やれたかも委員会3巻 作者解説
やれたかも委員会3巻が発売されたので、各話のこぼれ話などを書いてみようと思う。かっこよく言うとセルフライナーノーツ。
case017 今夜ねぎ焼きが冷めるまで
「女の子の家に行く。」というのは男の立場から考えると、「なにかあるのでは…」などと考えて舞い上がってしまいがちだけど、いろんな人の話を聞いてると、別に気を許した相手ならそこまで気負わず家に入れてくれる女の子もいるらしい。確かにそうかもしれないと思う。
このような一つの事象から男女で全く異なるイメージが浮かんでしまう時、悲劇が起こるのかもしれない。
悲劇には会いたくない。
またこの回では大学の資料写真が欲しくて、以前知り合った大学生に連絡し、大学内を色々案内してもらいながら、写真を撮らせてもらったのでとても助かった。ありがとうございます。
また同じ理由で女の子の部屋の写真も欲しかったので色々当たってみたが、それは各所見事に断られた。
やはりなかなか入れてくれるものではないらしい。
女の子の友達は大切にした方が良い。
case018 Q.E.D.愛を証明する男
恋愛工学というものがこの世にはあるらしい。
女の子とセックスする方法を体系的な学問として学んでいこうという真面目なんだか不真面目なんだかよくわからない学問である。
このエピソードを送ってくださったのは恋愛工学生(と呼ばれるらしい)の方だった。
僕はお会いするまで恋愛工学というものに対して、正直いい思いを抱いていなかった。
品がない気がするし(お前が言うなだけど)、薄っぺらい感じがする。などと言いつつ、その裏には単純にセックスできていることに対して羨ましさと妬ましさがあった。
しかしお会いしてみると考えはずいぶん変わった。
恋愛工学生というよりも僕がお会いした彼はということになるけど、人生観や女性観に関して自分と似たような感覚を持っていて、同じように女性への羨望と苦手意識に少なからず悩んでいるように見えた。だんだん話しているうちにそれを克服しようとするか、受け入れようとするか、というリアクションの違いに過ぎないような気さえしてきた。
ネットの情報は象徴化されてグループ化されて、すぐ苦手になりがちだけど、会ってみないとやはりわからないことがすごくある。
忘れられない話をたくさんして、とても勉強になった。
作中に「エレカシの宮本さん」というフレーズが連呼されるが、肖像権の問題を気にして一応レコード会社にご連絡したところ、快く許諾してくれた。
改めて感謝申し上げます。
case019 大人になれば
3巻では女性編をたくさん描こうと思っていた。
男の妄想を描くのは得意だけど、そればっかりやっているわけにもいかない。
出来るだけ女性的な感覚を理解してみようという試みです。
作画的には「ブランドショップが経営するレストラン」を描くために1人で銀座まで行って写真を撮ってきた。
この世にそんなものがあるとはこのエピソードを読むまで知らなかった。知らないことばかりだ。
平日よく晴れた4月の午後、ピカピカのエレベーターに乗って、ふかふかの椅子に座り、7000円のランチを食べた。
領収書はブランド名が刻印されたポケットに入れると太ももに刺さるんじゃないかというくらいパキッとした厚紙の封筒に入れてくれた。
その取材の効果、出てますでしょうか。。。
ホテル街の写真もいっぱい撮った。
しばらくホテル街には困らなそうだ。
case020 誰そ彼時のヴィクトリア湾
女性編第2弾。女性を知りたいのだ。
お話的にはうまく表現できたと思いますがいかがでしょうか。
90年代の香港は歴史的にもエキサイティングな時代だったらしい。ということをエピソードを送ってくれた方と香港料理を食べながら色々お話した。
今はなき旧香港空港(啓徳空港)は市街地の近くにあるからビルすれすれに飛行機が離着陸しなければならず、それは香港アプローチと呼ばれて名物になっていた。
など、当時の香港あるあるも入れてみました。
漫画公開当時Twitterでそこに反応してくれた90年代香港ファンの方がおられて、とても嬉しかった。
その空港自体おそらく40年代に軍事的に作られたもので、戦争が終わって、そこから少しずつ平和になっていって97年の返還まで、不安定で猥雑で乱暴で、でも信じられないくらい人に勢いがあった時代、というのは正直憧れてしまう。今でいうとどこの国に行けば体験できるんだろう。
当時の香港の写真をたくさんお借りして背景を作画した。(描いたのは僕のスタッフですが。。。)
