歌を演じる人びと
「自粛」という名目の、世にも珍しい連休期間中からこっち、すっかり80年代音楽の魅力に取り憑かれてしまった私です。
なぜこんなに惹かれてしまったのか、、
改めて考えてみると、作り手それぞれが自身の仕事を全うし、次々とリレーしていく完全分業チーム制であること。各段階で垣間見ることのできるプロの技の数々とその集結。全体を通して感じられる壮大なプロジェクト性。そういったところにいちいち痺れて感動せずにはいられない…という感じでしょうか。
作詞、作曲、編曲、演奏、歌…各持ち場での仕事ぶりが素晴らしければ、リレーしていくその先でもそれらを受け止め応えていける奇跡の連鎖のようなものが起こるんですよね〜。
昨今の80年代音楽プチムーブメントのおかげで、そういった奇跡のようなエピソードをうかがい知ることができるようになり、何も知らずに聴いて、あ、いいな〜!と単純な好き嫌いで受け止めていた子どもの頃の感覚の答え合わせとか、分析のようなことができるようになった。そこが何だか快感なのだろうなぁ。。
知れば知るほど、80年代ポップスプロジェクトの壮大さや豊かさには驚き入ります。咲く華が巨大なだけあって、香りも超濃厚だし…!
80年代ポップスのポイントとしてもう一つ挙げるとしたら、1曲ごとに強烈に訴えかけてくるその物語性というのも特筆すべき魅力かと思います。
どんな季節に、どんなシーンで、どんな雰囲気の、どんな人(たち)…という事細かなお膳立てがあり、そのシチュエーションをトータルプロデュースして、しっかりと世界観を作り込んでいるような歌がほとんど、と言っても過言ではない気がします。同じ歌手が歌うとしても、シングルごとに衣装やメイクをがらりと変えて、その歌の主人公の姿を体現化して見せて(魅せて)くれていましたよね。
そういった観点で言えば、80年代の歌い手とは、歌を介してその物語世界へと誘ってくれる演じ手でもあったのだなと思います。
3〜5分程度の極めて短い時間の中で、いかに気持ちよく聞き手をその気にさせ、歌のそっち側に引きずり込むことができるか。私の中での「上手い歌手」とは、そういったことに長けている人たちのことだったんだな…と、今さらながら気づかされました。
私にとっては、“テレビの国の初恋の君”として、すっかりお馴染みな杉山清貴さんですが、上手い歌手と言って真っ先に思い浮かぶのは、やはりこの方をおいて他にはいません。
当時からその歌唱力のズバ抜け感は凄かったですが、やはりあの爽やかでいて色っぽい魅惑な歌声の主人公が、ルームナンバーを砂に書いたり、はじめから泣かせるつもりで呼び出したりするのを子どもながらにリアルに想像させてくれるところに、きっとゾクゾク来ていたのに違いない。。
オメガ時代の杉山さんのイメージとしては、運転席にいる彼女の夢だったり、暴走する恋心(彼自身には向けられていない…)を咎めたりせず、助手席から後押しするような、大人っぽくて去り際がきれいで涼しげな男という印象が一貫してあります。
一方、前回のnoteに引き続いてお名前を上げさせてもらいますが、もう自分でも怖くなるほど、急展開で沼化が進み、もはや容易には抜け出せないフェーズに至った感のある、池田聡さんの場合。
こちらもまた、とつけむにゃー歌唱力で聴かせてくれる歌い手さんなのですが、杉山さんと一線を画す(あくまで私基準で)ところは、まさに1曲1曲ごとに、雰囲気やイメージの異なる主人公を思い浮かべることができる…というほど、多彩な美声を聴かせてくれることだと思います。
艶とか濡れとかいう独特な表現で例えられることが多いこの方の歌声は、どんなに明るい曲調であっても、どこかにちらりとセンチメンタリズムや影の部分が潜んでいるかんじ。
演歌や歌謡曲あたりでもバッチリ通用するような男の恋心や情動的な恋歌を、ぐぐっとポップス・ソウル付近にまで引っぱって来てくれた日本のAOR功労者のお一人ではないかと、その濡れ声を浴びながら、心の中での表彰式が続いています。。
そう言えば池田さんは、役者としてのお顔もお持ちなので、演ずるための基礎体力を歌の中で身につけられたのではないかしら…などと勝手に想像したりもしています。
男性が続いたので女性のお話も。。
奇しくも、池田さんと「ザ・ベストテン」でお二人揃って登場された回の動画が上がっている薬師丸ひろ子さん(お二人ともまだ学生という初々しさでめっちゃかわいいので、未見の方はぜひ!)。
こちらは役者を土台としつつも、歌方面でも強力なベクトルを発揮され、今なおシンガーとして、ますますの魅力を発揮していらっしゃる。
薬師丸さんの場合は、主演映画の主題歌から歌手としての道が切り開かれたのだろうから、“歌を演じる”ということにおいては、まさにお手本のような存在です。
ご存知の通り、この方が80年代に聴かせてくれた主題歌やCMソングの数々は傑作ぞろい(作家陣もすごい)。
先日『Wの悲劇』がテレビ放映されていたのを見たのですが、最後にエンドロールと合わせて流れてくる主題歌『Woman “Wの悲劇”より』のドラマチックさには、うかつにも涙がこぼれそうになりました。。
この映画が劇中劇をモチーフにしていることもあり、ラストシーンの静香(ヒロイン役名)の静止画が、薬師丸ひろ子そのものの姿であるように錯覚して見えてくる…ところで、蕩々と流れてくる名曲『Woman』。映画と歌の最高な相乗効果を感じたひとときでした。
歌を演じるということ。これは歌づくりに関わった全ての人々が仕掛けた壮大なマジックであり、強力な魔法のようなものなのだと思います。そこにまんまとハマるのは気持ちの良いことで、それを当たり前に受けとめていた80年代は、思い返せば、本当に幸せな時代だったなーと思ったりします。
さて、今夜もまた、明かしても明かしきれないその驚くべきマジックと、強大な魔法の誘引力に酔いしれながら眠るとしましょうかね。。
(見出し画像は、私が80年代に使っていたと思われるSANYOのラジカセ[WU4MKⅢ]。2016年に開催された「大ラジカセ展」にて撮影させてもらいました。懐かしすぎて過呼吸になりそうでした)
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