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日本におけるキャッシュレス化と今後ブロックチェーンに期待すること

経済産業省の「キャッシュレス・ビジョン」で「今後10年間でキャッシュレス決済比率を倍増し、40%程度とすることを目指す」としている日本。消費税増税にともなうポイントバックの報道や今月頭から始まったPayPayの100億円キャンペーンなど、キャッシュレス化の話題に今再び注目が集まっています。
今回の記事では、**主に日本のキャッシュレス化とブロックチェーンについて、その現状と今後をデータと私見とを織り交ぜながら書いていこうと思います。 **

まず、現状としてここ最近のいくつかの統計を見ても、日本での現金使用率は高水準な状態が続いています。世界各国のキャッシュレス決済比率(※1)の比較を行うと、韓国の 89.1%を始め、キャッシュレスが進展している国では軒並み 40%~60%台であるのに対して、日本は 18.4%にとどまります。
ただここでひとつ勘違いしてはいけないのが、全くキャッシュレス化が進展していないというわけではないということです。日本のキャッシュレス決済比率は、2008 年の 11.9%から 2016 年には 20.0%へと推移しており、8 年間で 8%程度の上昇が認められます。このように少しずつキャッシュレスが浸透している状況にあるものの、他国と比較すると普及が遅れている、という方が現状認識として正しいかと思います。
(※1)ここでの「キャッシュレス」の定義は、「物理的な現金(紙幣・貨幣)を使用しなくても活動できる状態」を指す。また、決済比率の計算式は以下のとおり
キャッシュレス支払手段による年間支払金額÷国の家計最終消費支出

日本でキャッシュレス化が遅れている要因  

・「現金に対する高い信頼」
 種類が限られていて、状態の良い紙幣が
多い。偽札の流通量の少なさ
・「治安の良さ」
 諸外国がキャッシュレスに舵を切った理由
として、盗難の可能性を減らすためという
ものも少なくない
 日本では盗難も相対的に少なく、落とした
財布などが帰ってくることも
・「POS(レジ)の処理が高速かつ正確」
 店舗等のレジの処理が高速かつ正確であり、
店頭での現金取扱いの煩雑
 さが少ない
 ・「現金の入手が容易」
 ATMの設置台数、箇所が多い。利便性が高い

キャッシュレス化の遅れは、実店舗側、事業者側、消費者側など様々な側面の要因が複雑に絡み合った結果として生じている問題ですが、その大きな要因の一つとして銀行を中心としたシステムが早い段階に進歩したことがあげられます。日本での銀行のオンライン化は、かなり早い時代に進んでいました。 ATM(現金自動預払機)が発達し、1970年代から世界の最先端に立っていたのです。一方で、例えばアメリカでは小切手の使用が昔から行われていたこともあり、なかなか普及しませんでした。加えてクレジットカードの普及もATMの必要性を低下させていました。
1990年代、ATMの設置台数で日本は世界一でした。紙片の折れやしわを伸ばす機能のついたATMや、世間の清潔志向に合わせた抗菌ATMなどが登場している傍ら、アメリカでは1998年にPayPalが創業します。クレジットカード、デビットカードまたは銀行口座を登録すれば、支払いや送金を現金を介さずインターネット上で一括で行えるサービスです。

途上国で起きた「カエル跳び」

技術的に遅れていた国などで新しい技術が社会に一気に広まる現象を、カエル跳びに例えてLeap Frog(リープフロッグ)と呼びます。例えばケニアでは2007年、携帯電話のSMS(ショート・メッセージ・サービス)で送金するM-PESA(エムペサ)が始まります。
銀行が未発達な国々では、この頃から次第にキャッシュレスに移行していく流れが生じました。
中国でもリープフロッグが起き、アリババ・グループの子会社アント・フィナンシャルが運営する電子マネー「アリペイ」が、Eコマースの決済を超えて普及しています。携帯電話の番号がアリペイの口座番号代わりになり、簡単に送金できます。
大手IT企業のテンセントの「ウィーチャット」という電子マネーとアリペイと合わせると、人口14億人の中国で、利用者は10億人を超えると言われています。
さらにアリペイはQRコードから顔認証の技術にも力を入れています。これによってまず、無人店舗が可能になっています。さらに使用データをビッグデータとして活用できるので、すでに融資の際だけではなく、さまざまな場合に信用スコアリングとして利用されています。
北欧でもキャッシュレス化が進んでおり、スウェーデンの現金使用率はわずか2%と言われています。スウェーデンの6つの銀行が共同開発した「Swish(スゥイッシュ)」という決済システムで、金額と送金先の電話番号の入力を済ませれば個々人間の送金ができます。

