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【物流】EC事業者必見!貨物自動車運送約款のキホン

 EC事業を営まれている事業者はモールや自社サイトで販売された商品の配送に必然的に宅配便業者と契約をすることになります。

 EC事業者が大手企業の場合には宅配便事業者と個別に各条件について交渉し、契約を締結する場合もありますが中小のEC事業者の場合には基本的には宅配便事業者が予め設定している貨物自動車運送約款(やっかん)や宅配便運送約款に同意する形で利用を開始します。

 また、契約書を作成する場合でも適用される料金表と支払い方法などの最低限の取り決めのみでそれ以外は約款に準ずる条件で契約を締結する場合が多くなります。

 本記事ではこの約款の基本的な考え方について解説をしていきます。


■約款とは何か

 貨物運送約款を知るにあたりまずは『約款』を知る必要があります。
 約款というのは、不特定多数の利用者と一定の規格のサービスを反復継続的に利用する形態で使用される契約条件です。
 
 例えば、貨物自動車運送約款以外にも電車やバスへの乗車、電気やガスなどの利用にも約款は作成されておりサービス提供事業者はその内容に準じて消費者へサービス提供をしています。認識している方は少ないですが消費者は送り状を書いたり、切符を買ったりとすることで利用の申し込みを行い、利用の条件として約款の内容を承諾したとみなされています。
 
 つまり日常生活でよく遭遇するもので毎回、個別に契約を締結することに適さない画一的なサービス利用などに多く利用されます。消費者は簡便に利用が出来ますし、サービス提供事業者は多くの消費者に対して均一かつ効率的にサービスを提供できるわけです。

 近年、民法でも定型約款の条項が新たに加えられましたがこちらでも同様の趣旨で記載されることになりました。厳密には定型約款と呼べないものもありますが一般的な商取引においては利用規約と呼ばれているものも約款と同義として扱われています。

約款と契約の相違点 イメージ図

■約款にも性質が異なるものがある

 前述の通り、約款は不特定多数の利用者と一定の規格のサービスを反復継続的に利用する形態で利用されます。仮に約款に記載された条件が著しくサービスの利用者側、提供者側に有利又は不利な場合、継続してのサービス提供が困難になったり、どちらか一方に過大な不利益が生じる恐れが生じます。したがって原則、約款の中身は自由にサービス提供事業者が決定できますが公益性の高いサービス提供を行う事業の約款には一部、監督官庁から認可(許可を要するものや届出で済むものもあります)が必要な約款が存在します。今回、取り上げている貨物自動車運送約款や宅配便運送約款も国土交通大臣の認可が必要になります。
<認可が必要な約款例>
・電気供給約款
・保険約款
・倉庫寄託約款(届出)
・貨物自動車運送約款
・宅配便運送約款

■貨物自動車運送約款(宅配便運送約款)とは

それではEC事業者に関連性の高い運送約款について見ていきましょう。

 貨物自動車運送約款は運送業務の際に運送会社が設定する契約条件です。これは民法、商法、貨物運送事業法など関する法律の下で適用された運送事業者とその利用者の間の取り決めを定めた約款です。
<記載内容の一例>
・荷受けの方法
・運賃の算定方法
・配送日数
・延着や事故時の取り扱い
・高価品や禁制品の取り決め
・待機時間や附帯業務に対する対価
・補償内容     などが記載されています。

■認可約款と標準約款の違い

貨物自動車運送約款は事業者が自由(利用者方法に合理的な内容の範囲)に作成し、国土交通大臣から認可を得る場合と国土交通省が作成した標準貨物自動車運送約款を使用する場合のいずれかの方法により定め、利用者のわかりやすい場所に掲示する義務があります。
 標準約款を使用する場合は約款上、公益性を害する恐れがないことから認可は不要(認可を受けたものとみなされる)となりますが事業者が作成した約款で事業を行う場合には利用者に過度の負担を強いたり、事業者に免責の規定が多くないかなどを十分に考慮して認可申請を行う必要があります。
 大手物流会社やよほど特殊な契約、輸送形態でない限りは標準運送約款を使う企業が多いです。

■個別契約と運送約款の関係性

 個別契約が存在する場合、その契約内容は特段の規定がない限りは各運送約款に優先します。
 実情としては一定の個別具体的な条件は個別契約に定めてその他を運送約款に準ずるとしている運用例が多いように思います。

■実際に発生が予想されるトラブルとその対応方法を約款から確認しておきましょう

 運送事業者と契約する際には実際に発生を想定しなければならない事象の対応についても以下を例にあらかじめ確認しておきましょう。
 なお、約款の取決めは最低ラインの条件を定めているに過ぎませんので取引上の関係性にも鑑みて規定されている以上の条件で対応することも度々生じます。

<配送遅延時の対応>
 約款上、配送遅延が発生した場合、運送事業者は運賃相当額を上限に賠償する責任を負います。ただし、故意または重大な過失がある場合には一切の損害について賠償する責任を負います。

<高価品に該当する荷物の取り扱い>
高価品については種類、価額を通知しなければ、滅失、損傷又は延着について損害賠償の責任を負いません。

 <立証責任の所在>
 民法では損害賠償請求を行うものが基本的にその損害や相当因果関係について立証責任があります。他方、EC事業者が荷物を宅配便事業者などに引き渡した場合、その輸送経路や荷扱いについて確認することは困難であることは明白なため、約款上は運送業者に対して運送行為に瑕疵がなかったことを証明する立証責任を課しています。

■参考情報

国土交通省 標準約款格納先URL

■まとめ

 EC事業者が消費者に販売した商品を届ける上で重要な運送事業者の約款について解説しました。スムーズで信頼性の高いサービスを提供する上でラストワンマイル部分を担うサービスの約款理解は必要不可欠です。
 運送事業者との契約をする場合は個別契約プラス適用される約款の内容も必ず確認し、具体的に荷物の破損や延着時の補償、天災事変の際の取り決めなど、予め対応を検討しておきましょう。


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