「好意由来の敬称略」という発明

まずはこのツイートを見てください。

これは、アニメ「映像研には手を出すな!」(NHK総合)のOPテーマ(「Easy Breezy」)を担当していることでも有名な2人組ラップユニット、chelmicoのRachelさんのツイートです。

彼女は宇多田ヒカルさんのファンで、その思いが溢れて上のようなツイートをしたのだと思われますが、注目してほしいのは、

(好意由来の敬称略)

という部分です。いいですかみなさん、この注釈は発明です。

「好意由来の敬称略」とは、つまり、ファンとしての「好き」という感情による愛着を持った呼び捨てであり、決して客観的な意味やネガティブな意味での敬称略ではないということを表しています。

みなさんも、普段は呼び捨てにしている好きな芸能人やアーティストについて、ある程度かしこまった場所などで「○○さん」と敬称をつけて話すとき、違和感を持った経験ありませんか? 別にその対象人物が目の前にいるわけではないけれど、なんとなく失礼にならないように敬称をつけているときありませんか?

僕は今まさにその状態です。僕もRachelはRachelだし、宇多田ヒカルも宇多田ヒカルと普段は言っています。しかし、不特定多数が見る場ではある程度フォーマルな形を心掛けているので、敬称は略しませんでした。でも、ただ「好意由来の敬称略」と付け加えるだけで、呼び捨ての真意が明確になりませんか? これは凄いです。

このツイートを初めて見た時、Rachel(好意由来の敬称略)があまりに自然に使っているので、一種のネットスラングかと思いTwitterで検索したところ、このツイートとそれを引用リツイートした2件だけでした。やっぱりRachel(同)の大発明だったんです。これほどまでの明確な言語化はもはや美しいです。ちなみに僕は犬派です。

(以下、好意由来の敬称略)

同じくヒップホップユニットで、毎週火曜日深夜の「Creepy Nutsのオールナイトニッポン0」(ニッポン放送)を担当しているCreepy NutsのR-指定とDJ松永。彼らのラジオは基本的に「好意由来の敬称略」で構成されています。実際に関係のある先輩ラッパー(般若、Zeebraなど)などは、ちゃんと「さん付け」していますが、例えば、女性芸能人を話題に挙げるときなどは基本呼び捨てです。

簡単な例:「松永、お前、女優やったら誰がタイプ? 俺は断然、吉高由里子」「R全然わかってない……これは絶対、綾瀬はるか」

レギュラーになる前の単発放送ほどこの傾向は顕著だった記憶があります。その単発放送が好評だったのを受けて、レギュラー化したわけですが、彼らのラジオでの面白さは、この要素があるんだと思います。

ラジオはテレビと比べて、パーソナリティとリスナーの距離は近く感じられます。リスナーは普段、好意由来の敬称略をしているわけですから、「あちら側」のパーソナリティが同様に好意由来の敬称略で芸能人についてのトークを公共の電波に乗せると、リスナーから見て、両者の距離感はさらに縮むわけです。

2人のトークも、好意由来の敬称略だからこそ、仲のいい友人の無駄話のような軽快さがあるんだと思います。

最初に「好意由来の敬称略」という注釈をつけて、臆することなく普段通り呼び捨てした方が、その対象への愛は話す相手には伝わりやすいのだと僕は思うのです。

だからこそ、この言語化をしてくれたRachelを個人的にずっと称えていきたいし、バンバン「好意由来の敬称略」をしていきたいです。

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