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伝説のオウガバトルは遊び方そのものがストーリーに組み込まれるのがヤバい


RPGにはどうしてもパージ不可能な部分として、「事前に決められたストーリー」と「プレイヤーが遊ぶ部分」が存在する。

前者の事前に決められたストーリーは細かいルート分岐が無ければ100人遊んで100人同じ道筋を辿る事となる。

しかし、後者の「プレイヤーが遊ぶ部分」は、ゲームが多くの人に遊ばれれば遊ばれるほど多種多様千差万別に変化していく。

ポケモンで例えると、「バッジを集めてチャンピオンに挑む」という大筋は全員が同じ辿り方をするものの、そのバッジを集めチャンピオンに挑むまでの道筋でニャースを捕まえる人も居ればピカチュウを捕まえる人も居るし、もしかしたらパッチールだけで殿堂入りを果たしてしまう人も居るかもしれない。



この「決められたストーリー」と「プレイヤーが遊ぶ部分」を上手く嚙合わせる事に全世界のRPG開発者は日夜悪戦苦闘を繰り広げているのだと、ゲーム開発に1ミリも詳しくない私ですら何となく察しが付いてしまう。

例えばFF6のラストバトルでもあるケフカ戦では、何と約18分にも及ぶ「妖星乱舞」という植松伸夫渾身の名曲が流れる。


ケフカ戦は全部で第4形態に分かれており、妖星乱舞もその形態変化に合わせて第1楽章、第2楽章、第3楽章、第4楽章…と変化していく圧巻の演出。

しかし!しかしだ!!
FF6をやり込んだ事がある方なら薄々察しが付いてしまうかもしれないがこの妖星乱舞をフルで堪能する前に大体ケフカは瞬殺されて「あれ!?もう終わり!?」と困惑してしまうパターンが往々にしてある!

これにはFF6の味方キャラの異様なパワーインフレがあり、ラストバトルのために各地を回り、4回攻撃が発動する「かいでんのあかし」に武器を2つ装備出来るようになる「げんじのこて」を合わせて計8回攻撃を繰り出すインチキ野郎ロックや、魔法を2回唱える事が可能になる「ソウルオブサマサ」を装備してアルテマを2発ぶち込み9999×2を容易に叩き出すジェノサイダーティナなどを完璧に揃えた状態でケフカに挑むと18分どころか3分かからずにケフカ戦はあっさり終了してしまう!



他にもFF13では、「それぞれのキャラクターに自由にロールを3つずつ割り振り戦闘中にリアルタイムにロールをコロコロ変えていく」というかなり面白そうな戦闘システムを採用している。

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しかしFF13はストーリーの都合上仲間がめっちゃ喧嘩してめっちゃ仲間割れした結果ゲームの後半に突入するまで「メンバーが全員集合している」状態がほぼ無いという恐ろしい事態が発生。

この仲間割れっぷりによりFF13の戦闘システムの面白さはかなり後半まで遊ばなければその真価を中々発揮しなかったりする。

これは先程の「決められたストーリー」を「プレイヤーが遊ぶ部分」が破壊してしまうケフカ戦とは逆に、「プレイヤーが遊ぶ部分」が逆に「決められたストーリー」に左右されてしまうパターンだと思っている。


しかしこのストーリーに対しての遊び方によっていくらでも無法を働きいくらでもゲームを破壊出来る事自体が同時にRPGの最も面白い部分でもあり、この遊びの自由度の高さがあるからこそ度を越したやり込みプレイやリアルタイムアタックなどがRPGジャンルで盛んに行われているのだとも思う。

「ストーリー」に対して「プレイヤーの遊び方」を想定して上手く嚙合わせるのはRPGで最も難しい部分であり、同時に最大の武器でもある。



しかしッ!

今回私が遊んだ「伝説のオウガバトル」はそこが違うッ!!

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「伝説のオウガバトル」は1993年3月12日にクエストがスーパーファミコンで発売したリアルタイムストラテジーシミュレーションRPGッ!

