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『アンダー・ユア・ベッド』別府ブルーバード劇場上映、安部賢一舞台挨拶参加レポ


以前まで、映画祭等のイベントレポをTwitterに上げ、モーメントにまとめてたんですが

あまりに、長い、くどい!

フォロワーさんのタイムラインに、それはそれは迷惑をかけているだろうと胸を痛め、長文用にnoteを試みようとアカウントを作成しました。

ちなみに題名とは裏腹に、去年上映された 『ガチ星』 の感想、内容、ネタバレを含んでいますので、まだ『ガチ星』をご覧になられてない方は、スルーでお願いいたします。

では、始め!


安部賢一という役者について

別府ブルーバード劇場で、『アンダー・ユア・ベッド』の上映、出演者安部賢一さんの舞台挨拶が、9月27日、28日の2日間あり、27日に参加した。

大分県別府市にあるこの小さな劇場には、恐ろしい頻度で、役者や、監督の舞台挨拶が行われ、去年から足しげく通っているが、そこで去年の6月に観た『ガチ星』が痛く印象に残っていた。


安部賢一主演作『ガチ星』の上映を知ったのは、別府競輪場、車券モニターでの映画告知だった。
競輪自体はあまり詳しくないが、ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアのようなロードレースが好きなため、時々実車の走行を見に競輪場に行くことがあった。

その時、数分の上映プロモーション動画が、車券のオッズ表示の合間に、競輪場のモニター画面に流れ、映像のクオリティがやたら高いのに驚く。
主役は見たことのない役者。

それまでに数回、別府ブルーバード劇場には役者さん目当てで、舞台挨拶に参加していたので、プロモーション映像に惹かれて舞台挨拶のある上映に参加してみることにした。

『ガチ星』の内容は、

戦力外通告、不倫、ギャンブル、借金、
四十男が再起をかけたのは競輪だった——。
戦力外通告を受けた元プロ野球選手。パチンコや酒に溺れ、妻子と離れてゲス不倫——。崖っぷちの主人公が、再起をかけて挑むのは「競輪」! 過去の栄光が通じない世界に飛び込む主人公の前に立ちはだかるのは、過酷なトレーニングと20歳以上も離れた若者たちの冷ややかな視線。そして、自堕落な生活が染み付いてしまった“自分自身”だった。俳優陣が本物の競輪学校で特訓合宿を行った競輪シーンは、圧倒的なリアリティを生み、人生を背負った男たちがぶつかり合う姿はまさに“ガチ”!
変わりたい。ただ頑張り方が分からない——。根性なしの主人公が不器用にもがく姿に、きっと最後は応援したくなるはずだ。競輪発祥の地である福岡県の小倉を舞台にした本作のメガホンをとったのは、福岡発ドラマ「めんたいぴりり」の演出力が評価され、東京五輪招致映像のクリエイティブディレクションを務めるなど注目のクリエイター、江口カン。今回が満を持して商業映画デビューとなる。主演は競輪選手を目指したこともある安部賢一。「この役に選ばれなければ俳優を引退する」と背水の陣で主役を勝ち取った。ライバル役には、映画『デメキン』やドラマ「You May Dream」など出演作が相次ぐ福山翔大。そのほか、モロ師岡や博多華丸ら多彩なキャストが脇を固める。  ガチ星公式HPより

この主人公濱島が見事なクズ。

映画の半分以上を更生せずクズのまま。本当に最後にカタルシスを感じられるのかヒヤヒヤする程。
そしてこのクズの濱島を演じる安部賢一の演技が、本当に様になっている。

タバコの品のない吸い方から、缶ビールを飲む時に、一気に何本も一緒に持っていく、雑な性格の描写。
「昭和の時代にいたなぁ、こういう大人」
ってその当時のダメな大人達が鮮明に蘇るほど、クズっぷりが板についている。

しかし、安部賢一本人は、クランクイン前、タバコは吸っておらず、体質的にも酒もほとんど飲めないらしい。
そのクズになりきる鬼気迫る演技で、役者としてこの作品は本当にモノにしたいチャンスなんだと、本気さ、気合いが、映画の端々から伝わってきた。

そんな気持ちの入ったこの映画で、1点だけ納得のいかない演技があった。
それは、福山翔大演じる久松が、リハビリをしているシーン。

久松をレース中に怪我させてしまった濱島が、久松を見舞いに行き、無茶ともいえるリハビリを身体を張って止めるというシーンだった。
福山翔大の圧巻の演技で、彼が画面を支配していた。

