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ベイグラントストーリーは「ベイグラントストーリー」としか例えようがない

大体1か月前ぐらいに私はタクティクスオウガを遊んだ。
そしてその勢いのまま伝説のオウガバトルまで遊んでしまった。

ならば次はどうするか?

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「ベイグラントストーリー」を遊ぶしかないッ!!


ベイグラントストーリーは2000年2月10日にスクウェアより発売されたRPGであり、既にこの時次世代機のPS2は発売1か月前まで迫っており、そんな初代プレイステーションの末期に彗星の如く現れたのがこのゲームだ。

テレビゲームにおいて、ハードの性能を完全に引き出したゲームソフトが登場するまでにはおよそ5年の歳月がかかると言われていたりするらしい。

そんな中、このベイグラントストーリーが発売されたのはPS1の登場からおよそ5年と2ヶ月。なので、ベイグラントストーリーはとても初代プレイステーションとは思えない…いやむしろ「これは本当にプレイステーションなのか?」と訝しんでしまう程プレイステーションの性能を余すところなく引き出した末期の超技術が続々と繰り出される。


まず、ベイグラントストーリーは「全編3Dフルポリゴンリアルタイムレンダリング」で構成されたゲームなのだ。そう、「全編」である。途中に挟まれるムービーだけフルポリゴンなのではなく、最初から最後まで頭の先からケツの穴まで「全編」フルポリゴンで作られている。

これがどれ程異常な事なのかというと、ベイグラントストーリーの5か月後に発売されたFF9ですらも「背景は2Dイラストでその上を3Dポリゴンのキャラが歩き回る」という方式を取っている。

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FF7~FF9までのプレイステーション期FFのゲーム画面を並べてみたが、どれも着実な進化を重ねつつもやはり全編フルポリゴンリアルタイムレンダリングには至っていない。

しかしこれはファイナルファンタジーに非がある訳ではなく、PSの時代に「フルポリゴンでゲームを作る」という事自体があまりに未知数な上に莫大なコストと時間がかかりとても現実的ではない話なのはゲーム開発門外漢の私ですらうっすら感じてしまう。


PS1の時代にフルポリゴンに挑戦する事の難しさについてはベイグラントストーリーのキャラデザも担当している吉田明彦氏の伝記的漫画でも語られているので、気になった方は是非そちらも見てみて欲しい。

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そして何と言ってもベイグラントストーリーの最も恐るべき技術は「作り込まれたカット割り」に尽きる。


近年の実写と見紛うPS4,PS5の超グラフィックに慣れているとポリゴンが若干見劣りしてしまうのは仕方のない事だが、この映画のような臨場感の鮮やかなカット割りに関しては令和のゲームにも負けず劣らずの仕上がりになっている。

背景が2Dに固定されないからこそ360度どの角度からでも抜く事が出来るフルポリゴンの強みを活かしたおしゃれカットの数々。

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ただでさえ未知数の全編フルポリゴンリアルタイムレンダリングで手間と労力がかかっているのに、そこに気合の入ったカット割りを入れる事でフルポリゴンの特性を完全に使いこなしている技術力に驚かされる。

でもこういう気合の入った作り込みって、終盤に行けば行くほど段々と質が落ちてきたりするっていうか、ぶっちゃけ「納期間に合わなかったんか?」と勘繰ってしまうようなギリギリ感が出てきたりするじゃないですか。そういうゲームって、よくあるじゃないですかッ!?

だがベイグラにそのような事は一切ない。


質が落ちるどころか、むしろ開発を進めている最中にどんどんスキルツリーが伸びてきたのか終盤に行けば行くほどこのゲームのフルポリゴンカットシーンの臨場感はどんどん増してくる。

上記の動画は特に私がお気に入りのシーンなのだが、もはやプレイステーションの限界を突破していると言っても過言ではない。てかこれ差し込む光の表現とかマジでプレステでどうやってんの???

スクエニさん、今からでもVAGRANT STORY REMAKE作れば結構行けるんじゃないですかね?



しかし、しかしッ!
私がベイグラントストーリーで最も語りたい部分はここではないッ!!

ベイグラントストーリーを最も「ベイグラントストーリー」たらしめている要素ッ、それこそが独特を極めた戦闘システムッ!!!


フルポリゴンで描かれた主人公のアシュレイ・ライオットが多種多様な武器を手に呪われた魔都レアモンデを探索するゲーム画面はパッと見ダークソウルやブラッドボーンのようなアクションゲームに見えなくもない。

しかし全く違うッ!


