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【第91話②】12/22中山11R・有馬記念・中編(にゃむ師匠)
このコラムは、三部作の「中編」でございます。
前編を未読の方は、是非上記リンクから前編をご覧ください。
§5.平成最大のピンチ
前編では、今年一年のJRAで起こったことをトピックとして2つ取り上げたが、今年一年の小生の出来事を振り返る上で、どうしても一つだけ挙げておきたいことがある。
それは4月に起きたことなので、「平成最大のピンチ」と称したい。
当時も、もしこのまま穏やかに何もなく年末まで時が流れたら、必ずやこの有馬記念コラムでこのことを掲げ、自分なりのケジメというか精査をしておきたいと心に誓ったので、満を持して8か月ぶりにこのことを振り返りたいと思う。
皐月賞も終わった4月中旬。火曜日の事だった。
仕事帰りの18時30分、実家から突然の電話。声の主は、今にも泣き出しそうなオカンだった。
「おい~まさおー(仮名)。今日、◯◯警察署から電話が何度もあってさー、まさおに話を聞きたいって言ってたから、私、ケータイ番号教えちゃったわ、電話かかってくるから出て。…ってまさお、何やったのよー?」と。
オカンは、電話越しでもわかり過ぎるくらいに動揺、狼狽していた。そりゃそうだ、自分の息子に警察から何度も電話がかかってくるのだ。そりゃあ動揺するよな。年寄りにとってはかなりのダメージだぞ。
そしたらすぐケータイが光る。市外局番は地元。下の番号はいかにも警察署っぽいキレの良い番号。
「△△まさおさんですよね? ◯◯警察署の刑事一課で刑事をしている××です。」
「はい」
「今から3年前の平成28年に、あなたの前にいた職場を舞台とした事件を捜査しているのですが、あなたの名前が捜査線上に浮かび上がってきたので、直接お会いして、事情聴取をしたい。」
…3年前? 前職?? っていうか3年前は現職だし。
なんのこっちゃわからない。
「いいですけど、いま都内ですよ。小生は当面、地元には帰りません。電話ではお話できないのですか。」
「いや、事件の詳細は電話ではお話できません。ちゃんと会って話を聞かないと駄目なのです。できれば、明日か明後日にでもそちらへ行きたいのですが、お時間調整できますか」
は? 明日来るの? こっちに?
「いいですけど、仕事から帰ってくるのはだいたい20時ごろですが…」
「では、あなたの住んでいる最寄りの警察署に、お話を聞く部屋を借りる申請をします。整ったらすぐ連絡しますから、お仕事終わったらやりましょう」
・・・やっと本ボシに繋がった。もう逃がさないぞ。掴んだ尻尾は離さねぇと血気盛んさがビンビン伝わる電話。受話器の向こうで鼻息荒い。
「ただ、事件ったって、私はH28年はもう地元にいないし、全然何のことかピンとこないのですが。」
「◯◯さん! あなた3年前に自分が何をしたのかわからないんですか? 思い当たるところは何もないと言うんですか!?」
…をいをい、まるで犯人扱いかよ。犯人だという事を前提としたその威圧感全開の口調。性悪説とはじつに恐怖なものである。
「何の事件なんですか? 自分は被疑者なんですか?参考人なんですか? 具体的にお話をしてもらえないと、なんの事かさっぱりわからないんですよ!」
「被疑者とは言えません! ちゃんとお会いして、重要参考人という形でお話を伺いたいです。」
どうせアンタは重要参考人から被疑者になるんだろうけどよ!と言いたそうな口ぶり。
「わかりました。ご連絡お待ちしてます。」
その電話を切って以来、小生は終始悶々。
もー、何なんだよぉぉ?わかんねーよぉぉ。
いやもちろんなんもないさ。なんも思い当たることがないけど、こうして今すぐ田舎からわざわざ刑事が出てきて事情聴取したいって、、。相当な根拠があるから出てくるんだろうなぁ。こりゃ、小生が本ボシ扱いか、、。
何もなくても恐怖が募る。いきなり被疑者だ参考人だ。考えても考えても何も出てこなく、ハテナマークは増える一方。そんな「ハテナの応酬」が、脳内で渋滞を起こしていて、更に苦しくなる。
「…逮捕、されちゃうのかなあ自分」
もしそうなれば子供たちは「犯罪者の子」となり、就職できる職業に制限ができちゃうよ。
もし逮捕されたら、目の前の10連休はパーだなという小さな事から、被害届の取り下げを目指した示談交渉か? 弁護士費用きっとたっかいなー、、、とあれこれイメージ。しかし、どれもワクワクするものはなかった。
仕事はクビ、
収入は激減、
周囲の白い目、ヒソヒソ話。
家族の泣き叫び、
オカンは寝込んで鬱病に
ローン延滞、家は競売へ、
そして、自己破産、、
破綻、人生アウト!