キャッシュレス化が遅れることの何が問題か

そうしたグローバルな動きの中で、日本のキャッシュレス化が遅れていることの何が問題なのかを考えていかなければなりません。
まず、言わずもがなですが、現金を使う社会は非効率です。特に日本においては労働力の不足が顕在化してくるにあたって、 業務の効率性向上のためにはキャッシュレスの導入が急務です。
次に、これも重要だと思うのですが、オンラインショッピングの際の信用の問題です。相手がAmazonや楽天などであればクレジットカード番号などの個人情報の登録に抵抗がなくても、逆に知らない相手や新興企業に自分の情報を教えるのには不安があるかもしれません。

つまり、インターネットを介したクレジットカードが主な決済手段であるサービスにおいては、大企業の方が信頼されやすく、競争上優位に立ちます。
トーマス・フリードマン氏が、著書『フラット化する世界』の中で個人の働き方、企業のビジネスモデル、国家のシステムが猛烈な勢いで今後「フラット化」に向かうと書いたように、インターネットによって世界はフラットになるだろうと考えられていました。
ところが実際にはアメリカのIT系企業4社のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの4社の総称)や中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)の企業価値が時価総額ランキングの上位を占め、市場を寡占しているのが実情です。

社会のフラット化とブロックチェーン

この状況を変える選択肢を持つとしたら、どうしたらいいか。畢竟、こちらが相手を信頼しなくても決済や送金ができる手段が必要で、そこで僕が期待しているもののひとつが暗号通貨です。これらは暗号で保護されていますし、取引の記録がブロックチェーンの上で残され、書き換えは不可能です。運営主体がいなくても正しい取引が理論上可能になります。
米中のテックジャイアントが決済のハブになっている現在とは異なり、暗号通貨は信頼を何かの機関に置かずとも資金が流れる仕組みを作り出すソリューションになり得ます。
暗号通貨が決済の手段として広く使われるようになるなら、個人が自分のウェブサイトで自由に商品を売って稼ぐということも可能になり、大企業の優位性が低減すると考えています。サービスを無料で提供して広告で稼ぐビジネスモデルも成立しづらくなるため、インターネット上のビジネスモデルは有料化に移行することになる。これは非常に大きな変化です。

「究極のキャッシュレス」とは

今まで話したのは、ビットコインに代表される、誰でも自由に取引に出入りできるパブリックブロックチェーンです。
それ以外に、銀行による暗号通貨があります。日本ではメガバンクが暗号通貨を発行すると報道されています。ビットコインがなぜ投機の対象になったかと言えば、価格が大きく変動したからでした。価格の安定化は決して容易ではありませんが、銀行の暗号通貨はそれを目指しています。
もうひとつの可能性は、中央銀行による暗号通貨の発行です。実際、イギリス、スウェーデン、中国などでは検討が進んでいると言われています。
もし日本銀行が暗号通貨を発行するとしたら、今の日本銀行券に代わるものになるので、社会には非常に大きな変化が起きるでしょう。例えば、市中の銀行が必要なくなり、消滅するといった事態が生じ得ます。

また個人のプライバシーの問題もあります。中央銀行が暗号通貨を発行する場合、秘密鍵を企業や個人に配布することになりますが、本人確認を行えば、中央銀行は企業や個人のあらゆる取引を把握することできます。
そのような社会が望ましいのか。中央銀行の暗号通貨発行は「究極のキャッシュレス」かもしれませんが、踏み切れないのは、こうした事態にどう対処するのか官民双方でビジョンが描けていないということがあるからでしょう。キャッシュレスは便利な半面、極めると恐ろしい一面が生まれてしまうという可能性も大いに考えられます。

ただ、今後量子コンピューターなどが現れると、インターネット上の暗号が瞬時に解読されてしまう可能性があり、そうなると今のビットコイン等の仕組みは成り立たなくなってしまいます。しかし、それに対応した新しいタイプのブロックチェーンも考えられているようです。今後この分野に関してもnote等で発信していければと考えています。

スマホ決済業界〜戦国時代編〜突入か

昨今ネット上で話題となっているPayPayの100億円還元キャンペーンはもちろんのこと、LINE Payや楽天Payなどその陰に隠れているイメージはありますがかなりの規模のキャンペーンを行っていたりします。今や10社を超える企業がスマホ決済業界に参入し、その他キャッシュレス決済領域の企業も複数あることを鑑みれば、さながら戦国時代といったところでしょうか。今後、その熾烈な闘いの中で日本でキャッシュレス化を進めるような様々な取り組みが一層行われていくことを期待します。

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