手紙

話したいこと、たくさんあったんだ。
今日も話したいことをたくさん用意してきたんだけどさ、顔を見たら言葉が全然出てこなかったな。花を手向けるときも、火葬場で最後の挨拶をするときも、「まさか、君の葬式のために喪服を仕立てるとは思わなかったよ」って、一言冗談を言うつもりだったんだけれど、だめだったな。

伝えたいこと、伝えないときっと後悔すると思ったから、今こうして手紙を書いています。

昨日の昼過ぎにもりにぃから電話がかかってきたとき、最初は間違い電話だと思った。ライブの打ち上げで待ち合わせるわけでもないのに、電話がかかってくることなんてほとんどなかったから、どうしたんだろうって。
仕事が一段落してLINEを開いて、たまげたよ。どう受け止めればいいのか全然わからなくて、ようやく「え」って一文字を絞り出して送信ボタンを押したら、すぐに電話がかかってきて。いつものもりにぃと声色がぜんぜん違うから、「あぁ、嘘じゃないんだな」って思った。

それから、急いで喪服を仕立てに行った。ブラックスーツは持ってたからそれでもよかったんだけどさ。でも、自分にできる目一杯で、君を弔ってやりたかったんだよね。それなら、ちゃんとした喪服で行かなきゃって。
お店では店員さんがたくさん説明してくれたけどよくわからなくて、結局一番黒いやつを買ったよ。そっちのほうが喪服らしくて、ちゃんと弔えるかなって思って。よくわかんないけど、喪服は黒いほうが偉いらしいんだ。
ちなみに、今まで買った中で一番高い服だった。服なんて、恥ずかしくなければなんでもいいと思っている俺に、君は一番高い服を買わせた男だ。自慢していいよ。

眠っているような眠っていないような夜を過ごして、朝、葬儀場に向かっているとき「やっぱり冗談なんじゃないか?」って思えてきた。だって2年くらい会えていなかったから、俺を呼び出すならこのくらいしなきゃって、誰かが悪巧みしたのかなって。
でもね、それもいいなって思った。むしろばっちりすぎるくらいキメてきたから、ひと笑い取れるかもなぁって。それでいつもみたいにひとしきり騒いで、バカみたいなこと言って、たくさん笑って。結婚祝いも贈ってあげられなかったから、ケーキでもステーキでも、なんでもごちそうしてやるくらいの気持ちだったよ。
そうであってほしかったんだけどな。葬儀場に着いたらみんなうつむいててさ、話が違うよな。


同い年で、同じくらいに結婚したから、悩みごととか考えていることが、似てて。だから、友達というより、戦友みたいに思ってた。君が頑張ってるところを見て俺も頑張るぞって気持ちになってたし、困ったことがあったら力になりたいっていつも思ってた。俺は力になれただろうか?

集まるたびにみんなでどんちゃん騒ぎして、ゲームして、本当に楽しかったな。大人になってから仲良くなったのにまるで学生みたいにバカみたいなことばかりして、たくさん笑って、みんなも笑ってくれて、幸せな時間だったよ。
でもね、ここだけの話なんだけど、夜も更けて一人ずつダウンしていって、最後まで生き残った何人かで真面目な話をする時間が、実は一番好きだったんだ。君が借り物の言葉や考えじゃなく、自分の言葉で話してくれるのが嬉しくて、眠そうな顔をしていても気づかないふりしてたくさん話しかけてた。そういえば、奥さんに内緒でタバコを吸っていることを教えてくれた時、打ち解けた気がして嬉しかったな。

だから、今度会ったら話したいなって思ってたこと、いっぱいあったんだ。君ならどう感じるのか、教えてほしいことが山ほどあった。逆に、君のこともたくさん聞きたかった。

もうできないのが、悲しいな。

今だから言うけれど、ライブの打ち上げのたびに「朝まで飲み明かそうぜ」って言っていたのに、いつだって俺より先に帰ってしまって、ズルいなって思ってた。「約束が違うじゃないか!」ってほんのちょっと怒ってた。
でも、そりゃそうだよな。俺はほとんど酒が飲めないから烏龍茶片手に管を巻いていたけれど、君は度数の高い酒ばっかり飲んでたんだから、フェアじゃないよな。

あのさ、今度は俺もちゃんと飲むからさ、一回くらい朝まで飲もう。それで、頭が痛くて吐きそうで、最悪な気分になろう。ちっとも気持ちよくない朝日を一緒に見よう。面白い話、真面目な話、たくさん用意しておくからさ、そっちの話も聞かせてくれよな。


「よこちゃんはすごいな」「おもしろいな」って、たくさん褒めてくれてありがとうね。いつもむず痒くなって、照れ隠しで冗談ばかり言ってしまってごめんよ。
友達になれて光栄だった。幸せな時間をありがとう。またね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?