人生最悪のケースが目まぐるしく脳内を駆け巡った。平成最後の最後にやってきた平成最大のピンチ。いんや「人生最大のピンチ」。
この電話から向こう2日間、こんな問答がずっと続き、飯が全くノドを通らない。深い眠りに就けずに寝てもすぐ起きるし、スマホでエロ動画も見る気も起きずと、いわゆる「人間の三大欲求」はすべて機能停止。是、まさに「生きる屍」。そんなバイオリズムだ、翌日の仕事に集中できるワケがなかった。
そして、決戦の木曜日。
小生はいくらでも早く真相を知りたく、仕事を半休にして、都内の警察署で13時30分から取り調べを行う事に合意。12時半に仕事を終え、警察署着は12時50分。「さすがにはえーかな?」と思ったが、なんと!もう先方は到着済。向こうの臨戦態勢は整っていた。どんだけ気合入ってんのさ?
そこでは、電話してきた男の刑事ではなく、別の警察官(女性、35歳前後)が応対。一瞬「なんだ、女か。」と安堵も、それはフェイント。エレベーターで3階の取調室に連行され、すると、そこにいたのはズラリと並んだオッサン連中が眼をキラリ。
一人一人自己紹介。
・目がギョロっとした血の気の多そうな若手刑事
・人生に少し疲れてそうなおっとりベテラン刑事
・鑑識のハゲたオッサン
そして、さっきの女性警察官。
と、オールスターズで田舎から出てきた模様。もうあとは逮捕するだけ!と気合満点。おー、これ新幹線代だけで往復軽く10万円は超える経費捻出。国民の税金かけて来るんだから、こりゃ相当な自信と確証をもって上京してきたんだなぁ。複勝1.1倍の馬券獲りに、10万持って田舎から府中に乗り込んだ予想チーム。その執念、並々ならなかった。
なのに、自分がここまできて、まだ何をしたのか解らないという事態に、ますます顔面が蒼くなる小生。
取調室。窓のない部屋。いつかみた刑事ドラマのそれよりもはるかに小汚く狭い、2畳くらいしかない密室。これはもう普通の精神では戦えないや。心理的圧迫感がハンパない。
取り調べ開始前、小生は凶器とか録音機材を隠し持っていないか全身ボディーチェック。そんなん持ってませんってば! 鑑識のオッサンにはズボンの上からだが、チンコを後ろから前から畑中葉子で触られる始末。
一瞬、「やべ、これボッキしたら負けだ」と危機感。ここでボッキしようものなら、メンズファッカーとして一生十字架を背負っていかなければいけない。もう目をつむったら終わりだ。
こういったいわゆる「ボッキピンチ」の時、小生は中学生時代から30年間いつも、大洋ホエールズの「ポンセ」の応援歌を頭で歌う。
バモスポ~ンセ! バモスポ~ンセ! 打て場外へ!
バモスポ~ンセ! バモスポ~ンセ! 打て場外へ!
