【掌編】ものかきさんにちょうせんじょう

ならざきむつろさんが「ものかきさんにちょうせんじょう」を叩きつけていましたので、それに応える形で書いてみました。

企画の詳しい内容は、元ページをご覧くさださい。
https://note.mu/muturonarasaki/n/n1302d3ed591a

* * *

#2
  「じいちゃん、有った!有ったよ!」
タオルでおでこの汗を拭いていたおじいちゃんに、ぼくは、元気良く言いました。 
「お?どれどれーー」 
おじいちゃんが、ぼくの手の中をのぞきこんできます。茶色の石が、うっすらと毛が生えたおじいちゃんの頭で隠れました。
「お、菊紋だな」
「菊紋!ーーってなあに?」
首をかしげておじいちゃんを見つめるカエデと一緒に、おじいちゃんの言葉を待ちます。
「あちらの言葉ではアンモナイトだったかな」
「アンモナイト?!うそ?!やった!」
おじいちゃんの答えに、ぼくは、うれしくなってバンザイをしました。右手ににぎりしめたアンモナイトの重みで、こけそうになったけど、なんとかこけないように持ちこたえました。
「おいおい、転ぶなよ」
「うん!ぼく、お父さんに見せてくる!」
ぼくはそう言って、おじいちゃんにアンモナイトをあずけて走りだしました。お父さん、びっくりするだろうな!


隼人を見送った私は、改めて手元の石を見つめる。
石に浮かんでいるのは、何かの骨のようだった。
「さて、どうしたものか」
私は一人呟くと、首に巻いたタオルで額の汗を拭った。

* * *

#1
「じいちゃん、あった、あったよ!」
首に巻いたタオルで額の汗を拭った私に、隣で手に持った虫めがねをつまらなそうに眺めていたはずの孫の隼人が、突然元気良く声をかけてきた。「お?どれどれ――」
私が隼人の手元を覗き込むと、淡黄色の壁の表面にうっすらと渦のような模様が見える。
「お、指紋だな」
「指紋!――ってなあに?」
不思議そうに私を見つめる楓に、私は笑う。
「犯人を捕まえるための証拠のようなもの、かな」
「証拠?!うそ?!やった!」
私の答えに、隼人は虫めがねを握りしめながらバンザイした。勢いが良すぎてふらついている。
「おいおい、転ぶなよ」
「うん!僕、お父さんも呼んでくる!」
隼人がそう言って駆け去っていくのを見送った私は、改めて壁の指紋を見つめる。どうやらあの時、消し忘れたもののようだった。
「さて、どうしたものか」
私は一人呟くと、再び首に巻いていたタオルで額の汗を拭った。

(383文字)

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