敵味方のキャラクターがリアルタイムで盤面上を動き回るスーファミとは思えぬ程のRTSとしての完成度も半端ではないのだがッ、今回紹介したいのはその伝説のオウガバトルのストーリーを大きく左右する「カオスフレーム」と「アラインメント」の部分だッ!!


この伝説のオウガバトルは何と全14種のマルチエンディングシステムを採用しておりッ、その中でも最も良いエンディングであり次回作のタクティクスオウガに繋がっていく正史エンド、通称「ワールドエンド」を迎えるには大きく分けて5つの要素が重要になってくるッ!!

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・三神器の所持
・十二使徒の証を全て所持
・仲間にトリスタンが居る
・仲間にラウニィーが居る
・EP(特定アイテム所持数+オピニオンリーダーのアラインメント+カオスフレーム)の数値が125以上

…の5つによってエンディングが判定されるのだが今回注目して欲しいのはこの5つ目の「EP125以上」の部分ッ!


簡単に言うと「アラインメント」とは主人公の善悪を表す指標となっているッ!一言で言うと簡単ではあるがこのアラインメントが中々の曲者要素ッ!



そも伝説のオウガバトルのアラインメントの高さがどのように変化するのかというとッ、敵を倒した時に自分と敵のALI(アラインメントの略)の数値の差で変動するシステムになっているッ!

もっと細かい式で表すと「自分のALI-敵のALI=N」のNをAに変換しッ、

N=31以上    → A=+3
N=21~30   → A=+2
N=11~20   → A=+1
N=0~10    → A=±0
N=-1~-10  → A=-1
N=-11~-20 → A=-2
N=-21以下   → A=-3

そのAの数値を使って「A+(敵のレベル-自分のレベル)」でALIの変動値が求められるシステムになっているッ!伝説のオウガバトルの話を見に来たはずが複雑な計算式を見せてしまって申し訳ないッ!!

まあ要は「自分よりも性格が悪くて自分よりもレベルが高い奴を倒すと周りに良い奴だと思われる」「自分より性格が良くて自分よりもレベルが低い奴をボコっていると周りに弱い者イジメの最低ゴミカス野郎だと思われる」という事なのだッ!!
な、なんて生々しいシステムッ!!!

「周りにどう思われようが知ったこっちゃないッ!オレたちに必要なのは思想じゃない!食いものや寝るところなんだッ! それも今すぐになッ!!」と義憤に駆られたくなる気持ちもよく分かるのだがッ、このALIが低いと本来であれば加入するはずのキャラクターも加入せず必然的に難易度が跳ね上がりッ、当然ながら最高のエンディングを迎えるどころか最悪のバッドエンドを迎える羽目になってしまうッ!

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「じゃあどうALIを保ったままエンディングまで行けばいいんだッ!性格の良し悪しをこっちで判断してピンポイントで敵を倒すなど、神はそのようなことをお許しにはならない!なるはずがないッ!」と今すぐにでも骸旅団に加わりたくなる気持ちもよく分かるのだがッ、ここでまず先に「カオスフレーム」の解説をさせて欲しいッ!!


カオスフレームとは簡潔に説明すると「反乱軍(主人公チーム)に対する民衆の支持率」を表す数字の事だッ!

このカオスフレームがゲーム内で変動する瞬間は先程のALI以上に多数存在しておりッ、一番身近なのは都市解放の時ッ!

正確な式は「 (ユニットのALI平均 - 都市モラル - |ユニットリーダー相性-都市好意度|) / 20」となっているのだがッ、まあ正直細かい部分まで気にすると流石にやってられなくなるので大体は「ALIが高いユニットで都市を開放するとカオスフレームが上昇する」と思っていただければ問題ないッ!


そしてここでも「ALI」が出てきたことから薄々察しが付くように、ALIが高いユニットで解放すると「キャ~❤あの品行方正頭脳明晰立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花救世主ジスロマック様よ~❤❤」と民衆からの好感度が上昇し、逆にALIが低いユニットで解放すると「チッ…あの性格最悪ジスロマックがウチのシマ荒らして偉そうにしてんじゃねえよ…地元に帰れや…」と民衆からの好感度が下がるようになっているッ!