そうすると、アタマは野球モードになり、エロいことはどっかに行き、ポッキは無事回避すのだ。小生は目を見開き、目の前のハゲ頭をガン見し、バモスポ~ンセ!と連呼。どうにかこうにか絶命のピンチを回避。
ボッキは回避したが、一通り触られた後、
という、IPPONグランプリでの小木の回答がフラッシュバック。いや、お金も払ってないんだけどさ。意味はわからないが何故か出てきた。きっと本能で「緊張を解きたい」という欲求が脳内に運ばれ、信号として出てきたんだろう。これぞ、ピンチならではなんだな。
ケータイとサイフは机の上にある所定の透明ケースに入れられ密封。これで外部との接触は遮断。完全密室、完全アウェーで取り調べ開始。
「えっ? 任意取り調べって、途中抜け出して電話したっていいヤツなんじゃないの?」なんてどっかで得た知識を晒すヒマとなく、間髪入れずにスタート。
こういう部屋、こういうペース。非日常感は満載。存分に心理的圧迫を与えて、自白へと導くのだろうか。こうしてこのお部屋で「完落ち」した被疑者たちが、過去に何万人といたのだろうなぁ。
基本的に取り調べは1対1。向こうが複数で行うことはない。これは徹底していた。多分、2対1はフェアではなく、署内ルールで厳禁。そういう取り調べマニュアルがあるのだろう。
先発は、若手の刑事。
「まず、3年前に起きたあなたの前職場を舞台にした事件で、思い当たる事がないか、◯◯さんから発言してください。」
向こうから事件の詳細は述べず、少しずつヒントを小出しにして、被疑者から言わせる作戦。一方通行トークや黙秘を避けるためか。しかし、小生はそのH28年に地元で起きた事件について何も知らない。というか、地元にいないし、小生はこの後に及んでも全く何のことだか解らなかった。
「この事件は、あなたがよく知っているであろう方から、被害届が提出された事件なんです。」
その罪状は・・・名誉棄損罪です!
は? め、名誉棄損罪??
ちょっと予想外だった。窃盗とか、横領とか、いかにも犯罪!というものではなく、あまり犯罪の匂いがしない、競馬新聞で云うところの「△」といったところ。つまり、犯人が誰かの名誉を棄損して、被害者が被害届を出したということか? いじめの延長みたいな感じか?
いったい誰が? 誰を? どんなふうに??
ますます解らない。
「あなたが前の職場で一緒に仕事したことのある方から、被害届が出されたんです。まさおさん、職場の誰かに対して、今まで、度を越えた笑い者にしたり、誹謗中傷や嫌な気分にさせたことはありませんか?」
「いや、ないですよ。」
「では、逆に人から嫌な思いを受けたことは?」
「それはありますよ。上司にはよく怒られたり怒鳴られたりして、ストレスを感じたこともありました。しかし、それはあくまで上司の指導の範疇だと思っていましたし、たとえストレスを受けたとしても、それで逆にその上司に対して、誹謗中傷することはありませんでしたよ。」
「それが、あったのですよ。誰か心当たりのある方、いませんか。」
…まだ聞くのかよ。被害者が誰かを言ってくれないともう前に進まない。
「誰なのですか?」
「まさおさん。私はあなたから聞きたいのです。」
…なんで警察はこうして「言わせる」のだろう? むしろ小生はそちらの「警察の姿勢」に興味が出てきた。言わせることで、何が生まれるのだろう? 自分が言えば、たとえクロでも刑が軽くなるワケでもないだろうに。あ、違う人を言わせておこぼれ逮捕とか、次の参考人が拡がるのを狙っているのだろうか?? とにかく、YESかNOだけで答えられないようにしているんだろうなぁと分析。
でも、もう限界だ。小生はカマをかけた。
「それは、年上ですか? 年下ですか?」
「なんでそうやって聞くのですか?」
「だって、いくら考えても解らないですもの」
「では、それを答えたらだれか出てくるというのですか??」
…なかなかこちらの質問に乗ってこない。ダメか。
「本当に解らないのですか?」
「解らないです!」
「思い当たる人、いるでしょ!?」
「いませんってば!」
小さい机に向かい合って座る男二人。お互い目を離さないでにらみ合っている。そして、この手の譲れない小競り合いが続く度に、二人の顔がだんだん近づいてくる。
「まさおさんがよく知る人ですよ!」
「知りませんから!」
また、にらみ合った二人の顔が近づく。これが上島竜兵なら5秒後にキスだぞ。どうなんだ!?やんのか!?
…刑事の方から、顔を引いた。さすがに同じことを考えたらしい。勝った。まだ若いな、粘りがたんねーよ。
シビれを切らした若手刑事。ついに一歩踏み込んだ。
「Kさん、解りますよね。」
K…。小生が元職場で知り得るKさんと言われる人は、一人しかいない。小生より13歳若い、いまだったら30ちょっと超えたくらいの彼かな?