いやこれ、どう説明したらいいんですかね?
皆様にベイグラントストーリーの面白さを分かってもらいたくてこの記事を書いていてそのために面白く・端的に・分かりやすくベイグラの戦闘システムを説明するべきなのですが、これが何とも難しいッ!
どうしたら、俺はどうしたらいいんだッ!!

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……と管を巻いていても仕方がないので頑張って説明すると、まずこのアシュレイを中心に発生している緑のアミアミが攻撃範囲となっている。この領域に踏み込んできた敵を攻撃出来て、ここのレンジは片手剣であれば短く、アシュレイの身長ほどある大剣ならばそのリーチ通りレンジも広がる。

このレンジ内に敵が踏み込むと表示されるのが「敵の各リム」である。
「ただ単純にボタンを押して剣で斬りつけるだけのゲームなど面白さの欠片もないンだよッ!」と言わんばかりにこのゲームはリムと呼ばれる敵の部位のどれか一つを選んで攻撃する事が要求されるのだ。

もう予測が付いている方も居るかもしれないが、右腕・左腕・頭・足…の各部位に「敵のHP」とは別に「各部位のHP」という物が存在している。
右腕のHPが60に設定されていたとして、右腕に集中砲火を浴びせれば敵に「部位破壊」が発生。

例えば右腕を破壊すれば敵に「アタック50%ダウン」の効果が発動したり、頭を狙って頭部のリムを破壊すれば「魔法詠唱不可」の効果が発動する。

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FFTの機工士が持っていた「○○を狙う(敵の各部位にピンポイントで攻撃を与え各部位に対応した封印効果を付与する)」という技がそのまま戦闘システムの主軸に組み込まれたようなシステムみたいなものだと思っていただければ問題ない。

画面下部の「右腕 HP49/96%」の表示は予測されるダメージ量と命中率を表している。ここで最も恐ろしいのが、この予測ダメージ量と攻撃の命中率は先程紹介した「各リム」によって変わってくるのだッ!

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この辺りの細かい耐性の情報はアルティマニアに載っているッ!
というかもう後半からはほとんどこのアルティマニアの耐性表とにらみ合いながら敵と戦っていたし、ここまでの情報は何とネットの攻略サイトにも細かく書かれていないため大インターネット時代の令和で「攻略本必須」となっているのがベイグラントストーリーの恐ろしさッ!

例えばこのドラゴンは全体的には「貫通属性」の攻撃が通りやすくなっているので、セオリー通りにやれば貫通の武器で攻撃するのが安牌と言えるだろう。しかし「尾(TAIL)」のリムに注目して欲しい。何とこの部位だけ「切断属性」が遥かに通りやすくなっているではないかッ!

つまり「貫通属性よりも強い切断属性の武器を持っているのであればそれで尻尾を狙うのもアリ」という、この時点でモンスターハンターのようなシステムが成立してしまっているッ!


後半からはアルティマニアと常ににらみ合いながらゲームを進める事となる…と言った通り、後半に登場するモンスターはどの武器のタイプ(切断・貫通・打撃)が通りやすいか、どの属性(風・火・土・水・神聖・暗黒)が弱点なのか、これを把握しなければ「右腕 HP0/98%」と攻撃は当たるけどダメージが一切通らずそもそも勝負が成立しない状況に追い込まれてしまう。

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続いてはラストダンジョンに登場するボスの一体でもあるイフリート。
流石にもうラスダンというだけもあってステータスは高く、地道に一桁台のダメージを与えてじわじわ追い詰める長期戦なんかを仕掛けた日にはこっちが消し炭にされてしまう。

パラメーターを見ればわかる通りコイツに正攻法でダメージを与えるには「打撃属性の武器+水属性」で殴る必要がある。しかしこのゲームは元々武器に水などの属性が付与されているパターンはかなり少ない。

ここで役立つのがアクセサリーと秘石ッ!

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私はどちらかというとゲームで敵に合わせて装備をコロコロ変えるのが面倒なのであまり好きではないのだが、ベイグラントストーリーはそもそもガッチガチに特攻を固めなければ勝負が成立しない。

モンハンで言う所の護石の役割を果たすアクセサリーで水属性を強化ッ!モンハンで言う所の装飾品の役割を果たす秘石で水属性を更に強化ッ!

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更に魔法で水属性強化バフを盛るッ!しかもこれだけだと微妙に足りないので更に更にSTR強化バフと装備強化バフ、更に更に更にイフリートにSTRダウンデバフをかけてやっと初めて楽勝になるぐらいなのだッ!

改めて列記すると「打撃属性武器+水属性アクセサリー+水属性秘石+水属性強化バフ+STR強化バフ+装備強化バフ+STRダウンデバフ」という一流シェフもひっくり返る物凄い工程の下準備を重ねているッ!!

