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愛しい腫瘍

愛しい腫瘍

右卵巣の腫瘍摘出手術をした。
小さい子のこぶしくらいの腫瘍。

担当医に頼んで見せてもらった画像。
一見グロテスクな形相だけど
愛おしくて涙が出た。
もう一度お腹に戻して、ゆっくり元に戻してあげたいという衝動も起こったくらい…

人間は60兆個の細胞から出来ていて、正常な細胞には自滅するプログラムが埋め込まれている。時期がきたらちゃんと自分で死ねるようになっている。

がん細胞はそのプログラムを与えられていない。細胞分裂のときにプログラムのコピーミスをされて生まれた細胞なのだ。
通常、こうした細胞は警察部隊(免疫細胞)によってすぐに発見され死滅させられる。

(私の身体の警察部隊は、乱れた生活習慣で完全に弱っていたので、見つけてあげることも消してあげることもできず、存在を無視し続けてきたわけだ。)

がん細胞は、ミスで生まれ誰にも気付いてもらえず、自分では死ねないから増えるしかなく、自分で暴走を止められなくなった細胞なのだ。

私の腫瘍は、何十年もの間、私の不摂生に黙ってじっと耐え続けてきてくれた。その我慢が限界に達し、爆発したのが5月26日の朝だった。あの激痛が何十年間の怒りだったかと思うとその物語に心が痛む。

取り出した腫瘍に
「早く見つけられなくてごめん。耐えててくれてありがとう。もう大丈夫だけんね。」と声をかけた。

お医者さんは不思議そうに見ていたけど、

赤紫の腫瘍も安心した顔をしたように見えた。


忘れないための覚え書き  2020.6.21





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