刑事はジッし小生の顔を眺めていた。「ギクッ!」って奴を期待していたのだろう。しかし小生は無反応。さらに「?」の顔。きっと予想外だったに違いない。
「K君って、僕より若い30歳くらいの青年ですよね。その人しか知りません。下の名前までは憶えてないのですが。」
「そうです。そのKさんですよね。」
…小生が、K君に対して何か誹謗中傷して、彼が、被害届を提出した…か。
うん。あり得ない。これは小生ではない。俺はシロだ。もう大丈夫だ。
この瞬間、小生は「勝利」を確信。
同時に、田舎の県警は大ハズレ・複勝1.1倍ドボンが確定した。
ふ~~どうなるかと思ってよ。逮捕されて破綻は絶対にない。人生最大のピンチはとりあえず回避できた。あっぶね~~~。
K君とは、小生が平成23年に1年間一緒の店に勤務した後輩。だが、課は別々であり、直属の上司ではなかった。彼は入社2年目であり、内勤から外回りに異動したあたりか。この年は震災もあって、一緒に乗り切ったゆえ、普通の同僚より、思い入れが強いメンバー。個人的には、小生は彼から原付を譲り受けたこともある。彼が都内の大学生の時に乗っていたものを、田舎まで持ってきたが、社会人になって車を買ったので、要らなくなり、小生が譲り受けたんだなぁ…と、懐かしさに浸ったが、そんなK君が被害届!? 割とおっとりした性格でイジられタイプだから、あれこれ言われたのかもしれないけど、被害届を出すまでのものとは…何があったんだ??
「K君が、被害届を出したんですよね。何があったんですか?」
小生からすれば、心から彼を心配してそう聞いたのに、刑事からすれば、すっとぼけたように聴こえたようで、かなりイラッとした模様。
「事の発端は、H26年の事です。彼が勤めた店に、まず、犯人からKさんを名指しで誹謗中傷する電話があったのです。それが何度も何度も続き、H27年も電話が続いたのです。ただ、それだけでは警察は動けなく、H28年に、彼の勤める店にの敷地内に侵入し、彼を攻撃する投書が投げ込まれたことから、被害届が出ました。だから、私たちはこのH28年のこの事について事件として捜査し、現在に至ります。」と事件の経緯をようやく説明。取り調べから軽く1時間は経過していた。
「小生は、彼に対して良い印象しかありませんよ。かわいい後輩でした。」と言うと、すぐざま「あなたが彼に対してどんな印象を持っていようが、それは捜査に関係しませんから! 向こうが知らず知らずのうちに、あなたの言った事、やった事に対して嫌な気持ちになることだってあるのですよ。」と応酬。
なんだよこの「ああいえば上祐」状態…。まるで小生の発言が肯定されない。
それでも、あまりに小生が飄々とし始めたので、若手刑事の顔が紅潮してきて、オコモードになっているのが解る。2畳ちょっとの狭い部屋なんだから、あんま怒るなよ。湿気がムンムンしてくる。
「では、まさおさんはKさんに対して、誹謗中傷したとか、憎悪とか、そういったものはないんですか?」
「ないです」
「Kさんは被害届を出してるんですよ。無いと言い切れるんですか?」
…何その聞き方?これは何のトラップだ? なんか、無いと言い切ってしまうと、100%を認めることで、なんか向こうの仕掛けにハマってしまうような、違和感がある言い方だなこれ。しかもかなり熱くなっていてウザい。
「無い…と、思います。」
「思いますってどういうことですか!? では、もっと記憶を掘り返せば何かが出てくるということですよね? それは何ですか!?」
うわっ、もっと怒らせちゃった…。言い切った方が正解だったか?
「こっちは地元からわざわざ時間とお金とエネルギーをかけて来ているということは、それなりの「確度」をもって来ているんですよ! 遊びじゃないんですよ。それを、「思います」っていうのはどういうことですか?」
っていうか、それってただの「揚げ足取り」じゃないか? 事件の本質に辿り着いていないよ。さすがに小生もカチンと来たので、
「いやさぁ、こんな密室に入れられて、それだけ強い口調で威圧的な物言いで、これだけで心理的逼迫感は十分なんですよ! そんな状況で、たとえ何も思い当たることがなくても、気の弱い人であれば、ないと「思います」って、本能で出ちゃうと思いません? だったら訂正しますよ! ないです! K君に対しては、憎悪の感情もなければ、それを行動に起こしたことも、ないですっ!」
「無いんですか!?」
「無いです!」
「無いと言い切れるんですか!?」
「言い切れます。無いです!」
二人の距離…Majiでキスする5秒前…。
また顔を離した刑事。おもむろに、
「では、H28年5月8日の夜8時頃、まさおさんは何をしていたか証明できますか」
は? そんな3年前の特定の日に何してたか即答できる奴なんて、相当なナルシストの自分オタクだろ?
