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<sense of quiet MUSIC LAB>将来のヴィジョン

<sense of quiet MUSIC LAB>なるものをスタートします。
LABのページを未見の方は、まずはこちらのコミュニティページを見てください。
ここではLABによって何を実現したいのか、「将来のヴィジョン」について説明したいと思います。

①アーティストの創作 ⇒ 発表のサイクルを後押しする

コミュニティ/LABを活発化させることで制作予算を創出し、各種スタッフを確保、制作・リリースに繋げることで、音楽家は創作と発表のサイクルをよりスムーズにすることが可能になります。
メンバーは新曲や新しい作品に接することができ、音楽の新たな一面に触れることができます。
LABの成長によって、こうした循環を生み出したいと考えています。

例えば、アーティストやレーベルが大量に保有しているものにライブ音源や映像があります。
これは新しい音楽新しい楽曲新しいアレンジ新しい共演の宝庫です。
生まれたての新曲が初めて世に放たれる瞬間、またあるときは初めての共演を記録した貴重なドキュメントでもあるこれらは、当のミュージシャンはもちろんのこと、制作スタッフにとってもさらなる創作の源泉といえる貴重なものです。 
ライブの度に収録している音源や映像には莫大な量のアーカイブが存在し、日々大変なスピードで増え続けていきます。ですが、残念ながらそのほとんどは日の目をみることなく死蔵されていくばかりなのが実情です。
なぜなら、それらを編集し一般公開するまでには多大な時間と労力、費用がかかるからです。

例として、ライブの収録映像を制作するケースを考えてみます。
録音のミックス作業、複数カメラの切り替え編集と音声の同期、公開する楽曲の選定など、ざっくり見ただけでも多くの複雑な作業が必要となります。
しかもこの作業を関係者一同で行います。実演したアーティスト、プロデューサー、収録・編集スタッフなど多くの人による共同作業で、スタッフの分だけ費用も必要となります。見逃されがちなことですが、データの管理一つをとっても簡単な作業ではありません。

完成度という面でいくらかの課題を残すことも多いこれらの一般公開には、慎重になる音楽家・スタッフも多いものです。もちろん、そのアーティストに初めて興味を持ったリスナーに「最初に耳にして欲しい作品」としてはふさわしくないケースもあるでしょう。けれどファンにとっては、その音楽への理解や解釈の幅を広げてくれる、何より貴重なものとなることも多いものです。
一般公開には不向きだとしても、サポーティブな音楽ファンが集まるコミュニティ内であれば、シェアして感想を聞いてみたい。そんな音源がどのアーティストにもあるのではないかと思います。
このLABで作品発表の場を提供し、そうしたサイクルを後押ししたいと考えています。

②創作のプロセスに触れる。フィックスされた完成品としての音楽だけでなく、変化し続ける「生きた作品」を共有する

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LABに出演予定の音楽家の多くは、作曲家であり、同時に高い演奏技術を持つパフォーマーでもあります。その楽曲は、フィックスされた完成品としての音楽だけでなく、絶え間ない変化を前提とした「生きた作品」という一面を持っています。演奏する日の天候や会場、聴衆が生み出すムードなどにより、彼らの演奏は毎回驚くほどに変化します。同じひとつの楽曲を、いくつかの異なる日程や会場、メンバー編成で体験することで、ひとつの演奏の背後に「ありえたかもしれないもうひとつの音楽」までをリスナーは感じ取れるようになっていくはずです。

レコーディングの仕事、さらにツアーを主催してミュージシャンとともに演奏旅行に帯同するようになってから、自分の中でも音楽観が大きく変わったと感じています。同じアーティストの同じ音楽を、沢山のヴァリエーションで体験する機会が増えました。優れたインプロヴァイザー・演奏家との仕事に多く恵まれたということもあり、そのどれもが宝石のように大切な思い出となっていますが、それによって感化されたのは、「変化する作品という音楽の一面について」です。

ここでアルメニア出身のピアニスト・作曲家、Vardan Ovsepian(ヴァルダン・オヴセピアン)とのエピソードを紹介しましょう。
ヴァルダンと、ブラジルの歌手Tatiana Parra(タチアナ・パーハ)とのデュオツアーで日本の各都市を旅している折、ある素朴な疑問が浮かびました。いったいなぜ、ライブの度にそんなにも大きく演奏を変えるのかと。

このツアーではプログラムのおよそ半数で彼の作曲を取り上げていましたが、公演のたびに楽曲全体の尺や構成までもが大きく変化して、共演相手のタチアナが歌を合わせられることが不思議な程でした。歌のメロディ自体は基本的には変わらないので、聴けばもちろん「あの曲だ」とわかりますが、毎回打ち合わせもなく構成を大きく変化させられることの不思議と、同時になぜそこまでする必要があるのだろうと気になりました。

「毎回変化するのは、それが楽曲を生き生きとフレッシュなものにすることができる唯一の方法だからだよ」
ヴァルダンの返答は、変化し続ける「生きた作品」というコンセプト、音楽の捉え方が自然に飲み込めるような言葉であり、また音楽的にもそのようなツアーだったと印象に残っています。