原稿が完成して、そのエピソードを送ってくれた方に見てもらったとき、「そうそうこんな感じ」と言っていただけて嬉しかった。
女の子をひたすらエロく描いたので怒られるかと思ったけど、「いやらしい感じで見られたことがないのでうれしい」と言っていただいた。
女性ってわからない。
case021 幼なじみのキツネくん
実はもう1本女性編を入れる予定だったんだけど、うまくネームをまとめられず断念してしまった。
村上春樹が好きな男とオールナイト映画を見て回る女の子の話。
すごくいい話なので、どこかで再度チャレンジしたい。
それに変わって描いたのがこのキツネくんである。
これは最後の「この子休ませてあげてくれる?」という一言がすべてである。
なんと優しくて非情で、完璧な断り文句だろう。
そのオチが一番引き立つように組み立てたかったんですが、ちょっとごちゃごちゃしてしまっただろうか。
精進します。
僕にも20代の頃、夜中に訳も分からず女の子に呼び出されて、よくわからずドライブしたことがある。
夜中にアパートの隣のおじさんに急にアルバイトを頼まれたことはないけれど、よく分からないおじさんによくわからないまま助けられた不思議な思い出がある。(よく分からず騙されたこともたくさんある。)
僕は今39歳で20代の漫画を描いている人をみると無性に助けたくなってしまうことがある。2000円くらいならあげたくなってしまう。
あのおじさんもそんな気分だったのかな。と考えたりもする。
そんな謎の記憶を若者に植え付けるおじさんになれたらちょっと素敵かもしれない。
case022 甘え上手の君でいて
初めての前後編になったお話です。
描いてるうちにどんどん長くなって、出来上がったら50Pだった。
女の子と2人で個室居酒屋で出汁巻食べて、カラオケ行くのは楽しいでしょうね。
描いていた当時、僕の友人が女の子に振られて、その友人が別の女の子になぜ振られたのか恋愛相談したところ、「好きってのを相手に見せちゃダメですよ。その気持ちは一番最後にとっておかないと、だからその子は冷めちゃったんじゃないですか。」と言われたらしい。
そんなのむちゃくちゃじゃないか。
この回の月満子さんの言葉はそんなところから来ている気がする。
case023 優男たちのララバイ
3巻のラストを飾るにはこの話しかないと思っていた。
大ネタです。
case019とcase020の女性編では極力女の人の気持ちを描いてみようと思い、最後は逆に極限まで男の主観に振り切ろうと思った。
そうすることによって1冊を通して、男女の愚かさの性質の違いみたいなものが出ればいいなと思いましたが、いかがでしょうか。
女性編は公開時の評判がすごく良くて、共感したという感想も多かったし、はてなブックマークもとても盛り上がっていた。
逆にこのcase023はほぼ男性からの「黒歴史が蘇った」「吐きそう」「うわああ」という感想で、女性からの感想はそこまで見られなかった。共感はほぼなく、当然「気持ち悪い」という意見も見られた。はてブもさっぱり盛り上がらなかった。
それでいいと思う。
はてブがどうした。
おれははてブで盛り上がるために漫画を描いているわけではないのだ。
僕は基本的な人間観として人は気持ち悪いものだと思っている。
特に若い頃は不安定で誰の気持ちも分からず、頭が悪く、自制が効かず、気持ち悪いのだ。
それが色々な経験を経て、他人の社会生活を壊さない程度の常識をなんとか身に付けるのだ。
この「なんとか身につけている」という感覚が、大切だと思う。
それってとてもすごいことなのだ。
それに比べるとツイッターやはてブで正しそうなことを言うなんてことは大したことじゃない。おっさんになればある程度誰だってできることだ。
話が逸れました。思い描いていた通り描けたつもりだけど、いかがでしょうか。
気に入っていただけましたら幸いです。
特別編「犠星塾」
3巻の描き下ろしで14P描いた。
でもこのネーム自体はやれたかも委員会の第1話を描いた4年前くらいからあって、今こうして本に収録できたことは非常に感慨深いです。
各巻に1つは自分の話を載せようと思っていて、ここで語られるやれたかもの話は僕の体験談です。
しょぼー。
以上、いかがでしたでしょうか。
単行本楽しんでいただけましたらそれに勝る喜びはありません。
4巻も出す予定です。
今後ともよろしくお願いいたします。
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