でも待てよ?
そのあたりはGW明けではないか? 大抵のカレンダーでは5月8日といえば、GW明けで仕事がドン詰まりになっている頃。GWに地元に帰った年かどうかは不明だが、8日が平日であれば、確実に東京に帰って仕事をしているぞ。
「その日は、何曜日ですか?」
「何曜日と答えたら、何か記憶が出てくるのですか?」
…って何言ってんだテメー! その分厚いファイルを開いたら、曜日ぐらいついているじゃないか?なんで意地悪して教えねぇのさ?
「いや、もしその日が平日であれば、東京で確実に仕事してますから」
「おたくの会社は、タイムカードで就業時間を管理していますか?」
「してます。PCのシステムに出社時刻と退社時刻を入力します。」
「でもそれって、自分で好きな時間を入力できますよね。それではあなたが東京で仕事をしていたことは立証できないですよ。」
イラッ…
「私が時間を入力して終わりではなく、上司が承認して勤務が成立するので、一人の管理ではできませんから!」
「では、今からあなたの会社に捜査令状を出して、H28年5月8日の勤怠状況を確認します。電話をかけて良いですか。」
「はい。確認してください」
…っていうか、最初っから会社に問い合わせるなら、さっきのやり取り、べつにいらなくね? クソがっ
若手刑事はいったん退出し、照会を依頼。
あ~あ。ついに会社に電話が…。午後休を取った時は、上司には理由を隠して、何にも言わずに出てきたのに、警察署にいて事情聴取なんて聞いたら、ただでさえ信頼度の低い小生、もう一気に「マユツバ」扱いだよ…。
会社から回答が出た。
事件発生日の5月8日は日曜日の為、勤務実績が確認できないとの事。
をいをい、最初っから日曜日って教えてもらえたら、会社に電話して確認してくださいって言わねーよっ! お前たちハメたなコノヤロー!
そしたら刑事「いや、あなたの勤める会社が日曜日が休みだとは知りませんから。確認させていただきました」だとよ。あー腹立つ。
「これで犯行当日。まさおさんが勤務をしていないことが解りました。では、その日、地元にいなかったと証明はできますか?」
無ぇよ。その勤務実績が頼みの綱だったし、…って、何だこの敗北感は?何もやってないのに、何でこんなに焦んなきゃなんないのさ?
まてよ。
5月8日の日曜日はいわゆるゴールデンウィーク最終日。
次の9日・月曜日は朝から東京で仕事をしていたハズ。この頃はかなりの確率で夜行バスを使っているな・・。ということは楽天トラベルで5月7日土曜日の夜行バスのチケット予約票があるかもしれない!
「ちょっと携帯借りていいですか。抗弁ができるかもしれません。」
刑事がボックスから小生のケータイを取り出す。受け取って、検索。
・・あったぞ!
「ごらんの通り、僕は5月7日の夜行バスで地元を出発し、翌8日の朝、東京に到着しています。何でしたらバス会社に連絡して、当時の乗車履歴を確認してください。そして、その日は居所である〇〇市で一日を過ごし、翌9日の月曜日はその〇〇市から普段通りに都内に出社して仕事をしています。これも会社に出勤履歴を確認していただいてもかまいません。そんな僕が、犯行のあった8日の日曜日の夜に、地元にいることはありえないでしょう!?
まあ、屁理屈を言えば、いったん8日の朝に東京に着き、日中新幹線で地元に戻って、夜に犯行を行うことも可能かもしれません。でも、そこから9日の月曜日に定時に東京で仕事をするためには、新幹線では間に合わなく、地元を22時発の夜行バスに乗って、東京に朝着いてそのまま都内の会社に行くこともできます。
しかし、僕は5月9日の朝、居所の〇〇市からこの定期券を使って東京都内に通勤をしているんですよ! これもPASMOの乗車履歴を確認してもらってもかまいません。つまり、8日の夜に犯行を行えば、9日の朝6時半に居所の〇〇駅の改札を通ることはどうやっても不可能! ゆえに、この状況から、僕が5月8日の夜に地元で犯行を行うことは不可能なのです!」
ハア・・・ハア・・・言い切ったぞ。
これで屁理屈刑事の息の根を止めたか?
