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よんのばいすう5-20 2021.5.20

月のない夜に

まだお元気だったなら、あとひと月余りで日本でいう還暦をお迎えになるはずだったウェールズ公妃ダイアナ。36歳という若さで交通事故によりパリで命を落とされてから、今年で24年になります。私よりも1つ年下だったダイアナ妃がパリで客死されたというニュースには、少なからずショックを受けたことを今も覚えています。その前年にフランスの地で亡くなった私の親友も享年36歳でした。それまではあまりに遠い存在のダイアナさんの人生が、急に生々しく私に迫ってきたような気がしました。

今年5月20日、そのダイアナ妃に関して、一つの発表が世界を駆け巡りました。英国のTV局BBCが、1995年に放送したダイアナ妃への単独インタビューで、記者が不正を行ったことを認め、謝罪したのです。このインタビューで彼女が不幸な結婚生活を赤裸々に語ったため、チャールズ皇太子との関係破綻を決定的なものにし、その後の泥沼離婚劇につながっていったといわれていました。

この顛末については、NHKが20日、21日と放映した『BS世界のドキュメンタリー ダイアナ妃の逆襲 正規のインタビュー舞台裏』の前後編で詳細が語られています。制作したのはイギリスのMinnow Filmsとなっていました。偶然にしてはタイミングがよすぎる放映なので、そもそも『世界のドキュメンタリー』自体、BBC制作の番組もありますし、NHKとしては調査委員会の報告をまもなく発表するとわかっていたのかもしれません。私はたまたま前編の告知を見て録画しており、21日の後編も10分ほど見損ねたもののすぐに録画をして両方を観ることができました。どうやら5月31日の15時から前編の再放送があるようなので、その翌日には後編も再放送されるのではないかと推測されます。ご興味のある方はぜひご覧ください。別にNHKの回し者ではございませんが(笑) 

このたび、少しダイアナ妃のことを調べてみたのですが、彼女の一生は常に孤独との闘いだったようです。イギリスの名門貴族、スペンサー家に生まれ、3人姉妹の末っ子として何不自由なく育っていたかと思いきや、7歳の時には両親が離婚。歳の離れていた姉たちより3歳下のチャールズとの関係の方が近かったようです。その弟と同じ名前のチャールズ皇太子に恋をして、幸せを求めたのも無理はなかったのかもしれません。チャールズ皇太子はかつてダイアナの長姉のセーラと交際したことがあり、その時にまだ少女だったダイアナにも会っているそうです。しかし、セーラとの交際は実を結ばず、その他にも数々の浮名を流していました。しかも、本当は人妻のカミラを愛していた。その関係が結婚直前、ダイアナの知るところとなり、彼女は過食症に苦しめられます。前述の『ダイアナの逆襲~』によると、ダイアナは何と結婚式前夜にチャールズから「愛していない」と言われたのだとか。チャールズにとっては、妻をめとり世継ぎを残すという国民からの期待を背負わされ、生きていました。だから、若くて従順な女の子なら誰でもよかったのでしょう。ダイアナなら家柄も申し分ありません。そのために自分が選ばれたのか。夢に見た結婚の裏側を見せられたダイアナの絶望感たるや、いかばかりかと思います。しかも当時、彼女はまだ20歳になるやならんやという頃です。世界で一番幸せだと思われていた花嫁は、実は世界で一番不幸のどん底にたたきつけられていたのです。どれほど苦しかったことでしょう。しかも、世紀の結婚式が執り行われたセント・ポール寺院のヴァージンロードで父の手に引かれて歩いていたダイアナは、参列者の間にカミラを見つけてしまうのです。ところが、それが結果的に「チャールズの妻は私だ!」と逆境をはねのける決心につながります。皮肉なことに、彼女は自分がチャールズよりも人気があることを知ってしまいます。そして夫との信頼関係を結べないまま、未来の王となるウィリアム王子の母、ハリー王子の母となっていくのです。まさに、「母は強し」。

幼い頃から「愛されたい」と願い続けたダイアナは、自分の知名度を恵まれない人のために利用しようとチャリティー活動にのめり込みました。彼女は堅苦しい王室の生活に辟易し、自分を必要とされる場所を求めていたのですね。本当は誰よりも夫の愛が欲しかったはず。ところが、チャールズ皇太子も、母の愛を知りませんでした。幼少時から感情を押し殺して生きていたのです。だからこそ、無条件に愛してくれるカミラ夫人の包容力から離れることはできなかったのでしょう。なんだかもう、下々の者には計り知れない世界ですが、そういうことはやはり連鎖するのでしょうか。長男として大切に育てられたウィリアム王子が幸せな結婚生活を営んでいるように見えるのとは対照的に、ハリー王子は王室離脱や何となく自己愛が強くてややこしいメーガン問題となかなかうまくいきません。ボタンの掛け違ったチャールズとダイアナの結婚生活の歪だと思うと、切ない気持ちになります。離婚前後から巻き起こったダイアナ自身の不倫問題、その果ての交通事故死は、起こるべくして起こったことなのでしょうか。インタビュー番組の不正問題とともに、彼女の死も謎に満ちたままです。

チャールズ皇太子は、結局はカミラと再婚しますが、母であるエリザベス女王のご長寿と国民的人気の呪縛にはまったまま、いまだ王様になる予定はありません。ダイアナ人気はウィリアム王子一家が全部持っていった感じですね。まったく事実は小説より奇なりです。それとも今もダイアナ妃の逆襲が続いているのでしょうか。ともあれ、王室離脱後のハリー王子にはどうか幸せに暮らしていただきたいものです。

5月はバラの季節。バラにはたくさんの品種があり、個性的な姿に合わせ、個性的な名前が与えられています。ダイアナ妃を偲んで名づけられたのが写真の「ダイアナ プリンセス オブ ウェールズ」という品種。クリーム色にピンクの縁のグラデーションが上品で美しいバラですね。彼女の生前のチャリティー精神に敬意を表し、今も売上げの一部は慈善事業に寄付されているそうです。ダイアナファンでバラを植えてみたい方、いかがですか。ただし、現在の品種は「エレガント レディ」という名前に変わっているようですが。

ちなみに「ダイアナ」という名前はローマ神話で月の女神。ギリシャ神話ではアルテミスと呼ばれます。狩猟と貞操の神でしたが、純潔を守ってきたダイアナは一度だけ、オリオンと恋に落ちます。しかし、双子の弟、太陽神アポロンは、姉の貞操を奪おうとする男に怒り、サソリに襲わせたため、オリオンはオリオン座となったそうな。ダイアナには弟がついて回るんですね。5月20日はあいにく大雨で月を見ることができませんでしたが、さあ今夜は夜空に月を眺めることができるでしょうか。



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