自分としては、この時、安部賢一は、久松演じる福山翔大の演技に飲まれてしまったと感じた。

濱島は、親友の奥さんを寝取っても、謝罪すらできず、ただ突っ立って腐っているような男だ。
自分が怪我させたからといって、リハビリを身体を張って止めるような人間だろうか? 
濱島という人物がブレたような気がした。
その時、素の安部賢一が出たのではないか? 主役として福山翔大の演技を受け止めきれてないとさえ思った。

このシーンに感じた納得いかない気持ちを、安部賢一という役者は次回作で払拭しているかもしれない。
さらなる役者としての成長の期待も込め 『アンダー・ユア・ベッド』は、待ちに待った次回作だった。


アンダー・ユア・ベッド 鑑賞

『アンダー・ユア・ベッド』は、まだ上映中なので、なるべく内容に触れないようにしたい。

とにかく、高良健吾がここまでイケメン感を消せるのかというくらい、気持ちの悪い、異質な感触を与える演技だった。

演じる三井という人物は、もはや人として歪んでいる印象だ。


盲目の愛なのか――、それとも暴走した狂気なのか――。
「殺人鬼を飼う女」「甘い鞭」や「呪怨」ノベライズなど数々の話題作を世に送り出した大石圭の角川ホラー文庫処女作にして、孤独な人生を送る男のほんの微かな甘い記憶に執着する歪んだ愛を、純粋にそして盲目的に描いた人気小説「アンダー・ユア・ベッド」の映画化。この異常で変質的で狂った繊細な主人公・三井直人を、『蛇にピアス』(08)『ソラニン』(10)『軽蔑』(11)『横道世之介』(13)などで頭角を現し、『シン・ゴジラ』(17)『万引き家族』(18)など超話題作へ出演し、今年も主演作『多十郎殉愛記』ほか『葬式の名人』『カツベン』など続々公開作を控え、日本映画界で益々存在感を増す高良健吾が演じる。
三井が大学生時代から11年間一途に想い続ける女性・佐々木千尋を、『私は絶対許さない』(18)でマドリード国際映画祭主演女優賞にノミネートされた西川可奈子が、夫から激しいドメスティック・ヴァイオレンスを受ける難役を体当たりで演じ魅了する。
監督・脚本は安里麻里。黒沢清監督、塩田明彦監督の助監督を経て『バイロケーション』(14)『氷菓』(17)などで確かなファンを獲得し各方面から称賛を集める期待の女性監督。
新たな一面を存分に発揮した高良が演じる、愛する女性への狂気の愛を描いた、痛々しくも繊細な男の結末とは――。               アンダー・ユア・ベッド公式HPより

公式HPにもあるが、三井が慕う女性は結婚しており、夫から激しいDVを受ける設定。


自分はDVや虐待は、特別なことだとは思ってない。

特に閉塞した空間には暴力を生む力があるのではと思っている。
そこに絶対的な思想や、支配がある場合、抵抗することさえ人の意識から失わせるような、強烈な暴力が生まれると感じている。


若松 孝二監督『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』という作品がある。
その中の山岳ベースで活動家が合宿をするシーンが、DVの発生、本質をよく表していると思う。これが本当に息も詰まるような苦々しいものだった。

演技だということも忘れてしまう程、革命の名の下、同じグループの仲間を追い込み、暴力を振い、粛清していくシーンが何とも言えない重い緊迫感を生む。
DVDで観たのだが、「もうダメだ… これ以上は観ていられない」と映像を止めようとした時に、原田芳雄のナレーションと共にシーンが変わった。

今までに映画のナレーションは、頑なに必要ないものだと思ってきたが、この時ほど、ナレーションがあって良かったと思った作品はない。
そして、こういう暴力の本質に迫ったシーンを観る時、まるで鏡を見るように自分の中にある醜い部分を突きつけられたような、不快と自己嫌悪を感じ心を揺さぶられた気がする。


安部賢一は、そのDVを妻に振るう夫の役なのだが、この息の詰まりそうな閉塞感を丁寧に表現していた。
この役の作る閉塞感、緊迫感の濃さで、この作品のリアリティが決まるといっても過言ではない重要な役だと感じた。

そして、三井という人物に共感できるものは何1つ無いのだが、ラストシーンを観て、不覚にも涙がこぼれた。



上映後、舞台挨拶

『アンダー・ユア・ベッド』の上映後、映画ライター森田真帆さん司会で、安部賢一さんを迎え舞台挨拶が始まる。

とにかく、司会の森田さんは、あるDVシーンについて熱弁。
「これは誰が考えたんだ! 監督の演出なのか、安部さんの提案で入れたのか!」 
凄い勢いで問いかける。

そのシーンは監督と相談して、安部さんが提案したとのこと。安部さんは役の浜崎健太郎が、終始、妻の千尋を自分の奴隷だと思って演じていたそうで、浜崎を演じるにあたって監督からの演出は、ほぼほぼ無かったそうだ。