絶えざる変化を前提にしているということは、プロセスそのものでもあると言い換えることができます。
ヴィジョン①で述べたライブ音源のリリースの活発化や、ワークショップで創作の源泉に触れ、インタビューや交流によって音楽家のバックグラウンドを知ることで、メンバーは音楽について深く理解することができます。
エンタテインメントの提供者/消費者という単一的な立場だけでなく、創作のプロセスをシェアする場を提供し、様々な形で楽曲に触れることによって、メンバー一人ひとりがより音楽と深く関わることが可能になっていくはずです。

またプロセスをシェアすることは、リスナーだけでなくアーティストにも良い面をもたらします。
メンバーとの交流と、そこで生じたフィードバックによって、アーティストはそれまで思いつかなかった楽曲や共演のアイデアが生まれることも期待できます。思いついたアイデアは、一般公開の前にコミュニティーやLAB内のイベントで試験的にシェアすることも。アーティストは作品をスクラップ・アンド・ビルドによって磨き上げることもでき、リスナーはそのプロセスに触れることができます。
なかには上手く行かずにその場限りで終了してしまうプロジェクトもあると思いますが、ファンにとってはそれもまた貴重な体験となるものです。

③リスナーが主体のコミュニティによって、アーティストを支える

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現在多くのアーティストが活動存続の危機にあります。
特に海外アーティストの日本公演やリリースは、国内アーティストと比べて渡航のハードルが高く(新型コロナウイルスの感染状況、渡航時の検疫期間、ビザ取得、費用面など)、今後長い期間に渡って減り続けることが危惧されています。
即効性のある対策も重要ですが、同時にいま私が取り組みたいと願っているのは、下記のような根本的な物事です。

「活動を続けてほしいアーティストは自分たちで支える」
「観たいライブは自分たちで作る」
「聴きたい音源は自分たちで音源化を働きかける」

このLABに出演予定のアーティストの殆どはインディペンデントに活動している音楽家たちです。
国際的に活動している音楽家ばかりですが、大企業のレコード会社や事務所に所属しているわけではなく、資金面などで潤沢なバックアップがあるわけではありません。
今回のような有事の際に、真っ先に影響を受けやすい音楽家たちの一群であるといえます。

私個人として、またレーベルや会社としても、今後もアーティスト・リスナー双方の力になれることを願っていますが、現在の新型コロナウイルスによる影響を受け、率直に言って独力で打開できるような状況を大きく超えてしまいました。
17年目になるレーベル運営、コンサートツアーやフェスティバルの主催などを通して、音楽家とリスナーを結びつけるための活動を行ってきましたが、おそらくは今後も長い期間に渡って、誰かひとりの個人や小規模のレーベル・プロモーターが来日ツアーを実現したり、新しい作品を制作するということはかなり難しい社会状況にあると思います。

ただしこのような状況のなかで、気づいたことがあります。
さまざまな国や地方で外出規制下にある多くの音楽家たちと、日夜電話やメールで近況報告を交わしていますが、まずは(当たり前のようですが)どの音楽家たちも同じような困難を抱えている、ということです。
リアルでのライブが出来ないというのは全世界的なことであり、演奏家か否かに関わらず、誰もが生の音楽を求めている。しかもその欠乏は、今後長い間続くとみなすほかない状況です。
そしてその後、多くの音楽家から同じような言葉を耳にすることになりました。
「ライブがしばらくの期間出来ないのであれば、今できることを」
「実際に移動することができないなら、まずは自宅・オンラインでできることを考えよう。そして少しずつ、できることにトライしてみたい」

彼らのそんな言葉に耳を傾けているうちに、自分も今までやってみたかった、けれどまだ始めていないことをやってみようと思いました。
このLABの構想を彼らに話したところ、その多くが自分も参加してみたいと賛同してくれました。
実際には手放しで称賛してくれる人もいれば、まだどんなものか上手くイメージできていないけれど、とにかく面白そうだしやってみる!という人もいます。
ただ、イメージがうまく掴めなかったとしても当然です。私たちが知る限り、これと全く同じようなコミュニティはまだ存在していないのですから。 そんなわけで、しばらくの間は試行錯誤を繰り返しながらの運営ということになりそうです。クオリティや完成度が保証されているものにしか興味がない、すぐに結果を得たいという方にとっては、満足のいくものを届けるまでに時間を要するかもしれません。
ただしそのプロセスに興味を抱き、プロジェクトに手を貸していただける方にとっては、このうえない経験が待っていることと思います。
そして何しろ、参加を表明してくれているミュージシャン一人ひとりの名前を見てください!それぞれの音楽に触れたことのある方には、彼らと同時代を生き、その活動を後押しすることの価値が伝わることと思います。

ところで私が話をしたミュージシャン全てが、このプロジェクトにすぐに参加を表明してくれているわけではありません。
今はまだ何かを進める気分になれない。ただ静かに家族と過ごしたり、自分の活動や人生を見つめ直す時間を持ちたい。率直にそう伝えてくれた人もいます。
ですので、もしあなたが今はこのLABに関わる気分になれない、インターネットと距離を置きたい、興味はあるけど経済的に難しい、などの気分や状況があったとしても、どうか気になさらないでください。私にもその気持ちはよくわかります。

そしてもし気が向いたときには、いつでもここに加わってほしいと思います。

PS: このLABによって、参加するメンバー・音楽家がこうなってくれたら最高。

「これらの音楽とより深く付き合えるようになった」
「仲間が出来てライブに行くのがますます楽しくなった」
「自分の演奏や活動のヒントを得られた」
「(アーティストが)活動を続ける意欲が湧いた」

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