しかしちゃんとカオスフレームが上昇するのは正にここの都市解放ぐらいなもので(一応タロットによる上昇などあるのですが面倒なので割愛ッ!)、他には「カオスフレームが下がるシチュエーション」ばかり待ち受けている事の方が多いッ!

例えば自分が一度解放した都市を逆に相手に奪われると「解放軍ヅラして何都市奪わてちゃってくれてんの…こっちだって生活があるんだから振り回さないで欲しいんですけど…もう次の選挙は帝国軍に入れよ…」とでも言わんばかりにカオスフレームが「-5」も下がるッ!

これがどれほど絶望的な数字なのかと言うと、桃鉄でキングボンビーに70億持っていかれたレベルの即徳政令カード必須な大損害なのであるッ!!

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他にもクリア期限の超過でカオスフレームはー1、クリア済みステージで1日経過して収支を得るとー1、何か他にも悪そうな商人と取引したり悪い魔女に情けをかけて生き残らせると逆にカオスフレームが下がったりするッ!

ゲーム内で釘を刺すかのように「民衆はあなた達の事をちゃんと見ていますからね」と何度も言われるのだがッ、正にプレイヤーの一挙手一投足が民衆に見られ続けているッ!俺は生まれ変わっても政治家には絶対なりたくないぜッ!!


正にカオスフレームを下げるのは簡単(民衆からの支持を下げるのは簡単)、カオスフレームを上げるのは難しい(民衆からの支持を獲得するのは難しい)…とシステムそのものが伝説のオウガバトルのゲーム性を物語っているッ!

当然のようにカオスフレームも先程のALI以上にエンディング以外のストーリーに関わってくるッ。というかカオスフレームが低いとベストエンディングに必要なキャラがそもそも仲間にならなかったりもするッ!!

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つまり伝説のオウガバトルで真のベストエンディングを迎えるためには、「自分よりも性格が悪く自分よりもレベルが高い相手に果敢に挑みながらALIを保ち、RTSで一手足りともミスを犯さず完璧にカオスフレームを維持し続ける」というスタイルを最後まで貫かなければならないッ!!!


…どう考えても無理だッ!

いやまあ頑張ろうと思えば正規の方法でベストエンディングを迎える事も不可能ではないのだろうが恐らく膨大な時間がかかる上に難易度も尋常ではなくゲームをクリアする前にこちらの神経が焼き切れてしまうッ!!


自分よりも格上の相手と戦いALIを保たなければいけない、しかし格上の相手と戦ってばかりでは雑魚の進軍を許し都市が奪取されカオスフレームが低下する。ならばと雑魚を徹底的に食い止めカオスフレームの維持に走ればALIがどんどん下がる。

ではどうするかッ?

僕にこの手を汚さなければいいッ!!!



伝説のオウガバトルにおいて最善手とされてきた攻略方法、その戦法の名は「死神部隊」

その実態とは「雑魚をひたすら狩り続ける敵殲滅用のユニットを用意する」という至ってシンプルな戦法であるッ!

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「真っ先に敵陣地に突撃して攻め込んでくる敵を全て薙ぎ倒す」の役割以外が存在しないためとにかく強いユニットをかき集め最強の部隊を作り出してそれを敵陣地に送り込むッ!そうするとどうだろうかッ!?

さっきまであれほど難しかった伝説のオウガバトルがかなり楽に進められるのだッ!この死神部隊が前線で暴れている内に他の部隊は都市の解放に専念するッ!!こうすれば敵との無用なALIも下がらないし都市も奪取されずに安全にカオスフレームを維持する事が可能ッ!!!

ベストエンディングに必要な条件は「“主人公”のアラインメント」なので、主人公ではなくそれ以外のユニットのALIがどれだけ低かろうと実は関係ないのだッ!!


しかし死神部隊には絶対に気を付けなければならない事が一つだけある。

それは「死神部隊には絶対に都市を解放させてはいけない」という事だ。
先程都市解放時のカオスフレームの変動計算式を書いた通り、都市が解放された時のカオスフレームの計算は「ユニットのALI」に依存する所が大きい。

死神部隊は敵の殲滅に特化するため当然の如く全ユニットのALIは「0」となってしまう。つまり死神部隊で都市を解放すると「ヒッ……あれってひたすら虐殺してるって噂の死神部隊でしょ…?」と逆にカオスフレームが急降下してしまうッ!

