本的な理論をまとめ, さらなる理解を深めることを目的とします.

次の人たち向けです

・アイドリングの教え方がわからない人

・アイドリングに苦戦している人

・デビルスティックの基本的な考え方がわからない人


2.    デビルスティックの基本要素

 デビルスティックの基本要素として以下の3つが挙げられます.

①    力の向き

②    力の大きさ

③    CSにかける力の位置

 CSの動きはこれらによってほとんど決定されます. ①, ②に関しては直感的にわかる通り, 回転の加速・減速とその度合い, CSの移動方向・距離に寄与します. ③について, 先端に近づくほど回転への寄与が大きくなり, 中心に近づくほどCSの移動への寄与が大きくなります.

 アイドリングにおいて, ③は他二つに比べると重要ではありませんが, デビルスティックを理解するうえでは最重要といっても過言ではありません. 一例として, HSでCSを高く投げ上げる場合, CSの回転速度・滞空時間がキャッチのしやすさに大きく影響します. これらを調整するには, ③の考えが必須になります. アイドリングが安定し始めて, 他の技に手を出す人は頭の片隅に置いておいてください.


3.    アイドリングのポイント

 アイドリングの理想的な動きを「CSの中心を動かさずに, 平面内で回転の加速・減速を繰り返す動き」と定義し, 習得するうえで重要となるポイントを優先度の高い順に示します. ①, ②が特に重要です. ⑤以降はアイドリングがある程度続くようになってから意識しても構いません.

①    上向きに力をかける
②    HSを自分から見てハの字にし, 先端を上げる
③    手でCSを持った状態から始める
④    CSの上端から4分の1あたりを触る
⑤    手のひらを下向きにする
⑥    クッションする
⑦    体の一部を固定する

①    上向きに力をかける

 アイドリングを始めたての人は横または斜め方向に力をかけがちですが, 正しくは上方向です. CSに触れるときに, 基本的にはCSが斜めになっていますが, この状態で横方向の力を加えるとCSが横に移動し, CSの中心を固定できません. アイドリングをするうえで必要な力は「CSを少し浮かせる(とどまらせる)力」と「回転を反転させる力」です. これらに横方向の力は必要ありません.

 どうしても力の向きが直らない人は, ハーフフリップをしてみましょう. ハーフフリップとは, CSを半回転させることで上下を反転させる技です. 本来であれば, アイドリングより力を少し強めるだけで成立する技ではありますが, 横方向の力がかかっている場合, 当然横に飛んでいきます. アイドリングがある程度続く人は, ハーフフリップをやってみると良いかもしれません. 筆者は早い段階でのハーフフリップをかなり推奨しています.

②    HSを自分から見てハの字にし, 先端を上げる

 これらはCSを落としにくくする意味があります. 初心者はHSを逆ハの字且つ先端を下げて持つことが多いです. 逆ハの字にするまたは先端を下げると, 前方への力がかかりやすくなること, CSがHSに触れている間に前方に転がることによって前方に落ちていきやすくなります. これらを防ぐために②の持ち方をすることが重要となります.

 普段はHSの持ち方を意識できている人でも, HSにCSの重みがかかったときや, いつもよりずれた位置でCSに触れたときに崩れやすいため, 復帰する際にも意識してみてください.

③    手でCSを持った状態から始める

 筆者はこれに関して過激派です. 地面につけた状態から始めるのダメ絶対!(諸説あり). CSの下端を地面に固定してアイドリングモドキをする練習を度々目にしますが, これはアイドリングと動きが全く違うため, アイドリングについて間違った解釈をする可能性が高いです. また, アイドリングを始めるには地面についた状態から立ち上がる必要があり, アイドリングの練習に入るまでに, 立ち上がりながらアイドリングという, より難しいことをしなければならない意味不明なことが起こります. マジで良くない.

 アイドリングで触れる位置を持ち, CSを離すことで1タッチ目からアイドリングに近い状態で始めることを推奨します.

 地面にCSの下端を固定して左右に動かすことに関して, 「アイドリングの練習」としては不出来ですが, 「デビルスティックに慣れる練習」としては多少効果があると考えています. それでも多少であるため, やらなくて良いと思います. ジャグリングの体験会においてはアイドリングの難易度が高いため, やっても良いかもしれません.