そしてラストダンジョンではこういう属性特攻をガチガチに固める必要のあるボスが何体も湧いてくるため、ゲーム本体の倍の値段(中古のベイグラ500円、アルティマニア送料込みで1000円)がしたアルティマニアは酷使に耐え切れず自壊し始めてしまった。

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これまで説明したようにベイグラントストーリーは画面はどう見てもアクションなのだが、実際に触るとその中身はかなりシミュレーション要素が強い。敵の部位と命中率を考えながら敵に応じて特攻を固める事がほぼ必須となってくる手触りはまさに「戦う前の下準備で決着をつける1対1のSRPG」と言っても過言ではない。


いや……流石にそれは過言である。
「なんなんだよッ!」と読者の皆様からブレイクアーツが飛んできそうですが、このゲームはアクションゲームに見えて実際はアクションゲームじゃないようで割とアクション要素もあるのですッ!

こっちだって「🤔」の顔したいよッ!
でも言いましたよねッ!?ベイグラの全てを説明するのはとてもじゃないが人間一人にはあまりに難しいとッ!


そう、このゲームには「チェインアビリティ」というシステムが存在する。アシュレイの攻撃モーションに合わせてタイミング良くボタンを押すと追加攻撃が発生。更にその追加攻撃のモーションに合わせてタイミング良くボタンを押すと2度目の追加攻撃が発生。

もう説明しなくても分かりますねッ!?

つまりこのゲームはチェインアビリティを覚えてタイミングさえ完璧に掴んでしまえば10連撃だろうが99連撃だろうがいくらでも繋げられるのです。要はさっきあれだけバフを盛りに盛ってやっと倒したイフリートも、テンポ感が身についている人が永遠にチェインを繋げれば別にあそこまでしなくても余裕で倒せてしまうのです。

何だこの身も蓋もないシステムはッ!?



このようにベイグラントストーリーは「1対1で戦うSRPG」のような緻密な要素と「テンポよく入力してチェインを繋げる」アクション要素が合体した結果もう「ベイグラントストーリー」としか言いようがないゲームになっているッ!ベイグラントストーリーをどう「ベイグラントストーリー」以外の言葉で例えたらいいんだッ!


もうこれ以上細かく説明していると本当にキリが無くなってしまうのでかいつまんで他の要素を上げていくと「攻撃すると数値が減少して修理すると数値が回復されているDP」と「攻撃すると数値が上昇して修理すると数値が減少するPP」や…

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「素材が違う同じ武器種を掛け合わせるとワンランク上の武器が出来る」という合成システムなど、掘れば掘る程ベイグラントストーリーの深淵は魔都レアモンデの如く広がっているッ!

これらの要素を極める事で何と「一度足りともセーブせずにゲーム開始からラスボスまで駆け抜ける」や「1周を1~2時間でクリアする」などのイカれやり込みプレイなども可能になっている………らしい。


私の説明のせいで「ベイグラントストーリーは難解なゲーム」という印象を持たれてしまっているかもしれない。

しかし私はこのFF8などを筆頭にしたPS期スクウェア特有の難解さがたまらなく好きなのだ。何故なら私はベイグラントストーリーより後に生まれているから、当然のようにプレイステーション時代のゲームの空気なんか知る訳がない。だからこそ、全く知らない「異様な空気と異様な熱意」をPS期のスクウェアからはビンビンに感じてこっちも何かが刺激され熱くなってくる。

ベイグラントストーリーはまさにそんなPS2へと世代交代が果たされる時、PSが見せた最後の輝きのようなゲームなのだろう。こうして後年改めてベイグラントストーリーを触った時にも、その「世代の過渡期」という特殊な環境によって生み出されハードの限界を引き出したゲームに触れ当時の熱気を感じ取れるのは、とても楽しくて喜ばしい事なのだと私は思う。


そしてそのPS期スクウェアと戦うために絶対になくてはならない存在がアルティマニア。

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どちらかというと私は物心ついた時にはインターネットが普及していたため攻略サイトが主流で、だから「分厚い攻略本と睨み合いながらゲームを進める」なんて経験があんまりなくて、今令和の世に改めて索引からページをめくって目当ての情報を見つけて攻略を詰めていく体験まで含めてベイグラントストーリーがめちゃめちゃ楽しかったのです。プレステ期に生まれてもいないのに、まるで当時に帰ってゲームを遊んだような、不思議な気持ちが今も私の中に残り続けています。


だからこれからベイグラを遊びたい人は、アルティマニアも忘れずに冒険に連れて行って下さいね!


オレがベイグラを勧め、貴様はベイグラを遊ぶ。

オレは兎で、貴様は狩人ってわけだ。