だから死神部隊に敵の殲滅を任せその隙にALIの高いユニットが「はーい町のみなさん性格の良い私がこの町を解放しに来ましたよ~~~ッ!!」と死神部隊など無かったかのような何食わぬ顔で都市を解放していけばカオスフレームは安全に保たれるッ!


……………もうお気付きかもしれないが、本来ならばゲームを破壊してしまいそうな攻略方法であるはずの死神部隊が、「ALIとカオスフレームを保ち完璧な名将軍として君臨し最高のエンディングを迎えた裏側では、ひたすら敵を虐殺し続ける死神部隊が居た」とまるでストーリーであるかのように物語性が成立してしまっているのだッ!!!!!

ここに来て日和っているようでダサいが私が当時クエストに就職していたはずもないので制作陣は本当に死神部隊の攻略方法がいずれ確立される事を見越していたのかどうかは全く分からないッ!しかしもしこれを全て見越した上で作っていたとしたら………あまりに天才過ぎるッ!!


しかも「ALIが0の死神部隊には都市を解放させない方がいいからALI高めの主人公辺りで都市を解放した方がカオスフレームの維持に有利」というシステムを突いた攻略方法も「解放を今か今かと待ち望んでいる民衆には死神部隊などの汚い部分を見せず、大して戦闘力も高くない神輿に担がれたALI高めの英雄を看板として見せつけながら町を救っていく」とまるで伝説のオウガバトルがそういうシナリオであったかのように吸収されてしまうッ!!!

紹介してこなかったカオスフレーム&ALIの稼ぎ方の一つとして、「本拠地で待ち構えるボスをあえてレベル低めの主人公で倒す」という小技が存在するのだが、こちらも「敵が送り出してくる雑魚は全て死神部隊に殲滅させ、相手の兵糧が尽き敵の総大将1人になった所を反乱軍の英雄が討ち取って民衆の好感度爆上がり」的なストーリーとして成り立っているのが恐ろしいッ!


本来嚙み合わせるのが難しそうな「決められたストーリー」に対する「プレイヤーの千差万別多種多様な遊び方」が、伝説のオウガバトルでは遊び方そのものが「伝説のオウガバトルのストーリー」として成立してしまっているのだッ!!!!

恐ろしいッ、本当に恐ろしいゲームであるッ……


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ゲーム終盤、あるマップのボスが「よいかッ。歴史は貴様らのような勇者ヅラをした奴等が作ったのではない。我らニンジャが、歴史を生み出してきたのだッ!」という迫真のセリフを吐いてくる。

普通のゲームならばそこまで大したことはないセリフなのだが、この伝説のオウガバトルにおいてはワールドエンドを迎え輝かしい歴史を作るため自分の手を汚さず死神部隊に頼ったプレイヤーにぶっ刺さるような物凄いセリフに化けてしまっている。

いや、むしろここもある程度死神部隊の存在を見越した上で書かれたセリフなのか…?

まあここまで色々と書いてきたが、「伝説のオウガバトルは死神部隊の存在を見越してこういうシステムを作った」という確定的な情報は何もなく、あくまで私が勝手に「こうだったらすごくない!?」と言っているだけなので、基本的に話半分に聞いておいて欲しいッ!

今回はあまり紹介出来なかったが伝説のオウガバトルはシステム面だけでなくキャラクターや音楽、何よりリアルタイムストラテジーとしての面白さも存分に兼ね備えた名作なので是非遊んでみて下さいッ!


伝説のオウガバトルは各種プラットフォーム…………っていや一番新しい現行ハードでプレイできるのがWiiUのVC版とNew3DSってどういう事やねん!?
プ、プレイの敷居がここで気軽に勧めるにはそこそこ高いッ!!

任天堂さん、スーファミオンラインに伝説のオウガバトル追加のご一考、どうかよろしくお願いします。