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残像が消えない

ライブに行った。
3万人の中に埋もれた。ミンギュは小さかった。肉眼で見えなかった。こちらを見るなんてもってのほかだった。風が吹き荒ぶ天井席はさながら修行だった。震える手で必死に双眼鏡を握りしめた。肩幅くらいしかない隙間に4時間弱いて、足が痺れた。律儀に曲に合わせて届きもしない呪文を叫んだりした。行きも帰りも電車は缶詰状態だった。

じゃあなんで行くの?って聞かれたら、よくわかんない。わたしは困る。なにも言えない。確かに、わたし何しに行ってるんだろ。

おたくにとってのアイドルって全然わからない。ライブ会場はわたしにとって自戒の場でもある。ほら、向こうからわたしなんて全然見えてないでしょ。おたくなんてゴロゴロいるでしょ。かわいいひともきれいなひともいっぱいいるでしょ。わたしなんて風が吹けば飛ぶようなモンでしょ。それを体感しに行っている。そういう意味でも修行っぽいところがある。それでも、それを思っても、それを理解してもなお、燃える気持ちがある。それこそがわたしの本当の気持ちで、わたしはそれを探しに行っているんだと思う。
代わりはいくらでもいると分かっていても、わたしの「好き」を大事にしたいと思う。こんな風にまじまじと遠さを見せつけられているのに、懲りずにまた太陽に手を伸ばしたりする。やっぱりそこで思う確かなことは、常識なんて通用しない、理屈はない、わたしにとってなにか超越的な存在であること。

ライブに行く度に反省する。ミンギュをナメてたって。ライブで見るミンギュは、尋常じゃないほど輝いている。彼の光は強烈だ。その光を忘れていた訳じゃないのに。何度も見ているはずなのに。画面で毎日見ているからって慣れた訳でもないのに。


好きな短歌がある。一昨年くらいに行った「五七五七七展」で見た短歌。

久しぶりに会うたびきみは生きていて 新鮮さに泣きそうになる

ライブに行く度、これを思い出して泣く。きみが生きているのを見て、わたしは生きていると実感する。生で見るとすごく新鮮だ。全然見えないけど、すごくよく見えるんだ。ほんとにそこにいるんだって毎回感動する。その新鮮さに涙が出る。本当にカッコよくて、また一目惚れする。同じセットリストに同じ衣装に同じ進行。違う。全然違う。そこで確かにきみが生きているの。きみが呼吸をして、笑って、照れて、考えて、言葉を紡いで、歌っているの。その時間/空気/温度/君がわたしの全てなの。
現実をまじまじと突きつけられるはずのライブ会場で、わたしは夢をみる。どうにも、この好きがずっとわからない。なんで。どうして。すごい。なにこれ。でも、この新鮮さと感動が確かにあるんだから、絶対に本当だ。全部本当だ。嘘じゃない。見せかけなんかじゃない。そこには説明しきれないなにかが必ずあるんだと、確信する。

幸せってなんだろう。
あったかいこと、"利益"を得ること、神様に選ばれること?
おたくをナメてもらっちゃ困る。おたくなわたしは幸せの感度が有り得ないくらい高い生き物だ。わたしは寒くて、"利益"がなくて、十分幸せだった。肩幅くらいしかない隙間で、わたしは自由だった。風の吹き荒ぶ天井席で、心が安らいだ。そこにミンギュがいることがたまらなく嬉しくて、体の震えなんかどうでもよかった。ミンギュへの好きが、降りかかる悪条件たちをカッ飛ばしていった。SEVENTEENFestivalミンギュさながらの、アジュナイスホームラン。

大事にしたいのは僕らの今
メントでミンギュが歌ってくれた。やっぱりわたしの中でこのドームツアーのテーマはこの一文だ。
でも、今って今だけじゃない。今のきみがいるのは過去のきみのおかげで、今を大事にするということは、あの時のきみにありがとうを言うことだと思う。遠い未来だったはずの今へ、ようこそ。時間をかけてここまで来てくれて、どうもありがとう。同じ今を過ごさせてくれて、どうもありがとう。

いい意味でも悪い意味でもすべてが直に伝わるライブ会場で、ミンギュは"あの5日間"を1ミリも見せなかった。当たり前みたいにするのが本当に上手だ。気を抜くと、うっかり騙されそうになる。いつもみたいにステージの隅々まで四方八方に走り回っていた。

「いつまでもいつまでも健康でみなさんの側で、その期待に絶対に応えたいです。」

ミンギュのカッコよさはきっとこういう所だ。つよくてやさしい人。爽快な人。いつもミンギュがわたしを「杞憂」にしてくれる。あのときのわたしが強く願ったことだった。全部杞憂にしてくれてありがとう。嬉しくて涙がいっぱい出た。 ミンギュは悪夢を杞憂に、夢を現実にしてくれる人。


布団の中で目を閉じても、太陽の残像が消えない。
どうやら焼き付けることに成功したみたいだ。

大事にするってなんだろう。
やっぱりまだわからない。
わからないから、今日もきみの中にその答えを探す。

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