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タイムトリッパー

例えば、「チンする」って言葉。もちろん意味は伝わりますよね? そうです。レンジやなんやで食べ物を温める時に使います。「レンジでチンしといて」みたいな。

でも、よくよく考えると、いまどきのレンジってチンなんて言わないじゃないですか。僕が物心ついたときに家にあったのは電子レンジでしたし、その電子レンジは「チン」の代わりに「ピー、ピー」としつこく主張していました。

とすると、これはなかなかおもしろいことですよ。もともとはレンジの後を追うようにして生まれた「チンする」って言葉が、その「チン」というレンジがなくなろうとしている今も残っているんですから。決して「ピーしといて」とは言わないのです。放送禁止用語かって話です。

僕は未だに「巻き戻し」って言っちゃうんですけど、これもそうですよね。CD、DVD、Blu-rayの時代に、何を巻くんだって話です。(この言葉はリモコンでは使われなくなってきているらしいですけど)

ことわざや慣用句なんてものは、生き残った言葉の代表格かもしれません。だってほら、例えば「サバを読む」って言葉。

サバは数が多い上に傷みやすいので早口で数えられており、実際の数と数えた数がなかなか合わなかったそうです。そこからテキトーに数を数えることを「サバを読む」と言い始めたらしいんですが、今もしそんないい加減に数えていたら、たぶん、問題になりますよね。

他にも「油を売る」って表現。これって元々は、油屋さんが仕事中にお客さんと長々話をしているとこから来てるんですよ。(もちろんそれは怠けていたわけではなくて、油って、容器から容器に移すのに結構な時間がかかったそうなんです。だから、間を持たすために、ちょうどタクシーの運転手みたいな感じで世間話をしていたそう)

今の油は……っていうか、そもそも油屋さんっているのかな。見たことないぞ……。

強いて言うならガソリンスタンドが油屋さんみたいなものになるのかもしれませんが、ご存知の通り、彼らも別に怠けることなく働いてます。いや、セルフのガソリンスタンドなんかだと、ちょっと怠けてるようにも見えますけど。

時代とともに僕らの生活も環境も変わっていくのに、変わらず残っていく言葉があるのは面白いなぁと思います。ある意味で言葉ってのは、一番身近なタイムカプセルですね。その言葉が生まれた当時の生活を、環境を、今に伝えてくれる。

それらの言葉がいつまで残るかわかりませんが、暇な時にでも、言葉に残された「むかし」を感じ取ってみたいもんです。

もし将来タイムマシンが出来たとして、過去や未来に到着した時に「チン」なんて鳴るようになって、「チンする」って言葉が「タイムトリップする」みたいな意味になったら、ちょっと面白いな。

その時代の人たちが今の時代に来たら、きっとびっくりするんだろうな。「なんでこんな時代に『チンする』って言葉が使われてるんだ!」って。

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