黙る刑事。顔は紅潮。長い沈黙。
しかし刑事は応酬。「ただねえ、こちらも証拠があるんですよ!私らも、確固たる証拠があってわざわざ東京まで出てきているのですからね。今なら全部言いたいことは言えますから、まだ間に合いますよ。本当にやってないと言い切れるのですか?」
証拠?確証!なんだそれ?小生の指紋でもついた封筒でも持っているのか?ないからそんなの。とっとと出せや!
しかし、その証拠が何なのか明らかにすることはせず、捨て台詞だけで退出。そうやってお預けを喰らわすことで俺たちにイニシアチブがあることを誇張している感がアリアリ。
10分くらいの放置プレイの後、いきなり鑑識の50代オッサンが登場し、有無を言わせず小生の指紋を採取。両手10本の指の指紋だけでなく、指の腹、手のひら、手の甲手の、手という手はオールゾーンすべて採取。枚数も数十枚にもおよび、両手は墨で真っ黒に。これだけで20分以上かかった。
それが終わると、鑑識はウェットティッシュをおいて退出。
おいっ!ぜんっぜん取れねえよこの墨!意味ねえぞこのウェットティッシュよ!もっといいやつ用意しろよ!
両手が真っ黒でどうしようもないまま、次に入ってきたのが、柔和なべテラン刑事。しかし、先程の若手と違って事件に関する尋問はせず、小生がなぜ東京に出てきたかとか、身の上話に徹する。時に刑事の娘の話とかどうでもいい話が続き、おそらく隣で鑑識が「動かぬ証拠」といわれる指紋との照合タイムをしているその時間稼ぎなのだろう。
ちょっと・・・トイレ行きたくなったな。
小生はべテラン刑事にリクエストすると、「ああ、いいですよ。おーい!トイレだって。」
小生は取調室を出ると、廊下に控えていた若手刑事に連れられてトイレ。トイレでもしっかり小生は刑事に見張られて用足し。ポケットからナイフとかを取り出さないかを警戒して、ガン見。をいをい、人がティンポを出しているところそんなガン見すんなって。40余年生きてきたけれど、こうして放尿の一部始終を監視されるという経験もないけど、あまりいいものではないなあ。ということは、小生はそういう変態プレイの店に行っても、あんまり燃えることはないんだなあ。と、 自分のノーマルさを再確認し、ションべン最後の一絞りの瞬間には、その刑事の方向に 3 センチ尻を向けて、
「ブッ!」
と渾身の放屁を一発。
今の小生にできる最大限の抵抗を完遂し、若干のドヤ顔でトイレから退出した。
トイレから戻ると、取調室でまたべテラン刑事と談話。
どこで足がつくかわからないので競馬の話は一切せず、「たまにパチンコをやるけど、まあ、出ないですよねぇあのホール、魚群もしよっちゅうハズすんですよお。」とテキトーな事を。無駄に風評被害のタネを作ってしまった。ま、いいか、昔かなりそのホールに献上したことだし・・・。
と、終始温和な雰囲気であり、先程までの汗臭いガチバトルと同じ部屋とは思えない雰囲気の変わりつっぷりだった。
べテラン刑事が外から呼ばれて、退出。また10分くらい放置プレイ。
最後に、姉ちゃん警官が登場し、
「はい。これで任意聴取は終了します。職場にも、今日のことは改めてご連絡しますので特段の連絡は不要です。長い間お疲れさまでした。」
・・・って、ずいぶんアッサリしたエンディングだな。で、小生はどうなの? 結論は??
あなたシロでした!
すみませんでした! ごめんなさいっ!
私たちの複勝1. 1倍は見事にドボンしましたっ!
という、小生が一番聞きたいセリフは一言もなく、「また何かありましたらこちらから連絡します。」とだけ。おそらくもう二度と連絡はないだろうと直感したが、8か月が経過した今も県警からの連絡はなし。
取調室には時計はなく、時刻の確認はできない状況だ。たが、部屋を出るともうタ方6時! 1時前から始まったこの修羅場。5時間以上にわたる大バトルだった。
最寄り駅の帰り道、実家に電話し、自分は何も身に憶えのないことの取り調ーてであり、無罪であることを告げると、母親は電話ロで「良かったぁ!」と泣いていた。
そりゃそうだよな。 自分の息子がトラブルで地元の有名会社を辞め、40過ぎて東京に出稼ぎに家を出て、そしたら犯罪者になってくるなんて結末。想像を絶するよ。そりゃ嘘であってほしいよ。
次の日、会社に出勤すると、自分がシロであることは伝えられていたようで、役員たちは「大変だったねぇ」と器大きく出迎えてくれたが、直属の上司だけは普段の小生の仕事ぶりに不満がたまっていたらしく、とても眉唾な目をしながら「今度は何やらかしたんだよぉぉ ! ?」とニヤけながら朝の一発パンチ。
その後、人事部長お詫びの報告に行くと、
「あなたが何もしていないことは警察から連絡がありました。なんか、あなたに体系がそっ くりな犯人が、犯行当日の夜、営業所の入り口に画鋲をバラまいたのが防犯カメラに写っていたようで、それがあなたと勘違いされたようですね。」
は! ? ガビョウ! ?
