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食材の個性を味わう|クエ

白身魚「クエ」をご存知でしょうか。私は大人になるまで知りませんでした。この写真は自宅「クエ鍋」を取り分けて、黒薬味(京都一休堂の唐辛子や山椒他入りのやつ)の紅葉おろしをのせたもの。黒薬味なのに紅葉おろしがピンクなのは、薬味ではなくて大根の方が赤いから。群馬県産「赤城しぐれ(大根)」です。ややこしいですがアベコベになっています。

ちょっと前になりますが、不意に会社を辞めることになって、それまでのアレやコレや纏っていたものを洗い流すため、南紀白浜へ旅立ったことがあります。と言っても修験の旅ではなく、鮮度が命の「クエ鍋」目的で。それがクエとの最初の出会いでした。

その旅では、太平洋の荒波を感じられる温泉宿に宿泊したのですが、泊まりたい温泉宿とクエ鍋をセットにはできませんでした。意外と難しいです。そして、ガタガタの熊野古道にも那智の滝にも行きましたが、行くとなると工夫が必要。遠いし、電車では時間がかかります。あと、南方熊楠記念館へも行きました。それも、独特の工夫のもと実現し何とか行きました。

興味がない人にとってはどんな場所に見えるのでしょうか? 私が南方熊楠にどれほど造詣深くないかはとりあえず、少し調べたどると全てのインテリがつながってしまうのが明治という時代。私にとって南方熊楠は、その時代の偉人たちにたくさん出会った大学図書館の匂いを思い出させてくれる、懐かしい一人なのです。旅行出発直前に観たTV番組で、在野の植物学者牧野富太郎特集に触発され、すぐ近くまで行くのに! 在るのがわかっているのに! 立ち寄らないなんて! 他のすべて要望を叶えたのだからいいですよね? と、心で許しをこい、さりげなく誘って、丸投げされた旅行日程に組み込んでしまいました。記念館のある場所は、海風で木の枝が斜めって生えてしまう環境に建てられています。そこまでの急な登り坂で、旅をご一緒したマダムが「しまった騙された…」といった顔で全く興味がなさそうだったのは本当に申し訳なかったけれど、別行動も無理そうだったので1時間ほど付き合っていただきました。

さて、クエですが。

フグよりおいしいという人がいるとかいないとか。評判もいろいろです。なぜそうなるのかは「天然」と「鮮度」がキーワードかもしれません。ツアーガイド並みに調べまくっていた時、あっさりと地元の人から言われたのは「天然ものの水揚げがなければ冷凍なので、こだわらなければ東京でも食べられますよ?」ということでした。それで、タイミングを合わせて水揚げを確認してから旅行日程を組みました。脂ののったオンシーズンは真冬です。

ということで、今回は冷凍「クエ」を、おうちご飯してみました。

結論から言うと、解凍して刺身でも食べられるものを「塩焼き」にしたのが一番美味しかったです。カボスをジュッとかけました。

「刺身」は、手入れされた柳刃と包丁さばきの技術とがないとダメダメだとわかりました。クエの刺身はフグ同様に、薄く削いだ方が美味しい魚。と、説明通りに「フグのように薄く」切れるわけがありません。切り込み口から鋭利な断面にできずガタガタ。そこは瞬殺で諦めました。あとひとつ、後になって、江戸前寿司のように少しでも下処理してみたかったかもと思い至りました。もったいない。

あと、真夏日でしたが「鍋」もしました。
鮮度が命の食材ゆえ、手に入りにくい食材ゆえ、季節を選べないので仕方がありません。それでも美味しいと思えたのは、紅葉おろしも新鮮だったからだと思います。味が淡白な魚は薬味がとても重要なのでしょう。淡白でも味があります。ポン酢と万能ネギも加えると、フグ刺しに変身。ぺろっと食べてしまいました。

「赤城しぐれ(大根)」は、たまたまスーパーに新鮮な大根がこれしかなかったので、初めて手にしてみました。今の季節は鍋の材料、特に白菜とかは存在感がない状態でほっそり売られていました。この大根は、紅葉おろし向きで辛味がきいていて、ぬか漬けにしても美味しかったです!

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もう一度、南紀白浜に行くなら、今度はひとりでフラフラ行きたいと思います。自然味豊かな土地でした。

追記:2020/09/06誤「黒胡椒」→正「黒薬味」に訂正、「赤城だいこん」→「赤城しぐれ(大根)」変更


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