💉世界が色付く頃に

こちらの流れをお借りしています。

▼お借りしました！
倉橋さん宅：レフティアさん、ロスカくん

※前半はリーリオの独白です。

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　ああ、今、こうしてバトルに興じていられることが、何よりも楽しい。
　同族は争いを嫌うモノが多いけれど、私は彼と、テオとバトルをすることが好きだ。無駄な殺生をする気はないけれど。
　それなのに攻撃技を口にする度、当たってもいないのに青ざめて、自分よりも相手の様子を伺って一憂する様は、優しすぎて、傲慢で———あまりに滑稽だ。

『……ふふ』
『何を笑ってる』

　目の前の対戦相手が不機嫌そうに問うてくる。ロスカ、と言っただろうか。そのツンとした視線に、私はまた楽しくなる。

『いいや、君を馬鹿にするつもりはない』

　くるりと彼の周りを一周して、また向かいに舞い戻る。ちらりと後ろの主を見れば、彼は何かに耐えるような、そんな表情をしていた。

『久しぶりのバトルなんだ。もっと私を楽しませておくれ』

　それは目の前の相手にも、自分の主にも向けた言葉だったことは、きっと私にしか分からないだろう。

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　レフティアの攻撃指示のタイミング、自分のパートナーに合わせた戦い方、フィールドの使い方、その全てがジムトレーナーたるにふさわしい立ち振る舞いだった。それに呼応するロスカもまた、さすがとしか言いようがない。
　テオが渾身で放った”エアスラッシュ”も水の壁のいなされる。それどころか躱したはずのそれがほんの少しかかった程度を起点に、攻撃を繰り出される。
　彼女は強い。そのパートナーも。初めて共に並ぶとは思えないほどの、圧巻のコンビネーション。
　リーリオが空に向け打ちあがった"しおみず"を旋回して避け、また上空に戻る。彼は、テオの指示を待っている。試すように。

　最初から、バトルに勝てるとは思っていなかった。目的はバトルに勝つことではなく、レフティアとバトルをする、という行為そのものだ。
　彼女のことがもっと知りたい。だから手心はいらないと言った。彼女の得意なバトルが見たい。だから得意なバトル形式で構わないと言った。
　その全てをレフティアは汲み取り、戦ってくれている。

「ロスカ、氷の上を滑って。もう一度、”しおみず”」

　は、としてフィールドを見れば、打ち続けられた”しおみず”がこのフィンブルの気温で冷え固まり、氷のフィールドと化している。陸地で動きづらそうだったロスカは文字通りその上を滑って移動し、幾分素早くなったように思う。

「”マジカルフレイム”で行く手を遮って！」

　リーリオは従順に言葉に従う。だが、フィールドいっぱいに広がった氷を溶かしきるほどの火力はない。彼の行く手を一瞬遮ることはできても、その全てを拒むことはできない。

　思考が止まる。視線を前へ向ければ、ロスカがリーリオの”マジカルフレイム”で負った焦げ跡が目に入る。それは、攻撃を放ったリーリオも同じ。
　自分が指示したのだ。また、鼓動が早くなる。
　自分が、自分のせい、で、また傷付ける。

　そうだ、それくらいなら、もう、終わりに。

「テオさま」

　彼女の声が聞こえる。
　視線を向ける。真っすぐで、全てを見透かされてしまいそうな、青い瞳が見える。
　見たこともないくらい綺麗で、透き通っていて、包み込んでくれそうなそれは、俺の一番好きな色。

「……レフ、」

　思わず名前を呼び返せば、彼女は、笑っているように見えた。
　それに酷く安心して、高鳴っていた鼓動はいつの間にか穏やかになっていった。代わりに、胸の奥でまた違う熱い感情が蘇る。
　レフと視線を合わせて、微笑む。もう平気だ、と伝えるために。それから。

　―――勝ちたい。
　君に勝って、それから、伝えたいことがあるんだ。

「……フィールドいっぱいに、”マジカルシャイン”！」

　フィールド全体に、光の矢が降り注ぐ。それらは氷に反射して、ロスカに突き刺さった。その輝きは反射したせいで目も眩むほど、まるで太陽のように眩しかった。

「後方に”フリーズドライ”！」

　レフティアの強い声が響く。”マジカルシャイン”の瞬間、ロスカの後ろに回り込んだリーリオの姿を、彼女は見逃さなかった。
　ロスカは”マジカルシャイン”に当てられながらも長い首を捻って、後方に技を放つ。それは見事リーリオに直撃し、彼は地面へと堕ちる。

「"エアスラッシュ"！」

　躊躇いなく、テオは技を言い放った。地面に激突する直前、リーリオはそれを放ち、風圧で浮いた体はバランスを整えるより先に、次の技の準備をしていた。
　それは酷く、楽しそうに。

「もう一度――――ッ」

　指示の瞬間。
　それはロスカ目掛けて勢いよく繰り出されたのだ。

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　この感情をどう形容していいのか、その言葉を、テオは持ち合わせてはいなかった。
　戦闘不能になったロスカに、大切そうに寄り添うレフティアが目に映る。その光景になぜか一歩も動けなくて、溢れ出る感情がいうことを聞かない。　
　テオの横に控えるリーリオが傷ついた体でぐいぐいと彼の体を押すことで、ようやく前へ一歩、踏み出すことが出来たのだ。

　「ありがとう、リーリオ」

　そう言うと彼は満足そうに小さく一声して、テオが翳したモンスターボールへと戻っていった。
　ゆっくりと、一歩ずつ踏み出して、レフティアと、ロスカの前に立つ。いうことを聞かない感情を抑え込んで、冷静に。

　「……バトルをしてくれて、本当にありがとう」
　「いいえ。こちらこそ、ありがとうございました」

　彼女が顔を上げて微笑んでくれる。ロスカの方を見れば不機嫌そうにそっぽを向いてしまっている。それに少しだけ苦笑しながら、続ける。

「まずは、ロスカくんの手当てをしよう。それから―――」
「……テオさま」

　ふいに彼女から伸ばされた手が頬に触れる。相変わらず手袋をしていたけれど、それは変わらず温かくて、しかし彼女は心配そうな表情をしていた。そして、頬を撫でる―――否、拭うような仕草。

「……え」

　気付いた時にはもう遅くて、溢れ出る涙を、止めることは出来なかった。人前でこんな風に泣いたことはただの一度もなくて、少し困惑する。
　それでもゆっくり、彼女が添えてくれた手に、自分の手を重ねた。もう苦しくも、悲しくも、痛くも、なかった。

「……もう、大丈夫だよ」

　そしていつかの日に君に告げた言葉を、もう一度告げた。