いい年こいたオッサンが、かわいい後輩に嫌がらせするために、店の入り口に画鋲って・・・。なんだその昭和の低レベルな手口・・・。やるにしてももっと違う方法がいくらでもあるのに、そんな高校生のイタズラでもやらない犯行・・・普通の大人でもやんないってば!
当事者としては笑えなかったが、もしこれが第三者として聞いた話ならもう大爆笑。よりによって選んだ犯行手段が画鋲ですよ? 嫌がらせの電話や手紙にも応じないから、次に選んだ手段が画鋲って・・・これ真犯人は相当に知能が低いぞこれ。
その日の昼休み、真相を解明すべく、小生は地元で働いていたころに一番仲の良かったオバチャン職員にラインした。
「ところで、今のそっちの人事部長って誰ですか・・・」
「ええっと、Tさんだよ」
・・やっぱ、そうか。
すべて、一本につながった。
これで、今回の事件で、小生が重要参考人に祀り上げられるまでの経緯が全て解った。
平成28年に被害届が出されたこの事件も4年目。未解決のまま暗礁に乗り上げ、焦っていたのだろう。そこで困った〇〇県警が、もう一度前職の本部に問い合わせ。当然そこで窓口となるのは人事部長であって、それが「T」。
その「T」とは、平成23年3月、小生がペーペー社員から課長へと昇格し、営業所も異動となった時にそこにいた営業所長。ゆえに小生が管理職になって初めてのボスだった。
管理職としていろいろ教えを乞いたかったが、Tは最初からなぜか小生を冷遇・拒絶。優しい紐解きもなければ上司・部下としてのコミュニケーション円滑にするフリートークなどなく、試しにこっちからフレンドリーに話しかけても「フンッ!お前が気軽にそんな話すんなよ!」と言いたいばりの冷淡さで拒絶。常に当たりは強く、パワハラー歩手前の毎日の対応であり、決して「上司として厳しく向き合っている」というレベルではなかった。
まあ確かに、あの時の小生も、30代前半の男によくある「オレ様無敵感による勢いとノリ」だけで営業成績ナンバーワンを何度も獲り、研鑽を積むということを怠っていたし、奢りが態度に表れていたのかもしれない。ゆえに、その伸びた鼻を根っこからへし折ってやる!とTは思っていたのかもしれない。
にしても、「なんでこんなに嫌われるのだろう?」と毎日疑問だった日々。着任したのが平成23年3月9日であり、その2日後には東日本大震災で管轄エリアの半分が津波に呑まれるという甚大な被害を受け、営業所チームが事後対応を一枚岩になって動かなければならない状況だ。たが、課長として経験不足だった小生をそれでもTは拒絶し続け、経験・能力がないと解ると、すべてTが自分で対応し、小生はただ指咥えてみているだけだった地獄の日々。
こんなに反りが合わない人はかつていなかったし、こんなに人に露骨に嫌われたことはなかったし、小生も最初は嫌いになるつもりはなかったが、これだけ毎日冷遇を受け、しだいにTが憎くなっていた。なかなか人を嫌いになることはない小生だが、唯一「大嫌い」と言えるのがTであり、プライベートにもいちいち突っ込み、競馬は絶対するなとか、車は売ってしまえ、スマホは解約しろと、次々に土足で踏みにじってきた。
退職するキッカケとなった一連のトラブル対処の際、尋問のため自宅に訪問した際も、小生の嫁や母親に向かって冷淡かつ高圧的な態度で終始振る舞い、家族の印象も最悪。結局、すべての引き金を引いたのがTであり、小生の人生を180度変えたのもTであった。
そのTが偉くなって、人事部長になっていたのかぁ。
警察も捜査が行き詰まり、「ほかに怪しいと見られる人はいませんかね?考えられる人を誰でもいいから挙げてくださいよ!」と嘆願されると、Tもどれどれと捜査に協力すべく、被害届を出した原告青年「K」に関連のある人物を一通り洗い「あ、あいつかも。」と浮上したのだろう。
既に退職していた小生にロックオンし、画鋲をバラまいたという犯行現場のビテオを見た上で、「あーなんかアイツと体形が似てますねえ。彼なんじゃないですか? 現職時代の行動も怪しかったし・・・」とでも言ったのだろう。
それを真に受けた〇〇県警も、
「やっと掴んだぞっ! 苦節3年、ドン詰まりの事件がついに解決できる! 県警の汚名返上だっ! リーチ! !」と魚群が走り、自信タップリに、「こっちはもう証拠も掴んでいるのだから!」とこうして鼻息荒く小生に向かってきて、 10万円以上の税金をかけて東京まで乗り込んできたのだろう。
つまり小生は、Tに「売られた」のだ。
そうでなければ、3年経って急にこんな展開にはならないでしょう?
