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獄中記⑯ 嘘のストーリーを平然と作成するありえない刑事 完全に負けてしまった取調べ

唯一の希望

川村は4日目か5日目に、5人の実行犯のうち2人が私選の弁護士をつけている伝えてきた。2人は他にも色々やっているらしく、その上位者(指示役か先輩)がとばしてきたらしい。                   その先生が示談を進めてくれる可能性が高い、とも教えてくれた。         彼はずっと私に対して示談を押していたので、私は当然それを信じたし、唯一の希望だと思った。 

川村は私に対して、「山梨の弁護士がダメなら東京の小寺先生が何とかしてくれるだろ。」と伝えてきたりもした。                その上で、「今のお前は色々考えすぎだ。兵庫は示談したんだろ?この件も示談すればワンチャンある(執行猶予)だろ」とも言った。

私は事件について、自分のやった範囲ではなしをしていた。             いくつかの記憶違いはあったが、噓はついていなかった。          しかし川村は私の言ったことをカスリながらも、全然違うストーリーを調書に書いては、私のところに持ってきた。 

私が渋ると「大丈夫。俺らの員面調書(司法警察員面前調書)はただの紙っぺらだから。裁判では弁護士が拒否したら出てこないよ。裁判で行ったことが本当のこととしてとらえられる。こんなのはゴミクズにしかならない。」  「弁護士が後は何とかしてくれる。お前は今までも途中で折れて協力している。そろそろこの件もいいだろう。裁判で言いたいことを言えばいい。俺も上に色々言われているんだよ・・。」と言ってきた。

脅し・スカシ・利益供与

私はしばらくの間、調書のサインも渋っていた。               川村はその間、脅しやスカシ、利益供与、情に訴えてかけるなど、何でもやってきた。

脅しについては「H」の助成金不正受給疑惑だ。私は何もこの件に関わっていないのだが、「この手法はHにはできない。頭の使える人間が糸を引いていると見てる。お前だろ?2課が調べに来るぞ。」                2課とは知能犯を担当する捜査2課のことだ。

スカシは今まで通り、”俺はどうでもいいよ”というオーラを突然出してくる。情への訴えかけもすごい。                      過去の離婚話や子どもと引き離されたことを涙目で話してきたり、     「出てきたらお前のビジネスに入れてくれよ。こんな仕事辞めるから。」と言ってきた。                                 「大丈夫だ。悪いようにはしない。こっちへ来い。」とまで言ってきた。  同じセリフを静岡でも聞いた。 

また、今考えれば完全に利益供与なのだが、川村は私にある人物の情報を渡してくれた。私は逮捕前、数名のいわゆる半グレと呼ばれる連中ともめていた。その中に名前の分からない人がいて、逮捕後も刑事から情報を得るべく動いていた。その人物を川村は特定し、顔写真・名前・生年月日・今どこにいるかまで教えてくれた。「こいつのこと、捕まえてやろうか。」とも言われた。

根負けした

私は完全に疲れてしまった。示談が進むならそれでいいし、おそらく私が何を否定しても、結局彼等のストーリ-が出来上がると思った。         なぜなら全く事実でないことが、すでに「T」を始めとする実行犯の調書になっていると言われていたからだ。                  周りを固められてしまうなら、自分発信の方が裁判での情はいいだろうと考えた。

弁護士は「刑事さんの調書は不同意にしたら出てこないですよ、基本は。」と言った。川村はなぜそれでも調書にこだわるのかと聞くと、私の調書がないと「K」を逮捕・起訴できないという可能性があるとのことだった。    「上司のGOを貰うために調書を取らしてくれ。事実は裁判で言えばいい。」彼は何度もそう言った。                          「結局、裁判で行ったことが本当のことになるんだから。」とも。    しかし彼の言ったことには嘘が多く含まれていた。これについては後で述べる。

私はついに根負けした。しかし完全に川村の言う通りは嫌だったので、少し今までの話を川村寄りにアレンジしたストーリーを被ろうとした。     しかし彼の調書は全くその話を念頭に置いたものではなかった。

「今までは噓をついていました。「K」が中心だと言いましたが、僕も中心にしていました。嘘をついても「K」のの所までまさか調べに行くとは思わなかったからです。しかし、留置所へ入り、日々の過去を見つめる中で、家族のことを想い、反省して人生をやり直そう。そう思い、本当のことを言うことにしました。」

「私は実行犯に電話し、”相手のことはロープで縛ってください” ”電話線を切って通報を防いでください”などと言いました。この電話は「H」にかけました。なぜなら元々知り合いで、信用していたからです。」        「奪った金はピンハネしましょう。2つに分けて持ってきてください。」  

などと書かれていた。私の口からは一言もロープ云々とか、電話線云々の話は出ていないのにもかかわらずだ。                  また、Hが事件に参加していると私が知ったのは、事件の後である。しかしそれを何度言っても川村には通じなかった。               ピンハネも考えてすらなかった。全くどこからこんな適当な調書(まったくウソの)が出て来るのか、不思議で仕方ない。

「少しは楽になるぞ。ほら大丈夫だ。弁護士がやってくれるよ。執行猶予もあるだろ」                               15分位の間があった。私は後々、多少の問題が出て来るだろうとは思っていたが、「裁判に出てこないよ」「お前のもめた奴、俺達がパクッてやる」 「そのためにはお前と「K」の協力が必要だ。」と繰り返され、署名した。

今、山梨の事件でこの調書は証拠として提出されている。         彼はウソつきもいいところだ。絶対に許すことはないだろう。        一通り彼らのストーリーを完成させると、取り調べは全くなくなった。

検事の所へ行くと、「これ、前の話と変わっているけど、大丈夫なの?」と聞かれ、一応私の主張をした。しかし、調書には反映されていなかった。  唯一の救いは「H」が参加しているのを知ったのは、後になってからです。」といれてくれたことだった。

署名を拒否しようかと少し勇気を振り絞ったが、事務官がすごく近くまで寄ってきて求められたので、サインした。サインして自己嫌悪に陥った。  「ああ、なんて自分は弱いのか。」その日はあまり眠れなかった。

つづく

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