2024年10月雇用統計振り返り ~失業の質が悪化~
2024年10月の雇用統計において、失業率4.1%、非農業部門雇用者数1.2万人増(前月比)と発表された。
最近の雇用統計では、今回も8月、9月分が計11.2万人下方修正されたように、下方修正が多く(2023年1月以降、上方修正4回・下方修正17回で、下方修正確率80%超)、今後仮に非農業部門雇用者数がマイナスに転じれば2020年12月以来となる。
今回の雇用統計は、ハリケーンやボーイングなどのストライキによる影響が大きく、それが一時的に非農業部門雇用者数の伸びの大幅な減少につながったという解説が多く見受けられるが(参照:Bloomberg、Reuters)、一時的な減速と必ずしも楽観的になれるものではない。
今回雇用の減速と共に気になったのは、失業の質の悪化である。
2024年10月に失業者は15万人増加し、698.4万人となった。
ハリケーン「ベリル」が上陸した2024年7月は、一時解雇(レイオフ)がけん引する形で失業者が増加したが、今回は前月比-4.8万人と減少している。
※2024年7月の一時解雇者が職場に戻り、2024年8月の雇用改善につながったことが分かる。
米国労働統計局のニュースリリースにも「Employment declined in manufacturing due to strike activity.(ストライキ活動により製造業の雇用は減少した。)」とあるように、ボーイングの3.3万人を筆頭にストライキが製造業の雇用悪化につながったのは事実だが、ハリケーンに関しては、一時解雇(レイオフ)に表れるような事態には至らなかったのかもしれない。
対照的に、Permanent Job Losersが前月比+15.3万人と増加したのが気になる。
Permanent Job Losersというのは、定義上は一時解雇ではなくかつ非自発的に雇用が終了した失業者とされており、失業者の約25%を占める。解雇などの形で不本意に正規雇用を失った労働者と言っても良いだろう。
※参考までに失業者の内訳は以下の通りである。
2024年7月は一時解雇(レイオフ)が増えたが、2024年10月はPermanent Job Losersが増えている。レイオフが一時的に増えるのはまだ良いとしても、一時解雇ではない形で失業者が増えていくのは問題だ。
Permanent Job Losersが増えると全体の失業者数も増えていくのが分かる。
リーマン・ショック前後の2007年~2008年にかけての推移は以下である。
よって、2024年11月以降、ハリケーンやストライキの反動による失業率の改善が再び見られるというのは、誤った期待だろう。失業者の増加が主に一時解雇ではなく、Permanent Job Losersの増加によってもたらされているからだ。
※雇用統計(家計調査)では、もともと天候関連の出来事で 1 週間仕事を休む場合、休暇の給与の有無にかかわらず、就業中としてカウントされるため、失業率の算出に影響はありません。(Employment Situation Frequently Asked Questions 8. How can unusually severe weather affect employment and hours estimates? より)
細かいが、失業率は同じ4.1%でも2024年9月の4.051%から10月は4.145%へと0.094%(≒0.1%)悪化した。
非農業部門雇用者数の民間部門ではついに前月比が2020年12月以来、初めてマイナスに転じた。(民間部門と政府部門の合計が非農業部門雇用者数となる。)政府部門が雇用のけん引役にはなれないことを考えると、決して状況は良くない。
非農業部門雇用者数及びその内訳である民間部門・政府部門の前月比を月々の変動をならすため3カ月及び6カ月移動平均でみると、明らかに下降トレンドだ。
そして、失業期間が15週以上に及ぶ中長期失業者数はじわじわと増え続け、10月は失業者の中に占める割合が40%を超えた。これは根雪のように失業者数を底上げする要因になるため、こちらも引き続きウォッチしていきたい。
ソフトランディングできるのか、楽観視できない状況がしばらくの間、続くだろう。
P.S. 前々回・前回の記事で2024年10月の失業率を4.3%と予想をしたが、結果は4.1%と外れてしまった。
失業者数の増加と雇用の鈍化は見通しの通りだったが、労働参加率の低下(62.7%→62.6%)による労働者人口が22万人減少したのが誤算だった。
労働参加率の低下は、就業をあきらめた人、就業をやめて学業に戻る人、高齢に伴い働くのをやめた人など、理由はさまざまであるが、いずれにしても労働市場から退場した人が増えたことを意味し、隠れた失業者の増加とも言える。(これも失業の質の悪化の一つだ。)
今までの軌道通りに労働者人口推移し、労働市場から退場した人の多くが失業者としてカウントされていれば、計算上、失業率は予想にきわめて近い数字になっていたはずだ。(むしろドンピシャの数字だった可能性がある。)
とは言え、外れは外れだ。
なかなかピンポイントで当てることは難しいが、米国の失業率の行く末は、現在非常に大切だと思うので、しばらくの間、追いかけていきたい。そして役立つ情報発信ができればと思う。