退職して5年。その時もTは大嫌いだったけど、こういう形で再び憎きTに苦しめられようとは…
平成23年。課長として新しい業務に苦しみながらも、営業所で新人2年目かつ外回り1年目のKのことを可愛がっていたことも、時に庇ったりしたことも、Tは所属長としてなんにも見てなかったから、こうやって簡単に容疑者としてやり玉に挙げられるんだなあ。一流の所属長としてちゃんとアンテナ張っていれば、「いや、彼がK君に対してそんな嫌がらせをするワケがない」とブレーキをかけてくれたはず。
それが、オールスルーでやすやすと、「あー、アイツだったらヤリかねませんね。」と警察にお墨付きを与えちゃったもんだから、〇〇県警はこうしてウソ魚群に踊らされちゃったワケだ。
そういうことか…。
全ての経緯が解り、小生はTに対しての怒りと怨念が増幅。
ほんと迷惑な話だし、悲しくもなった。最初に県警から電話があってから、3日で体重が4キロも落ちた。家族はみんな泣いていた。
もう怒りはおさまらない!
この怒りをどこにぶつけようか?そう。馬券しかない。
直後の日曜、フローラS
どりゃ!
次週 春天!
◎パフォーマプロミス! ○グローリーヴェイズ!
NHKマイル! ◎アドマイヤマーズ!
ヴィクトリアマイル! ◎クロコスミア!
オークス! ◎カレンブーケドール!!!
ご覧の通り、怒りにむせた春のG1は、親のカタキのようにホームランを連発。人間、ほんとうに怒った時の解き放たれるエネルギーというのは物凄く、自分が自分でないくらい。これらの的中連発の源は間違いなくやり場のないTへの怒りと恨み。それ以外になかった。
あれから8か月。波乱の2019年がいま、終わろうとしている。
変わらず怒りはこころの奥底にあり、いまこの文章を書きあげていると怒りがまた再燃。きょうの食事もノドを通らなくなっている。
事件はどうなったのかは解らない。
真犯人が逮捕されたのか?それとも今もなお迷宮状態なのか不明。〇〇県警からも「あの時はすみませんでした!」という詫びもない。あんだけ人をピンチに追い込んでおいて、シロだと解ったらはいヤリ逃げ・なかったふりかよ?。きっとプライドがあるからそうなんでしょうな。
もちろん、現状どうなったかは気になっているが、いちいち県警に確認するのもアレだし、Tに電話してクレームつけるのも筋違い。
ではなぜ、いまこの有馬記念を前にしてこうしてわざわざ赤裸々に綴るのか?
それは、こうして振り返ることで、ケジメとして書くことで沈静化していた怒りと怨念を呼び戻し、MAXにして、これらをすべて有馬記念にぶつけて、忌まわしい2019年をすべて忘れる! これ以外にない!
そういう意味でも、今年の有馬記念は小生にとって特別な意味を持つのである。ぶり返すこのやり場のない怒りを持って、このグランプリを迎えたいと思料するのだっ!
中編 おわり。
長いセクションでしたが、一気に駆け抜けました13362文字!(爆)
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今度こそ!
後編も、どうかご高覧いただきますよう、よろしくお願いいたします。
にゃむ
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