④    CSの上端から4分の1あたりを触る

 CSの上端よりを触ると回転が速くなり, CSを浮かせる力が弱まります. 逆に, 中心付近を触ると回転が遅くなり, CSを浮かせる力が強まります. 明確にCSのどこに触れると良いという場所はありませんが, 大体CSの上端から4分の1あたりが目安です. いろいろ試してみつつ, 自分の好みの場所を見つけてください.

⑤    手のひらを下向きにする

 簡単のため, 「下向き」にすると表記しましたが, 完全に下向きにすると手首の可動域が狭まるため, 「親指の爪が自分の顔の方向を向く程度」が正解です. 始めたての頃は手のひらが上向きになりやすいため, 下向きにすることを意識すると良いです.

 アイドリングの段階では, 手のひらが上向きになっていても安定はします. しかし, トスやキャッチをする段階に入り, 手のひらが上向きになっていると, ブレやすくなります. また, 手首を怪我しやすくなるという噂もあります.

⑥    クッションする

 CSを触る際に, CSの動きに合わせて徐々に力を加えることでやんわりと打ち返すことを「クッション」と呼びます. クッションすることで衝突の成分が少なくなり, 安定感が生まれます. より難しい技で重要な技術になるので, アイドリングの段階から意識すると良いです. ただし, CSがHSに触れている時間が長くなるため, HS上で転がらないようにHSの持ち方に注意する必要があります(②).

⑦    体の一部を固定する

 アイドリングをするために必要な力は非常に小さく, CSが軽く浮く程度の力で十分に成立します. そのため, 体全身を使ってアイドリングをする必要はありません. 力を加える要素として「手首, 肘, 肩, 腰・膝, 手首のねじれ」があります. 動かす部位が多いとその分だけ調整が難しくなります. アイドリングをするうえでは, 「主に肘で力を加え, 手首で微調整」が良いと主張します. 手首を大きく使わないことで, HSがブレにくくする意図があります.


4.     よくあるミスと改善方法

 この章では, ミスとその原因・改善方法をいくつか示します. 一概に当てはまるとは限らないため, 参考程度にどうぞ.

・CSが前方に飛んで行く. または前方に落ちていく

 上方向に力がかからずに前方向に力がかかっていることが要因です. HSの先端が下がっている, 逆ハの字になっていることが考えられます. HSに重さが一番かかったときの持ち方を確認してみてください.

・平面が崩れる(ヘリコプター平面になる)

 地面に対して水平な面をヘリコプター平面と呼びます。ヘリコプター平面になる場合、前に押す力または手前に引く力がかかっています. 引く力がかかることは少ないため, 押す力がかかっている可能性が高いです. 力のかけ方, HSの持ち方が要因と考えられます. わかりにくい場合は, 横方向から撮影してみると良いかもしれません.

・CSが回転せず, 縦になって落ちる

 3つの可能性があります.

ⅰ)両手の幅が狭い
 幅が狭いことで, CSに力を加えてから他方のHSで触れるまでの時間が短くなり, CSが十分に回転していない可能性があります. HSの間隔は肩幅程度にしましょう.

ⅱ)横方向に力がかかっている
 横方向に力がかかることで, 他方のHSに触れるまでの時間が短くなりⅰ)と同様のことが起こります. また, CSを浮かせる力が弱まるため, 落ちやすくなることも考えられます.

ⅲ)CSを触る位置が中心に近すぎる
 CSが浮きすぎる人はこれに該当します. 先端よりを触ることで加える力のうち, 「回転を加速する力」の成分を増やせます.

・ブレが大きい

 力をかける方向がバラバラになっている, CSにかける力が強すぎることが要因です. 特に後者が主な要因だと考えられます. アイドリングはCSが浮く程度の力で成立するため, 肘の位置を固定し, 肘から先のみで力を加えることをオススメします.


5.    最後に

 アイドリングは時間をかけることで感覚的にも習得できます. しかし, アイドリングの理論は様々な技に応用できます. プロペラやデュアルなど他の技を練習する際に, 力の向きやHSの持ち方を意識することで, ミスの分析・習得速度の上昇が期待できます.

長くなりましたが, 最後までお付き合いいただきありがとうございました.
良きデビルスティックライフを!!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?