ただ、撮影時、3日とか中空きがあることがあり、自分で浜崎の気持ちを作るのに海岸をひたすら歩いてたらしい。
あの役で時間が空くのは、中々気持ち的にもハードだなと思った。

また、女優さんを怪我させないことに非常に神経を使ったそうで、以前アクションをやっていたのが役に立ったとか。
髪を引っ張り床に倒す動作は、髪を持つフリをして女優さんに自分の腕をつかんでもらい、そのまま腕の動きに合わせて床に倒れるよう工夫。こういう演技の技術もあるのだなと感心した。

しかし、DVをする役で、こういう冷静な部分も持って演じるというのは、かなり難度が高いんじゃないだろうか? 
他にも色々と細かい演技を提案して、演じているのだが、内容に触れてしまうので想像しつつ、是非この作品を観て欲しい。

今回の『アンダー・ユア・ベッド』では、自分が役をどう見せるかまでを考えて演じていたようで、『ガチ星』の時とは演じ方、役の作り方もかなり違っただろうと想像する。
役者の仕事が「その役を生きる」ことであるなら、精神的負荷は高かったのではないかと思う。

驚いたエピソードは、『アンダー・ユア・ベッド』の女優さんのオーディションをするんで、手伝ってくれないか? と頼まれ、
「いいですよ」
と軽く受けたら、女優のオーディション終了後、
「じゃあ、夫の浜崎健太郎役は安部さんでお願いします」
と言われたとのこと。

「えっ、俺、お手伝いじゃないの?」
という感じで、この役が決まったらしい。
監督、制作陣は、『ガチ星』での演技で役者として気になっていたそうで、オーディションでの女優さんへの怪我をさせない気遣いも、かなり高く評価されたそうだ。


『ガチ星』の演技について、本人に聞いてみた

直接、安部賢一さんと話す機会があったので、何点か質問ができた。

最初に断っておくが、いきなり本人を目の前に、こういう失礼な質問をぶつけてません。
少し場が温まり、勢いがついた時に聞いてみたのであしからず。


自分:
「ガチ星で納得のいかないシーンがあって、久松がリハビリをしているのを止めるシーンなのだが、濱島のキャラがブレた気がした。
もっと言うと、福山翔大の演技に飲まれ、濱島じゃなく安部賢一の素が出ている気がした。
あれは(身体を張って久松を止める)、江口監督の演出だったのか?」

安部:
「江口監督からは、久松を見るように言われた。
だが、福山翔大の演技に応えたくて、ああいうシーンになった。自分としては、あそこで素の安部賢一が出ても構わないと思っている。
ガチ星で競輪学校で背中を見せて2人でローラーに乗るシーンと、あのシーンがガチ星の中でも最も大事なシーンだという福山翔大との認識が一致していて、自分としても作品の中で大切なシーンだと思っている」

自分:「あのシーンをNGにしないで、映画に使った江口監督は、主役の安部さんに対して厳しい監督だなと思いました」


安部賢一さんの上京する過程と、役者を目指すきっかけ、その後の下積み生活などを聞いて後

自分:「役者として売れて無い時は、どういう生活をしてました?」

安部:「バイトして、空いた時間にワークショップとか参加して、オーディションに落ちまくってた」

自分:「ワークショップは実践で役に立ちました?」

安部:「全然役に立ってない(笑)」

自分:「あの頃の自分は何でオーディションに落ちてたと思いますか?」

安部:「何も無かったから」

自分:「じゃあ、今は何がありますか?」

安部:「(少し笑いながら)運かな…」

自分:「ありがとうございました」


文字に起こしながらも、良くこんな失礼な質問に、誠実に応えてくれたなと思う。
そして安部賢一さんは謙遜して、今あるものは「運かな…」と応えていたが、実は信じていない。

どんな経験やワークショップよりも、主役として命がけで1本の作品を演じ切ること、その役として生き切ることが、役者を成長させる上で最も重要で、近道なんじゃないかと感じた。

また、役者というのは、監督の求める演技に対して、全力で応えなければならないが、その答えは自分の心の中にしか無く、それを引っ張りだせる人こそ、役者として成功、もしくは日々成長し、役者としての仕事を続けることができるのではと改めて感じた。


今、日本映画界には、バイプレイヤーの席が2つ空いている。
安部賢一さんには、是非その1つに座って欲しいと思っている。





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